――カジノ前方の路地。
――カジノ前方の路地。
この路地は来た事ないな。
ハルとジュピターは、髭の教官の勧めでまだ来た事がなかった鍛冶屋へ向かっていた。
カジノが煌びやかすぎるせいか、カジノ通りから少し離れると余計に静けさを感じる。おそらくは隘路になっているのだろう。明らかに人の数が減り、賑わっている商店などは一つも見当たらなかった。
冒険者区も広いからな。
こうゆう隘路は
いくつもあるんだ。
ほんとにこんなとこで
鍛冶屋なんてあるんすかね?
まぁオイラ達、
どうせやる事ないし
ちょうどいいんじゃねーか。
暇すぎて散歩するしか
なかったっすからね。
徐々に鬱蒼としてきた路地の雰囲気とは逆に、自分達の暇さ加減を自虐的に笑い飛ばす二人。
時折すれ違う人は、そんなハル達に見向きもしない。住人ではなく目立つ二人に興味すら抱いていないようだ。
奥へ進むにつれ、建物の間隔は狭くなり、古めかしい造りになってきた。どう贔屓目に見ても、家賃があるとするなら低価格だろう。
なぁ~んか
やばい予感しねぇか?
え?
そうすか?
何も起きなきゃいいけどな。
そもそも本当にあんのか?
その鍛冶屋。
ジュピターがそう思うのも仕方がない。
誰が一体こんなところに足を運ぶのか。本当に客商売として成り立っているのか。考えれば考えるほど、鍛冶屋の存在は疑わしく思えてくる。
そんなことを頭に巡らす気もないハルは、物珍しそうに目を輝かせ足を進める。
そしてようやく行き止まりに辿り着いた。奥の建物は看板らしいものは何もなく、他の建物よりも古そうなボロ屋があるだけだった。
だーっぁ!
やっぱないのかよ!
あの髭教官に騙された。
何言ってんすか。
ここが鍛冶屋じゃないっすか。
はぁ?
どう見てもただのボロ屋の古めかしい扉を、躊躇せずに押すハル。
鍛冶屋でなかったらただの不法侵入だが、ハルは堂々とその扉から足を踏み入れた。
だ~れか居ないっすかぁ~。
うおっ!
本当に鍛冶屋だ!
何で分かったんだ。
え? そうっすか?
どっからどう見ても
鍛冶屋にしか見えないっすよ。
ハルの判断要素は全く不明だが、このボロ屋はどうやら本当に鍛冶屋のようだった。
少ないながらも鍛冶屋道具一式があることでそれが分かる。だがその道具一式は、そこかしこに散乱している。
人が居る気配もないし、おそらく廃業した鍛冶屋と言った雰囲気だ。
こりゃあ廃業してんな。
鍛冶屋だったのは
間違いないけどな。
そうっすね。
この荒れようじゃ
鍛冶仕事は出来ないっすよ。
しゃーねーな。
帰るか。
!?
玄関の古めかしい扉に向かい踵を返そうとしたジュピターだったが、ハルが何かを発見したことに気付く。
ハルはジュピターとは逆に、ボロ屋の奥に入っていく。ハルが真っ直ぐ向かったのは鍛冶に必須の火床( ヒドコ もしくは ホド )。
ジュピターは内心、帰りたかったようだがハルを追い掛ける。そしてハルが注視している火床を眺めた。
なんだよ。
何にもねぇじゃん。
ガロンでも落ちてんのか?
帰ろ帰ろ。
折角だしカジノで
散財でもするか?
つまらなさそうに眉を下げるジュピターは、ハルの興味をカジノへ向けようとする。
……熱があるっす。
はい?
廃業なんてしてないっすよ。
僅かに熱を感じるって事は、
今朝にでも誰かがここで
鍛冶をしてたって事っす。
嘘だろ?
こんなとこで?
ハルの推測を聞き冗談だと思いながら、ジュピターは火床に手をかざす。
熱いか?
そんな疑問が喉を通りかけた時、ジュピターの手は芯から温まるような熱を感じた。
ここへ入る時に聞いた、古めかしい扉の音が後ろから聞こえた。
続けて聞こえたのは、人の声。ハッとなって振り返る二人は、息をのむ間もなかった。
『ゥゥゥルデナァク!』