04 魔女との出会い2

 ナイトが隣の部屋に向かったのを確認してから、コレットがソルを振り返った。
 
 ソルは呼吸をすることを忘れていた。

 決してナイトとは仲が良かったわけではない。そんな彼がソルを心配していた。そして、彼がいないだけで不安に苛まれる。


 それは、今までにない感情だった。

 自分は、これから何をされるのだろうか。


 相手は魔女で、あのナイトが警戒心を剥き出しにする相手。

 それらに、一抹の不安を抱えながらソルはコレットの次の行動を待っていた。

コレット

改めまして。私の名前はコレット・フラン。エルカの産みの母親で、グラン・フランの娘です

ソル

ソル………です

コレット

我が家の家名を名乗っても良いのよ。一応は正式に再婚しているのですから

ソル

何だかおこがましい気がするんだ。名乗っても良いものなのか

コレット

貴方がエルカの兄となることは、私の父グランが認めているのよ。胸を張って名乗りなさい

ソル

は、はい………

コレット

ソルくん。本題に入りましょう。さ、私の手を掴んで

ソル

は、はい

 不気味なほどに白く、しなやかな手だった。

 掴んだら折れてしまいそうな細い腕。しかし、その手を拒むという選択肢はなかった。

 相手は魔女だ。

 ソルが拒んだところで何も変わらない。躊躇うことを、彼女は許さないだろう。

 だから、意を決してその手を掴んだ。

 初めてナイトと握手を交わした記憶が過る。

 あの時のように折られるのだろうか。

 彼女の手は冷たかった。

 手を折られることはなかったが、ゾクゾクッとしたものが背中を這い巡る。



 彼女の手は冷たかった。

 手を折られることはなかったが、ゾクゾクッとしたものが背中を這い巡る。

コレット

少しだけ我慢して

ソル

え……何を

 何かが身体の中に入り込んでいるような、何かが身体の中から出ていくような、不気味な感覚に陥る。

 しっかりと握られた手は離せなかった。

 ソルの意思では動かすことができなかったのだ。不安になってコレットを見る。

コレット

………エルカのところに連れて行ってあげるわ。今のあの子は、自分の殻に引き篭もっているのよ

ソル

………っ

 彼女に掴まれた手が熱くなると、生暖かい何かが全身を駆け巡るのを感じていた。


 彼女の手は冷たい。なのに、ソルの手が熱くなる。そんな、不気味な感覚に毛穴から汗が吹き出しそうになる。

ソル

こ、こういうのは、オレより……

コレット

ここはソルくんにお願いしたいの。今の貴方は実はとても不安定な状態にあるの……死にかけているのよ

ソル

え……

コレット

それを私の魔法で起こしているだけ。本当なら昏睡している状態。まだ死んではいないのよ。あの子は死に近い場所にいて、貴方も死に近い状態にある。貴方はあの子の近くにいるの

ソル

死にかけているのなら、このまま……

コレット

貴方もあの子のことを連れ帰りたいのでしょ? そうね、今の貴方たちはまだ屋敷の中にいて、逃げている最中だと思いなさい

ソル

オレもエルカもここにいる

コレット

でも、心はまだあそこにいるのよ。二人とも目覚めなければ……そこは屋敷の外ではない。貴方はあの子を連れ出したいでしょ? 屋敷の外に

ソル

………ああ

コレット

貴方はあの子と似ているところがあるから。だから、あの子の考えていることがなんとなくわかるはず。だから、連れ戻せるのは、貴方なのよ……ソル

 ソルの双眸はコレットの瞳から目を反らせなくなっていた。



 もう、その瞳しか見えなくなっていた。

ソル

……オレで良いのか

コレット

ええ

ソル

じゃあ、行くよ。何もできないオレにも……あいつに何かしてやれると言うのなら。この身体がどうなろうと構わない……

ソル

魂を頂くというのなら、持っていけばいいさ! さぁ、オレを何処にでも連れて行けよ

 役に立たない情けない義兄のまま別れたくはなかった。

 だから、ソルは強い視線をコレットに向ける。

コレット

よく言ったわね、偉いわよ……私もこういう魔法は初めてだから自信がないのだけど……その、少しだけ記憶がなくなるかもしれないから……がんばってね

ソル

………………え?

 強い視線を受け止めたコレットは満面の笑顔を浮かべる。

 とても恐ろしいことを告げられたような気がして、ソルは聞き返そうとした。

 しかし、言葉を発することが出来ない。

ソル

(ちょっと待って……くれ)

 意識が朦朧とする。立っているのか、仰向けになっているのか、座っているのか、自分の状況が全く把握できない。

 視界がぐにゃりとうねる。


 そして、頭の中で何かが弾けたような気がした。


 一体、今はいつなのだろう。

 一体、オレは何をしようとしているのだろうか。

 何も、わからない。

 ふいに身体が持ち上がり、そして、どこかに落ちていく。

 それだけではなく、吹き上がった砂埃で息苦して激しく咳き込んでいた。

 落ちていくのは意識だけのような気がした。自分の姿が、形がわからないのだ。




 ただ、落ちているのだと。

 その感覚だけを感じていた。




 ドスンっとした音が耳に響いた。



 それまで感じていなかった感覚を突然思い出したようだった。床に強く打ち付けられた腰に激痛が走り目を閉じる。

ソル

………なんだ、これ

エルカ

……?

 そして、開けた視界の先には驚いた表情のエルカの姿があった。

第2幕-04 魔女との出会い2

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