引率者の話で暗くなっていた二人だったが、自虐的なハルの一言でその雰囲気を吹き飛ばした。
おいおい、
暗い顔すんなって。
気持ちは分かるけどな。
まぁ、
自分が引率者に選ばれる
わけないっすよね。
そんなことあったら
新米が可哀想っすよ。
そりゃそうだ。
引率者の話で暗くなっていた二人だったが、自虐的なハルの一言でその雰囲気を吹き飛ばした。
ん!?
あれ……
ロココじゃないっすか?
ん?
どこだ?
二人から随分と離れた場所をハルが指差し、ジュピターが目を細めて確認する。認識可能な距離にロココは居なかったが、少しすると遠目にロココらしい人影が見えてきた。
ん?
あれか?
もしあれだとしたら
見え過ぎだろ。
うお~い♪
ロココ何して
るっすかぁ~。
朝と言えどもかなりの人混みの中、馬鹿でかい声で遠くのロココと思われる人影を呼ぶハル。何人もの人がハルに視線を集めたが、特にハルは気にしていないようだ。
おはようございます。
よく人混みの中で
分かりましたね。
もっと遠くから気付いて
たけどな。
ほんとどんな目してんだか。
田舎者は目が良いんすよ。
呪いのせいなんじゃないか?
視覚に影響及ぼすとか
言ってたよな。
はは、確かに。
実は良くなってるかも
しれませんね。
で、何してるんすか?
朝タコ部屋で起きた時は
居なかったっすもんね?
そりゃあんなに遅けりゃ
しょうがないだろ。
ロココどころか
誰も居なかったしな。
コレです。
訓練場に直接
持っていくように
してるんです。
ロココの小さな手には、手紙が握られていた。おそらく故郷に宛てたものだろうか。
冒険者の手紙の管理は訓練場がしている。差し出しに関しては酒場に出す事も出来、受け取る手紙がある場合は酒場に連絡が入るようになっている。
ロココは大事な手紙という事もあるが、酒場の人に少しでも負担にならないようにと、いつも直接訓練場に持っていっているようだった。
故郷にっすか?
確か、ゼーベルクっすよね。
そうです。
ハルさん覚えて
くれてたんですね。
へぇ~、
あんまり聞いた事ない
名前だな。
ハルさんの故郷、
シーベルトと同じ国――、
オーマイト王国領の
辺境にある陸の孤島です。
あ、そうだったんすか。
自分知らなかったっす。
以前、迷宮で聞いた名前だけしか
覚えてなかったっすよ。
そのゼーベルクの友達に
手紙なんです。
おお~
友達っすね。
ロココの友達なら
自分も会ってみたいっすよ。
もしかしてあれか……
呪いをうけちゃったっていう
友達か?
そう……そうなんです。
僕のせいで……
そう言い掛け、言葉を途切れさせたロココ。迷宮で聞いた時の話では、呪われる過程の詳細まで聞かなかった。
ただ呪いを解く為に必要な物――ある魔物の角から採れるエキス、それが必要と言っていた。ジュピターは詳細を知らないので再確認する。
・遭遇率が低く
・他の魔物と群れで動き
・動きが素早く
・警戒心が強く劣勢になると逃げる
そんな魔物の角のエキス。しかも討伐してしまうと角は消滅するので、捕獲しなければならないとの事。
とても冒険者に向いてなさそうなロココがここにいるのは、その依頼を出した場合の報酬が計り知れないからだと言う。つまり自分で行くしかないのだ。
だがその魔物は八階層に出現する可能性があり、もう手の届くところまで来ているという訳だ。
ロココ、
もうすぐっすよ。
大丈夫っす!
皆で力を併せれば
絶対に捕まえられるっすよ。
ありがとうございます。
そうですよね。
しょげてなんかいられません。
流石同じ国の田舎者同士。
前向きだな。
都会のディープス生まれのジュピターから、田舎者扱いされるハルとロココ。満面の笑みでそれを笑い飛ばす二人だったが、ハルがすかさず切り返す。
そう言えば自分は
ディープス生まれっすよ。
田舎者じゃないっす。
出たよ、
それが田舎者の証だって。
自分は都会生まれだって
誇張するパターンな。
生まれはそうでしょうけど、
育ちの話ですよ。
田舎者でいいじゃないですか。
田舎者同士前向きに
仲良くやりましょう♪
まぁ、その魔物は速いんだろ。
オイラが一番
スピードあるから、
そん時は都会者の実力を
見せつけてやるよ。
そんな事を話しながら、特別用事がなかったハルとジュピターも訓練場に向かう。視界の先には訓練場が見えてきていた。
おろ!?
あれってシャセツじゃ
ないっすか?
え?
ど、どこですか?
ってよくこんな人込みで
見付けれますね。
やっぱ田舎者とか関係ないな。
ハルが異常なんだわ。
シャセツと思われる人影は、修練場の奥へ消えていった。
どうもいつもと違う雰囲気を感じたハルは、中央棟に用事のあるロココと別れ、その影を追った。
なんか嫌な予感がするっす。
一緒に走るジュピターはハルの直感に眉を寄せる。真面目な顔をしている時のハルの直感は馬鹿に出来ない。一番ハルの近くにいて、一番ハルを知る相方は、自然に額から冷や汗を浮き上がらせていた。