――帰還中、迷宮七階層。
――帰還中、迷宮七階層。
でも凄いな。
導師が使う
治癒の指輪の効果は。
ジュピターが関心する横で、ランディはさっきの戦闘で風穴を開けられた脇腹をさすった。ちなみに現在帰還中で歩いているが、痛みがないわけではない。
治癒の指輪は傷を治す回復効果があると思われがちだが、『生命力を上げる』と表現する方が正しい。生命力を上げる事により、対象の回復力も増大させ、結果、傷が治るということだ。
聖ユデア様の奇跡ですよね。
はい。
ユデアの遺物と呼ばれる
清輪ディヴァングこと
『加護の指輪』の恩恵です。
レイマールにある
聖ユデア教会のトップ、
真導師様が代々受け継がれている
世界的な遺産です。
確かその複製品が
導師に与えられる
治癒の指輪なんですよね。
遺物にはそれぞれ
とんでもない力があると
言われていますが、
その詳細は不明です。
ですがこの治癒の指輪に
皆さんを守れる力があるのは
確かです。
ほんと驚きを隠せないわ。
世の中には理解不能な
現象や力が本当にあるのね。
細かい話は分かんないっすけど
あんな穴が塞がっちゃうなんて
凄すぎるっすよ。
ですが……
ランディは平気な顔してますが
傷は完治どころか
地上なら絶対安静レベルの
ままなんですよ。
いや余裕だぞ。
もういつでも
戦えるっつー感じだぜ。
ランディは涼しい顔して歩いている。汗一つ見せない様子は、言葉通りと思わせる雰囲気がある。
駄目よ。
大人しくしてなさい。
今から魔物と遭遇しても
ランディは防御に専念。
これは皆が無事に帰還する為
でもあるのよ。
ユフィの言う通りですよ。
あれだけの傷を
受けたのですから、
無理は禁物です。
わーったよ。
二人共頼んだぜ。
任せるっす。
ランディの分まで
暴れまくるっすよ。
まぁランディは
暴れるって感じじゃないけどな。
七階層の通路を話しながら、ゆっくりと歩くハル達。勿論、注意を切らすことなく歩いている。傍から見れば注意散漫にも見えるこの光景は、無駄に力を入れず、適度な緊張感を維持する為に自然に身に付けられたものだ。
初心者ほど無駄にガチガチと緊張し、本番に身体が動かない。先日コフィンに「実力がついてきた」と言われたのは、このこと一つとっても証明出来る。
よし。
六階に上がる階段だ。
意外に簡単に帰れそうだな。
ここまでは
余裕だったっすね。
でも五階層への階段まで
近くはないですよ。
アデルの言う通りよ。
二人共気を抜かないでね。
へいへ~い。
一抹の不安どころか、二抹三抹の不安を覚えるハルの返事。その不安とは裏腹に、六階層では一直線に階段を目指したせいか、運良く魔物に遭遇することはなかった。
そして五階層では一階層への直通階段まであと少し、そんな場所で魔物と遭遇する。七階層に比べると、魔物の強さは明らかに弱く、ハルとジュピターが討伐に前進する。
援護するわ!
ランディは守備に専念よ。
ユフィさん、
念の為、一番厄介なのに
刻弾使いましょうか。
まだ安全圏よね。
それならお願い。
いけます、問題ありません。
階段が近く、刻弾の副作用が出ない状況だったので、ロココの提案をユフィは採用した。
ロココは現在、一日に3、4発までなら安全に刻弾を撃てる。魔操者と呼ばれる才能で、刻弾の扱いに長けている証拠だった。
ハルとジュピターの連携は凄まじく、七階層で戦っている経験は伊達ではなかった。ユフィの援護だけで充分と思われたが、作戦どおりロココが一番手強そうな魔物に刻弾を放つ。あっという間に魔物達は殲滅された。
今のは完璧だったな。
サイコロは投げないっす。
は?
賽は投げられたって諺が
あるって聞いて、
それはもう余裕がないって
ことっすよね。
余裕だって言いたいのか?
流石ランディ。
まだサイコロ278個くらいは
持ってるっすよ♪
何を言っているのかと思えば……
ユフィがそう言いながらも、何事もなかった戦闘に一安心していた。そうして直ぐに階段へ向かう。
そして地上に繋がるガーディアンゲートが見えた。
階段室手前の鉄格子。
いつも気怠そうな衛兵が鍵を開ける。この瞬間に地上に帰ってきたと言えるのだろう。
ハルは「麦酒が飲みたいっす」「すぐに酒場に行くっす」と大声を張り上げて騒いでいる。まだ任務中の衛兵が表情を歪めている事などお構いなしだった。
騒がしい奴だ……
…………
どうした?
奴のせいで喉が渇いたか?
一番後ろのガキ見たか?
いや、見てないが。
もしかして……
ああ……
ありゃ近い内に
帰ってこないぞ。