24 王子さまの観察記録
24 王子さまの観察記録
起きたのなら朝食にするか? 食べながら話を整理しようか
うん、そうだね
おう
そういえば……王子は? 肝心の主人公は何をしているの?
起こしはしたけど、まだ寝てる。俺は、これにするよ……
朝から特大ソーセージのホットドック?……信じられない
そうか?
ナイトは手際よく本を開いて、ホットドックを召喚する。
目の前にどっしりとしたホットドックが現れると、彼は口元に笑みを浮かべた。
エルカはソーセージから滴り落ちる肉汁から目を反らす。
ねぇ………王子は、あれで満足したのかな?
あんなにプリンを食べたんだぞ………それがどうしたんだ? ほら、エルカはどうする
私はトマトとレタスのホットサンドで良いよ。このハーフサイズが丁度良いかな
エルカも同じように目を閉じて、ホットサンドが食べたいと願う。
ポンっという音とともに、トマトとレタスが挟まったホットサンドが現れた。
それを少しずつ食べていると、呆れたようなナイトの視線をぶつかった。いつの間にかナイトは食べ終えていたらしい。
肉は食べないのか……ダメじゃないか、栄養つけないと。それに、そんな小さいサイズで……だから、背も小さいんだぞ
朝からは無理かな……私の食生活は良いから、身長の話もいらないから物語の話をしましょうよ………とりあえず、最後まで食べさせて……ごめんね、食べるの遅いから時間かかっちゃうけど
女の子なんだからゆっくり食べなよ。でも、俺だったら一口サイズだぞ、それ……まぁ、お前の食生活については、後でしっかりしてやるよ
やらなくて良いよ……王子さまはあのプリンでは満足出来なかった、そして……もっと美味しいプリンを食べたいって願うの
おや? 物語を思い出したのかい?
ホットサンドを食べ終えると、エルカは本を横にどける。
ティーカップに紅茶を注いで、小さく呼吸を整えてからナイトを見上げる。
思い出したのはそこまで。人は簡単には満足はできないんだよ。満足してもそれ以上を、次から次に欲しがる。王子さまが次に何をするのか……それを思い出そうとしているの
こっちの王子もプリンを食べた。こっちの王子も、物語のように満足していないのか………それが、気になるってことか
うん、どうなのかな?
さぁな……昨日は幸せそうだったな
うん……それじゃあ毎日プリンを食べさせて観察するしかないね。召喚されたプリン以上の何かを求めるのか
プリンを食べる彼を観察していれば思い出せるかもしれない。
エルカはナイトからお菓子作りの本を受け取ると、しおりを挟んでいたページを開く。
いつでもプリンのページを開けるように挟んでおいたのだ。
目を閉ざして、このプリンが食べたいと念じる。
目の前にはキラキラとしたプリンが姿を現した。
昨日、王子に食べさせたプリンをエルカは凝視する。
このプリンを見ていれば王子の気持ちが分かるかな……私が王子の気持ちに近付けば分かるかな
……そうだなぁ
二人はジーっとプリンを見つめる。
プルプルと震えるだけで、プリンは何も言ってくれない。
……分からない。私にとっては、ただのプリンだもの
……同感だ
気が遠くなる作業だね
食べて考えたりはしないのか? 見ているだけじゃ、わかるものもわからない
食べるのは王子だけ、私の分もあげるのよ。私は食べないの
どうして?
……そうしないと、いけないからね
なんとなく、そんな気がする。
理由は分からないが、そんな気がしたのだ。
………プリンが嫌いってわけじゃないのだろ?
どちらかと言えば好きよ。でも物欲しそうに見られるのなら、先に食べさせた方がトラブルは減る
トラブル?
私の想像した王子さまと同じなら、あの人はすぐに怒って、まわりに迷惑をかける。彼は自分が怒っている理由がわからないの、だから突然前触れもなく怒り出す。理由のない怒りを発散したいから……
ドタドタと激しい足音が聞こえてくる。
その音が大きくなると、バンっと食堂の扉が乱暴に開かれた。
エルカ! 何をしているのですか
何って、朝食を食べながら物語を思い出しているのよ
どうして、ボクだけ放置しているのですか
王子は怒っている。
そんなに目を血走らせなくてもいいのに。
起こしたけど、王子は寝ていたから
ボクが寝ていたからって、どうして……どうしてボクはイライラしているんだ!
朝から叫ばないで、耳が痛くなるの
ご、ごめんなさい……何をしているのですか? 二人で
朝食を食べてプリンを見ながら作戦会議だよ。ほら、王子も一緒に
誰が……
残念ながら、私たちにはプリンを見ても分からなかった
甘い匂いってぐらいしか分からないよな……でも主人公である王子は違う
だから、王子………このプリン食べても良いよ
ほ、本当ですか
もちろん、どうぞ
もちろん、食べてもいいぞ
プリンの皿を彼の前に差し出す。
王子はエルカとナイトの顔を交互に見た。そして、目を輝かせてプリンに手を伸ばす。
……本当に良いのですか? こんな美味しいものを食べないのですか?
はやく食べないと、次が出せないぞ
わかりました……………んん…………何と言う、幸せ
……もっと出そうか?
そこまで食い意地はありません。落ち着きましたよ
……
そう言って席につく。視線はナイトに向けられた。
王子はエルカに対しては笑顔だが、ナイトに対してもそうはいかないらしい。
どうした?
ナイトの目的、探し物は見つかったのですか
いや……今はエルカの手伝いをするよ
むむむ……
王子は、どうしてナイトが苦手なの? 私はナイトがいると安心できるけど。大人がいるってだけで、心強いよ
それは、ありがたいな
た、確かに知識もあるので頼りになりますが
王子には頼られたくないな
ぐぬぬ……ボクだって、頼りたくありません
ここにきて、ナイトが居てくれたこと……私って恵まれているのだよね
恵まれているまで言われると嬉しいな……ようし、俺が出来る限り、サポートするよ
ナイトは胸を叩きながらそう言った。
エルカは、ふとソルのことを考えていた。
ソルは大人で男だけど、たった一人で密室の中にいるのだ。
きっと不安だろう。時間を見つけて様子を確認した方が良いだろうか。
余計なことをするなと怒るだろうか。
……
ソルのことを考えていると、ニコリとナイトが微笑んだ。
この笑顔には安心感がある。
同時に、何かを探られているような気にもなる。
その不安を悟られないように笑みを返した。