当たり前のように舞い戻ってきた彼女と、穏やかな時間を過ごす。
そして祈雨丸は静かに自身の思いを口にした。
その言葉と、そして沈んでいく彼の表情に、緋奈子は呆然と耳を傾ける。
その言葉の意味を理解しかねているような困惑をありありと浮かべて数度口を開閉し、
ええと……
と、ようやくなんとか口にした。
その、ごめん。うち、えっと……
しかしちゃんとした言葉にはならない。
あなたが思うように、或いはあなたが想う以上に
……私と言う龍神は、面倒な存在なのです
と諦めるような笑顔を浮かべる。
驚きもしましょう。何しろ、私も驚いているのですよ。得難き友人を得られた……それでよかったと思っていたのに
手放したくはないと思ってしまった、と続ける。
意味はお分かりですか、とも。
ちゃんとした告白とは別に(?)このシーンでこう、どこまで進めようか悩んでいるPL
ふふ…… 緋奈子はここでちゃんとお返事はしない……かな……。それより困惑が強い……のと飲み込み切れない……。
その言葉に、ようやく祈雨が何と言いたいのか、緋奈子はじわりじわりと理解し始めたようだ。
目を見開き、頬に朱が差す。
そしていつものように慌てふためくかと思えば、しかし彼女にはそれよりも困惑の色が強かった。
何より、彼の表情がその言葉の意味に反して決して明るいものではなかったからだ。
……なんで
ぽつりとこぼれたのは、そんな言葉だった。
なんで、そんな顔で、言うの?
その声色は問い詰めるようなものではなく、ただ彼を案じている響きを持っていた。
そんな表情を、祈雨丸は崩さなかった。
……蛇とは、嫉妬深い生き物だ……と、誰もが言います。道成寺伝承、蛇帯……異国にも多くそのような逸話は残されているでしょう
あたかも、物語の読み始めるように語る。
祈雨丸は、人間が思う事で、その性質を変化させる龍神。故に、人間が思う蛇そのものの性質をも、この身に秘めております
祈雨丸は自らの胸に手を当て、この身の恥を吐き出した。
執念深く、陰気淫蕩、嘘嫌いの大法螺吹き。地を這う畜生……人の心など、分かるはずもなく
ですから、ね。私はこのままではあなたを縛りつけてしまうのです。何にも縛られず、自由に生きる貴女を……私の想いとは、その様な形にしか成り得ない。ですから……
ですから、ほら、私は愚かだ。と呟いた。
それを口にしてしまっては、もう後戻りなど出来ないことを分かっていて。
……
物語る彼の言葉を緋奈子は静かに聞いていた。
そうして、じっと祈雨の顔を見つめる。
それからそっと視線を落とした。
言ってる意味は、……わかった。でも、正直、まだ飲み込めてないっていうか……
と言葉を選ぶようにゆっくりと言う。
想っていた相手からの言葉が、嬉しくないわけがなかった。
それでも心が浮足立つには、彼の表情は重く、彼の言葉はあまりにも苦しいものだった。
……きーやんは、どうしたいの?
そっと問う。
その表情は不安そうだ。
……私は
ポツリと呟く。
胸を抑える手はやっと目視できる程度に、僅かに震えていた。
……私は、願わくはこの幸福だった日常を……手放したくない。でも……同時に恐ろしい。何も知らないあなたを傷付けることだけは……したくない
その言葉に、この日常を手放したくないという言葉に、緋奈子は小さく、確かに安堵を浮かべた。
しかし、そのあと続いた言葉に瞳を揺らす。
うち、は……
言葉に詰まる。
……魔法と言う、この世の理の外に身を置き、尚且つ人ならざる蛇・龍神として。ただひたに想う貴女に、我が身の業をお伝えいたしました
一呼吸置き、祈雨丸はそこでやっと微かに微笑んだ。
不躾な男だと、我が事ながら承知の上。しかし、この朽ち縄が貴女を縛る前に……どうか、貴女の想いを聞きたい
この心を吐露したことで、全てが後の祭りであるなら、終わりまで。
……この蛇性を、許すか否か
……舞扇、その力の封印を成し遂せたら、改めて
そう口約束することで、望む未来がほんの僅かでも、近付くような気がした。
見たことのない顔で微笑む彼に、緋奈子は一つ頷くことしかできなかった。
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NEO HIMEISM 様
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