完全に不法侵入のハルとジュピターを受け入れた(らしい)超方言のフォーミュラ。
二人は今、腰を落ち着けて茶を頂いていた。
完全に不法侵入のハルとジュピターを受け入れた(らしい)超方言のフォーミュラ。
二人は今、腰を落ち着けて茶を頂いていた。
ずったにこるぬさ
づちゃさぬるかや?
あー、お構いなくっす。
お茶だけで充分っすよ。
なかなか美味い茶だよな。
飲んだ事ない種類だ。
既にハルはフォーミュラが使う超方言を理解しているようだ。ジュピターも早速その事実を受け入れ、ハルの言葉から会話の流れを掴んでいた。
で、
結局この鍛冶屋の主人は
どこ行ったんすか?
どにって、こごさうるのは
おでだげだがぁや。
へ!?
!?
一人で住んでるって……
じゃあここで鍛冶やってるのは
一体誰なんすか?
おでにきやっとるじゃ。
へ…………
火床の僅かな熱から、この鍛冶屋は廃業していないと考えていたハルは、フォーミュラとのやりとりで言葉をのんだ。
質問するジュピターにハルは答えた。
勝手なイメージで鍛冶屋の娘と思っていたフォーミュラが、ここの主人――つまり、ここで鍛冶をしている張本人だと言うのだ。
へぇ~。
見かけによらねないもんだな。
折角だから、鍛冶屋同士だし
仕事見せてもらったらどうだ?
鍛冶屋どんしっでぇ
はるにゃもそんなのがや?
そうっすよ。
自分も鍛冶屋一家の男っす。
自分もフォーミュラが打つとこ
見たいっすよ。
ななな何いっどるだにか?
はるにゃめっこに
ちゃうすがいやいや。
?
今のは何て言ったか
分からなかったっすけど
まぁ、お互い暇だし(決めつけ)
やってみるっすよ。
や、やんだばぁ~。
おでさほんにでれるがや。
はいはい、
照れてないでやるっすよ。
…………
思い立った時には行動するのが、ハルの良いところだ。何故か赤面気味に唖然とするフォーミュラを脇に、鍛冶の準備を始めた。
でも、何でこんなに
片付いてないんすか?
道具があちこちに散らばって
大変っすよ。
ん!?
ハルの鍛冶準備は、普段の騒がしさと落ち着きのなさからは想像出来ない手際の良さだった。あちこちに散らばっていた鍛冶道具を鼻歌混じりに作業手順ごとに配置し、火の管理も同時に行っていた。
――――12時間後。
結論から言って、ハルの鍛冶の腕にジュピターとフォーミュラが驚く結果になった。
いい加減な性格からは想像し難い全ての仕事の的確さと精密さ。各工程の繊細な技術と、細部に至るまでのこだわり。刀に関する知識は勿論、刀に対する愛情を感じずにはいられない仕事っぷりだった。
ハルにとっては、村を出るまでの当たり前であり日常そのもの。現役時代は稀代の名匠だったと言われるゴッツ爺に、幼少の頃より叩き込まれた鍛冶の腕。それは何処へ出しても恥ずかしくないどころか、現役の鍛冶屋にも見劣りしないものだった。
それに引き換えフォーミュラの鍛冶の腕は、残念と言わざるを得なかった。
独学で学んだそれは独特な手法も多く見受けられ、基本的な技法や工程もないに等しかった。さらに付け加えると、片付けが絶望的に苦手であり、非常に効率の悪い仕事をしているのだ。
ハルの知識と経験から、正しい仕事を覚えていったフォーミュラ。何故この仕事を選んだのか不思議でしょうがないが、乾いたスポンジが水を吸収するようにハルから学んでいった。
(何でだ?)
二人の仕事を食い入るように見ていたジュピターに、一つの疑問が浮かぶ。
そもそもここへ来たのは、シャセツを探していた時に、髭の教官から刀を使うハルへと紹介されたからだ。
刀を使う者にとって鍛冶屋を知る事は重要なのは分かる。だけど残念ながらフォーミュラの鍛冶の腕はお粗末なものと言わざるを得ない。わざわざ紹介するほどの鍛冶屋ではないのだ。
ハルは微塵にも思っていないだろうが、はっきり言って此処へ来て、得と言えるものはなにもない。試しにフォーミュラに父の事を確認するジュピターだったが、何も知らないようだった。
腕の良い鍛冶屋でもない、父の情報も知らない、どう考えたって勧められる理由が見付からないのだ。
ハルは大してきにしていない様子だったが、髭の教官は最後に何か言おうとしたのを躊躇った。ジュピターはそれを思い出さずにはいられなかったが、答えは見付からなかった。真面目に刀の知識を語るハルを横目に、ジュピターの疑問は膨らむばかりだった。