――翌朝、修練場。
――翌朝、修練場。
それじゃ始めるけど
なんか思ったより
人数多くない?
まぁ~まぁ~
気にしなくっていいっす。
ってかそりゃ
教える側が言う事だろ。
オイラ達も
シェルナの棒術見たくてな。
いいだろ?
邪魔しないからさ、多分……。
ジュピターは騒がしくしそうなハルを見てから、語尾を濁らせた。
そう、今日は探索を休みにしている日で、シェルナの棒術の極意を習おうと何人か集まってきたのだ。
シェルナさん、
よろしくお願いします。
すっごく楽しみです。
よろしくお願いします。
上手く出来ないかもしれないけど
頑張ります。
自分も頑張るっす!
はいはい、分かったから
メナ達の邪魔すんなよ、ハル。
事の発端は、メナと同じパーティのツバキが、シェルナの棒術に興味を持ったところからだ。相手の力を受け流したり利用して戦うその技術を教えて欲しいと、昨晩酒場で願い出たのだ。そこにメナも乗っかると、一晩明けたらハルとジュピターとランディもこの場に来ていたのだ。
っま、人数多い方が
楽しいっか。
それじゃあ、ツバキから
手合わせいくよ。
え!?
いきなり?
レイマール伝統棒術
十六転圏導は全てにおいて
実践を重視するの。
ほら構えて。
は、はい。
ツバキは木剣を構えると顔付きが引き締まり、少し浮足立っていた感じだったのが、落ち着きを取り戻した。流石、四階層を攻略したパーティの剣士だ。
シェルナは嬉しそうに目を輝かせ開始の合図をする。レイマールから掠め取ってきた国宝のロッズステッキが、その手にはあった。
な、何!?
さぁ、もっともっと。
実戦のつもりで、
フェイントとかも入れて
いいんだよ。
よぉーっし!
ツバキの顔付きが険しくなる。シェルナの言うように、まさに実戦かと思う迫力で攻め立てた。
だが、シェルナに当てるどころかかすりもしない。それどころか、ロッズステッキは華麗に翻り、ツバキの手足を何度も打った。軽い痛みはシェルナが本気で打ってない証明で、ツバキも勿論感じていた。
今度は強く当てるよ。
くっそー!!
初めてシェルナが自分から攻撃を仕掛ける。が、それはかなりの大振りで、ツバキに弾かれる。と思った瞬間、ツバキの足元はすくわれて、首元にロッズステッキが寸止めされていた。
えっ!?
す、凄いっす……
おいおい、これは
ちょっと舐めてたかもな。
やるじゃん。
あたたた。
何がどうなったのか
分かんなかったよ。
なんか弾いたと思ったら
宙に浮いてた感じ……
『息を合わせ勢を併せば
掌中に敵あり』
相手の呼吸すらも感じ取り
その呼吸に合わせ、
相手の渾身の力と同じ方向に
自分の力を加える。
今回はツバキが弾く力を
利用したっってことだね。
も、もう一本!
もう一本お願いします!!
次はメナだね。
ツバキ、見るのも
修行の内だよ。
は、はい。
よっし、
メナも本気で来てよぉ~。
い、いきます!
今、目の前で見ていたにも関わらず、メナはツバキの二の舞になった。
次いきます!
大切なのは
相手の中心を見極める事。
十六転圏導では
相手の心の中心も含めて
『中点』と言うの。
魔物に心があるか不明だけど
性格的な感情はある。
その感情の傾向と、
身体の中心点を見極めれば
貴方にだって出来る。
心……
いくよ。
『人に四柱、それに四形あり』
心を表す四水・体を表す四師
徳を表す四世・時を表す四層。
中点を把握し
体術に関わる四師を縦横無尽に
コントロール出来れば、
『師点一体』となり
いかなる障害も乗り越えられる。
そう言われているわ。
くぅ~。
何やっても敵わないな。
凄い…………
体格はツバキの方が良いのに。
それに綺麗……
わぁ~ぉ♪
綺麗だなんて嬉しい~♪
大丈夫、二人にも出来るよ。
女子三人の訓練を見て、ハル達も身体が疼いてきた。すぐにジュピターとハルが手合わせする事になった。
ほいっと。
よっと。
そらっと。
うげげげげ!
まぁ、剣術にも
似たような感じの技は
あるからなっっとぉ。
ぽぺぇっ!
駄目っす。
全然真似できないっす。
ランディとやるっす。
なんだ?
俺相手なら出来るっての?
ぃでぇっ!!
確か『中点』ってのは……
なるほどなるほど。
『四師』っつーのは多分
これのことで、
こーしてあーして……
二人共、
ヒドイっすぅ~。
うわ、
あの二人出来てる。
すごい、聞いて見ただけで……
ジュピターの言った通り
剣術にも似た技術は
あるみたいだから。
ジュピターはそもそも
出来たみたいだけど、
多分ランディの方は
センスが抜群なだけかも。
センスだけで出来ちゃうのね。
私に圧倒的に足らないもの……
それにしても
ハルのやられっぷりは
気持ち良いくらい。
この後、打たれ強いハルは強がって二人に向かっていった。ランディとジュピターは躊躇うことなく返り討ちにした。
メナとツバキもシェルナに手合わせを一日中付き合ってもらった。陽気に包まれた休日の修練場に、二人の威勢の良い声は響き続けた。