――酒場内、倉庫。
――酒場内、倉庫。
ミリーナの人使いの荒さは
半端ないっす。
見るからに重そうな酒樽を、日頃鍛えている馬鹿力で一人抱えるハル。
探索が休みの日は、鍛錬だとか特訓だとか調子の良い事をミリーナに言われてコキ使われている日常の風景だ。
でも、この労働の後の麦酒が
たまんなく美味いんすよねぇ。
やはりこれもミリーナの入れ知恵で、対価のない労働をさせる為に吹き込まれた考え方だ。それを実に楽し気に口にしながら、重い酒樽を持ち、厨房横のスペースに向かっているのだ。
ほんとですって。
いくらなんでも早すぎないか?
この倉庫は従業員の休憩場と隣接していた。夕刻を迎え夜の繁忙時の前に一休みしている料理人の声が、ハルの耳にも聞こえてきたのだ。
マブダチなんすよ、その職員。
だから一緒に昼食った時、
教えてくれたんすよ。
まぁ、アイツ等
何気に有名だからな。
有名人?
そうゆう話、
皆好きっすね。
ハルは酒樽を一旦地面に置き、両手を休ませているところだった。
そうっすね。
ルーキーの頃から
探索スピードはピカ一だし、
癖のある奴等も多いけど
全員無事でしぶとく
成長していますもんね。
そうなんだよ。
あいつらマジで凄いと思うぜ。
そう語る料理人は実に嬉しそうにしている。その噂の冒険者達に好意を寄せているのは間違いないだろう。
おっ!?
冒険者の話だったんすね。
自分てっきり料理人の話かと
思ってたっすよ。
一見強そうに見えない奴も
ちらほら居るのに
なかなかどうしてな感じすよね。
俺が料理の具の質と量を
UPさせてやってるからな。
どうも最近上質の肉の減り方が
おかしいと思ったら
そうゆうことだったんすね。
俺等にはそれぐらいしか
できねーだろ。
チキンカクテルレースで
息抜きしてもらうとか……
はっはっは。
だけどあいつらは
息抜きでもプロだぜ。
俺達が相手しなくても
勝手に騒いでやがるって。
まぁ、
次は絶対負けないっすよ。
そういえばこの人達、
地獄四天王っすね。
自分達意外にも
地獄四天王を倒した人が
居るんすねぇ~。
勿論次は必ず勝つ。
あの時は奇跡的に勝ったが
ヘルクイーンがあれじゃあな。
今、俺達、
地獄四天王の顔してましたよ。
逆だ。
普段、料理人の顔を
被っている地獄四天王なんだよ。
最初は無理矢理だったけど
あいつらとやってからは
結構楽しくなってきたんすよ。
ハマったな。
でも……
なんであんなに
強いんでしょう……
おい、ハマったの認めろよ。
2パーティ制ってのがハマって
強味が増してんでしょうね。
ハマった件を
違うハマった話で
流しやがった……
う~ん、上手い。
2パーティ!?
先輩、俺は真面目に
言ってんすよ。
わーってるよ。
2パーティにすりゃ何でも
上手くいくってわけないぜ。
寧ろその逆だろ。
頭数が増えりゃ統率力も
それ以上に必要になる。
やはりリーダーっすね。
間違いなくあの二人が要だ。
通常一つの組織に
リーダーは一人だが、
お互いが絶妙なバランスで
調和が保たれている。
やはり見ている人は
見ていると言うことか……
二人……
チキンカクテルレースで
ヘルクイーンが勝った?
――そもそもこの話って。
何かが早いって
言ってたっすけど…………
いくらこうゆう話にピンと来ないハルでも、何か引っ掛かったようだ。
先輩以前に言ってましたよね。
その件の後に
パーティのバランスが……
その冒険者の質が
変わる時があるって……
良い意味でも悪い意味でもな。
さっきも言ってたが
あいつらは特にかもしれん。
…………
誰の死も経験していない……
そんな奴等が
死を体験するかも
しれないからな。
その衝撃は絶妙に取れた
バランスを崩すかもしれない
……か。
死を体験……
しかもあの人達が言う
2パーティってもしかして……
額を伝う汗は、決して酒樽を運んでいたからではなかった。
先輩あの人と一緒に
仕事してたんすよね。
ああ。
昨日腹に穴開けて
帰ってきたけどな。
断るように忠告してやったら
どうなんすか?
そりゃ無駄なんだよ。
さっきも言ったが、
この件は
良い面と悪い面がある。
アイツなら絶対に後退しない。
危険なんて省みず前進する。
そんな選択肢を選ぶ奴だ。
スマートそうな人に
見えるっすけどね。
顔に似合わず頑固なんだよ。
あのランディって奴は。
ラ、ランディ!!
や、やっぱり
自分達のパーティの事っす!
ど、どーゆー事っすか?
一体何が!?
やはり料理人は、ハル達の事を話していた。2パーティ制を採用しているし、ランディはこの酒場で働いていた。それにチキンカクテルレースの話も、ハル達との戦いを思い出していたようだ。
まだ早い何か……。
自分達が有名などという話も眉唾ものだが、そんなことはすぐにハルの頭から消えてなくなっていた。「死を体験をする」という言葉が頭にこびりつく。
そして自分達の事を語られていると知りながらも、結局何が起こるか分からないままハルは冷や汗を酒樽に落とした。