コフィンの言葉を復唱するシェルナは、不思議そうな面持ちを見せ、分かり易く首をかしげた。
アディスナー?
コフィンの言葉を復唱するシェルナは、不思議そうな面持ちを見せ、分かり易く首をかしげた。
誰が呼び始めたかすら
今では分かりませんが、
無謀な事を目標にしていると
揶揄されているのは
今も変わりません。
揶揄しているのは
日銭暮らしの冒険者か……
そうね。
彼等は迷宮の謎を解かれたら
自分達の食い扶持が
なくなるからでしょ。
そうだ。
まぁそいつらが馬鹿に
してきたように、
未だ迷宮の謎が解かれていない
のはお前達の知るところだ。
ってことは
エノクもアディスナーって
呼ばれてるんすかね。
珍しく真面目な話にハルが入ってくる。
ハルをこのディープスに向かわせる切っ掛けとなったエノクの目標も、迷宮の謎を解くというものだった。ハルはそれを思い出し、自然に言葉が口に出たのだ。
ハルの御友人でしたね。
確か少しの間、
訓練場で指導頂いていた……
そうっす。
もしかしてコフィン達も
知ってるっすか?
同じアディスナーだし。
我々も全てのアディスナーを
知っているわけではありません。
迷宮の謎を解くと一様に言っても
それぞれの目的がありますから。
なるほど。
それによる莫大な報酬が
目的の冒険者がいれば、
名誉の為の者もいるって事か。
迷宮攻略は手段であって
目的ではないって事ですよね。
その辺は金と一緒だな。
ん?
金も増やす事が
目的じゃないだろ。
金を持つ事は手段であって
金を貯めて増やし、
何に使うかが目的なんだ。
その目的は皆違っても
おかしくないだろ。
なるほど。
流石商人の息子。
なるほど。
意外に盲点ですよね。
生きる為や幸福になる為に
必死で得ようとする金が
いつの間にかそれ自体が
目的になってしまう。
当然のことなのに
言葉にして認識しないと
見落としがちですね。
じゃあコフィンさん達の目的は
なんなんですか?
少し話が逸れてしまったところで、ロココが自然に話を本題の方に戻した。確かに意外に一緒にいる時間が長いのに、知らない事だった。
私の底辺には
知的好奇心があります。
それに加え、
偉大な先輩冒険者の思いに触れ
その方の力になりたいと
強く思ったからですね。
もしかしてあのルグラって
オッサンの事か?
御察しの通り。
彼等は50年前の
『千年祭の悲劇』で
この迷宮が発見された頃から
ずっと迷宮の謎を解こうと
している最も古参の冒険者。
他のアディスナーとは
一線を画す存在なのです。
う~ん、
オイラには胡散臭く見えて
仕方なかったな。
コフィン騙されてないか?
まぁそう見えても
しょうがない方ですね。
いい加減極まりない方ですから。
アリスは何でアディスナーなの?
私は完全に巻き込まれ型だ。
まぁ面白そうだから
って感じだな。
なんだか軽く聞こえるアリスの返事に、少し緊迫気味だった場の雰囲気が明らかに緩くなった。
師匠、もしかして
そのアディスナーってのに、
いや、師匠と同じグループに
俺達も加わらないかって
話ですか?
六階層からの三層構造の話に割って入ってきたコフィンが、アディスナーの話をしてきた。この事実からその質問に行き着き、ランディは師匠と仰ぐコフィンに問いを投げかけた。
いえそうではありません。
勿論貴方達が
そう願い出て頂ければ
嬉しい限りですが、
これは強要や催促を
する事柄ではありませんから。
お前達にもそれぞれ
目的がありここに居る筈だ。
軽い重いを問わずな。
ただその目的に一致する者が
居ればそうゆう道も
あるということだ。
…………
裏返して言えば、
あなた達に実力が
付いてきたと言えるわけです。
二、三階層をうろちょろする
新米に同じ話は
しないからな。
アリス達の話を聞き、それぞれが目的と手段を見つめ直す。自分の事を多く語らない者もいるが、多かれ少なかれここに居る理由は誰にでもあるからだ。
珍しく静かになったテーブルに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
皆、久し振り。
元気にしてる?
それは明るい声を前面に出したメナだった。