――酒場内、倉庫。

ハル

ミリーナの人使いの荒さは
半端ないっす。

 見るからに重そうな酒樽を、日頃鍛えている馬鹿力で一人抱えるハル。

 探索が休みの日は、鍛錬だとか特訓だとか調子の良い事をミリーナに言われてコキ使われている日常の風景だ。

ハル

でも、この労働の後の麦酒が
たまんなく美味いんすよねぇ。

 やはりこれもミリーナの入れ知恵で、対価のない労働をさせる為に吹き込まれた考え方だ。それを実に楽し気に口にしながら、重い酒樽を持ち、厨房横のスペースに向かっているのだ。

若い料理人

ほんとですって。

厨房の料理人

いくらなんでも早すぎないか?

 この倉庫は従業員の休憩場と隣接していた。夕刻を迎え夜の繁忙時の前に一休みしている料理人の声が、ハルの耳にも聞こえてきたのだ。

若い料理人

マブダチなんすよ、その職員。
だから一緒に昼食った時、
教えてくれたんすよ。

厨房の料理人

まぁ、アイツ等
何気に有名だからな。

ハル

有名人?
そうゆう話、
皆好きっすね。

 ハルは酒樽を一旦地面に置き、両手を休ませているところだった。

若い料理人

そうっすね。
ルーキーの頃から
探索スピードはピカ一だし、
癖のある奴等も多いけど
全員無事でしぶとく
成長していますもんね。

厨房の料理人

そうなんだよ。
あいつらマジで凄いと思うぜ。

 そう語る料理人は実に嬉しそうにしている。その噂の冒険者達に好意を寄せているのは間違いないだろう。

ハル

おっ!?
冒険者の話だったんすね。
自分てっきり料理人の話かと
思ってたっすよ。

若い料理人

一見強そうに見えない奴も
ちらほら居るのに
なかなかどうしてな感じすよね。

厨房の料理人

俺が料理の具の質と量を
UPさせてやってるからな。

若い料理人

どうも最近上質の肉の減り方が
おかしいと思ったら
そうゆうことだったんすね。

厨房の料理人

俺等にはそれぐらいしか
できねーだろ。

若い料理人

チキンカクテルレースで
息抜きしてもらうとか……

厨房の料理人

はっはっは。
だけどあいつらは
息抜きでもプロだぜ。
俺達が相手しなくても
勝手に騒いでやがるって。

地獄四天王

まぁ、
次は絶対負けないっすよ。

ハル

そういえばこの人達、
地獄四天王っすね。
自分達意外にも
地獄四天王を倒した人が
居るんすねぇ~。

地獄四天王

勿論次は必ず勝つ。
あの時は奇跡的に勝ったが
ヘルクイーンがあれじゃあな。

若い料理人

今、俺達、
地獄四天王の顔してましたよ。

厨房の料理人

逆だ。
普段、料理人の顔を
被っている地獄四天王なんだよ。

若い料理人

最初は無理矢理だったけど
あいつらとやってからは
結構楽しくなってきたんすよ。

厨房の料理人

ハマったな。

若い料理人

でも……
なんであんなに
強いんでしょう……

厨房の料理人

おい、ハマったの認めろよ。

若い料理人

2パーティ制ってのがハマって
強味が増してんでしょうね。

厨房の料理人

ハマった件を
違うハマった話で
流しやがった……
う~ん、上手い。

ハル

2パーティ!?

若い料理人

先輩、俺は真面目に
言ってんすよ。

厨房の料理人

わーってるよ。
2パーティにすりゃ何でも
上手くいくってわけないぜ。
寧ろその逆だろ。
頭数が増えりゃ統率力も
それ以上に必要になる。

若い料理人

やはりリーダーっすね。

厨房の料理人

間違いなくあの二人が要だ。
通常一つの組織に
リーダーは一人だが、
お互いが絶妙なバランスで
調和が保たれている。

若い料理人

やはり見ている人は
見ていると言うことか……

ハル

二人……
チキンカクテルレースで
ヘルクイーンが勝った?
――そもそもこの話って。
何かが早いって
言ってたっすけど…………

 いくらこうゆう話にピンと来ないハルでも、何か引っ掛かったようだ。

若い料理人

先輩以前に言ってましたよね。
その件の後に
パーティのバランスが……
その冒険者の質が
変わる時があるって……

厨房の料理人

良い意味でも悪い意味でもな。
さっきも言ってたが
あいつらは特にかもしれん。

若い料理人

…………

厨房の料理人

誰の死も経験していない……
そんな奴等が
死を体験するかも
しれないからな。

若い料理人

その衝撃は絶妙に取れた
バランスを崩すかもしれない
……か。

ハル

死を体験……
しかもあの人達が言う
2パーティってもしかして……

 額を伝う汗は、決して酒樽を運んでいたからではなかった。

若い料理人

先輩あの人と一緒に
仕事してたんすよね。

厨房の料理人

ああ。
昨日腹に穴開けて
帰ってきたけどな。

若い料理人

断るように忠告してやったら
どうなんすか?

厨房の料理人

そりゃ無駄なんだよ。
さっきも言ったが、
この件は
良い面と悪い面がある。
アイツなら絶対に後退しない。
危険なんて省みず前進する。
そんな選択肢を選ぶ奴だ。

若い料理人

スマートそうな人に
見えるっすけどね。

厨房の料理人

顔に似合わず頑固なんだよ。
あのランディって奴は。

ハル

ラ、ランディ!!
や、やっぱり
自分達のパーティの事っす!
ど、どーゆー事っすか?
一体何が!?

 やはり料理人は、ハル達の事を話していた。2パーティ制を採用しているし、ランディはこの酒場で働いていた。それにチキンカクテルレースの話も、ハル達との戦いを思い出していたようだ。




 まだ早い何か……。




 自分達が有名などという話も眉唾ものだが、そんなことはすぐにハルの頭から消えてなくなっていた。「死を体験をする」という言葉が頭にこびりつく。

 そして自分達の事を語られていると知りながらも、結局何が起こるか分からないままハルは冷や汗を酒樽に落とした。

 ~諷章~     184、裏情報

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