シャイン

アハハハハ、
フィンフィン結構
似合ってるじゃん。

 シャインの声のぶつかる先にはフィンクスがいる。なんと、顔には昨日、リアとダナンに買ってもらった『暁の仮面』を被っていたのだ。

ふ~うぅ~~~、
すんっげぇ
爽やかな気分だぜぇ~~~ぃ。

 フィンクスは、いつものまろい感じの話し方とうってかわり、二段階ワイルド感を足した話し方になっていた。

コフィン

フィンクス、
大丈夫ですか?

 暁の仮面の効果を知りたかったコフィンが、興味深そうな声色で問い掛けた。するとフィンクスは、おもむろに仮面を装着した顔を向けて、ポツリ呟いた。

つまらねぇ…………。

 たった一言呟いたフィンクスに注目が集まる。

 「今、コフィンにいったのか?」皆、同じ疑問だった。

つまらねぇ事聞くんじゃねぇ、
この凡庸な庶民がぁ。

 フィンクスは高圧的な声で、先輩のコフィンを凡庸な庶民よばわりする。どうした? 喧嘩か? 機嫌を損ねたのか? それにして疑問が残る。

ロココ

う、うわわ、
フィ、フィンクス。
どうしちゃったんですか!?

 畏れ多いフィンクスの言葉に、ロココが心配の言葉を漏らした。するとフィンクスは、ロココに近付き肩を組んで言い放つ。

はっはっはぁー、
何を心配してんだ、心の友よ。
それにしても、
もう少し鍛えたらどうだ。
腹筋を六つに割れ。明日までに。

 実に愉快に笑うフィンクスは、漢気(オトコ ギ)500%増し状態だ。



 その豹変したフィンクスを一歩下がるように見ているメンバー。嫌な予感しかしなかったユフィは、早々に注意を促した。

ユフィ

ふざけるのもいい加減にして。
その仮面取りなさい。

 呆れた視線は冷たく落ち着いている。決して嫌味を含んでいるわけでもなく、ただただ大人なのだ。そして金色をした暁の仮面の奥から、反応がある。

細けぇことぁ
囀(サエズ)るんじゃあないぜ、
このお茶娘。んっ? おおっ!
改めてよく見ると凄ぇ美人だぜ。
冒険者なんぞにしとくには
勿体ないな。

 茶化すわけではないと分かる声色で、仮面をユフィの顔の手前まで近付ける。意表を突かれたユフィは、身を引き赤面した顔をそむけた。

リュウ、
早いとこ嫁に娶らねぇと
他の奴に盗られちまうぜ。
ハッハッハッハァー!

ボッフンヌ!

 ユフィの限界点が崩壊の音を響かせる。
赤面状態からの大胆発言、しかも固有名詞付き。赤面どころで収まらないユフィは、白眼を剥いて背中から倒れる。そしてそのまま、隣に居たリュウの腕の中にすっぽり包まれた。

ヒュ~♪ 見せつけんなって♪

 完全に別人格になっているフィンクスは、口笛を鳴らす。仮面だから分からないが、その仮面の奥でニヤついているように思えてならない。

おい、まだ腹減ってんのか?

 フィンクスの問いの先にはタラトが居た。



実は最近、あまりの散財ぶりにユフィの怒りに触れ、ハルとタラトの報酬は半分に減らされていたのだ。ユフィはその減額分しっかり貯めているようだが、報酬の全額を食費に費やすタラトからすれば腹具合は満たされるわけもないのだ。



 タラトはその問いに答えるかのように、腹をすかした子供の様な表情を見せる。

好きなだけ食え。俺様が払う。
金の事なんざ考えなくていい。

 生気が漲ってくるタラトの目。抑圧から開放されたそのパワーは、注文の嵐となって店員を困らせた。普段アリスの散財に手を焼いているコフィンが、ついつい心配を口に零す。

コフィン

フィンクスさん、
差し出がましい事かも……

雑音が聞こえそうだから
言っといてやる。
ガロンなんてモンは、
人を堕落させるだけの鉄屑だ。
退屈な理屈は必要ねぇ。

 コフィンのいつものお説教も、出る前からぶっ叩かれ弾き飛ばされる。そしてタラトが料理を掻き込む姿を、悠然且つ尊大な態度で見守るフィンクス。もう完全にトランス状態に入っていて、誰も手出しが出来ない状態だ。

よぉーっし! 人の子どもよ!
今日からこの俺様、そう
クリムゾン様の家来にしてやる!
大いに喜べ!
まとめて面倒みてやるぁ!

 クリムゾン様と名乗る仮面を被ったフィンクスは、テーブルの上に乗り愛用のクロスソードを掲げ、樽酒をラッパ飲みしている。

ランディ

てめぇ師匠が黙って聞いてりゃ
調子に乗りやがって。

 二度も師匠であるコフィンを蔑ろにされたランディがテーブルの上のフィンクスあらためクリムゾン様に近付いていく。

 当然と言わんばかりに、そのランディを迎え討とうとするクリムゾン様。

ランディ

あ!
やっぱ、いいわ。
それよかあそこのお姉さんが
熱い視線をオメーに送ってんぞ。

 ランディは急に横を向いてすかし、面倒なので話をアリスに振った。コフィンを師匠と呼ぶランディだが、アリスには心を許していない。心の中ではゴリラ女とさえ罵倒している。

んー? 何だぁ?
おぅおぅ、お姉さん。
俺様と火遊びしたいのかい?

 アリスに矛先を向けたクリムゾン様。



 高級品・クヴェウェマのカップに入れた、ホガーシェイド産の黒糖を1.78グラム入れ程よく冷ましたシェルパティを飲むアリス。いつものご機嫌な時間を、五月蝿く(ウルサク)されて気分を害したのだろう。周囲が危険を察知して身構える前に、アリスの拳は唸っていた。

アリス

消えろっ!
坊主が!

 クリムゾン様は、その拳の直撃をもろに受ける。その場で三、四回転してから、見るも無惨、床に這いつくばって静かになった。

 床に転がる暁の仮面。フィンクスのダメージから見て取れる衝撃は凄まじいものだったが、その薄さの割にヒビ一つ入っていなかった。その仮面と視線が合った気がしたロココは、身震いをしてからフィンクスに駆け寄った。

 ~諷章~     169、クリムゾン・ショック!

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