ジュピターを引き連れ、意気揚々と酒場に向かう道中のハルとランディ。ご機嫌全開のハルとジュピターを脇に、ランディはふと何かが気になった。
ジュピターを引き連れ、意気揚々と酒場に向かう道中のハルとランディ。ご機嫌全開のハルとジュピターを脇に、ランディはふと何かが気になった。
あれ?
なんか忘れてねーか。
旧知の者の剣の腕を再確認し、自然な流れでメンバーに誘い、良い返事がもらえただけなのに。隣の二人が道中はしゃぐにつれ、ランディの胸騒ぎは膨らんでいった。
又、今日から
自主練するか?
おおおぉぉー!
それはいいっすね。
やるっす、
絶対にやるっすよぉ。
ハルがどれだけ強くなってるか
楽しみだ。
うおぉー!
テンション上がってきたっす。
これは絶対ユフィも
喜ぶっすよ。
!!
ん!?
どうしたんだランディ。
そういやユフィが
冒険者一人連れてくるって
言ってたの忘れてた。
あ……
マジか……
オイラ入るとこねーな。
そーいや、
凄く優秀な人って
言ってたっす……
なおさらオイラ
いらねーじゃん。
なんだそりゃ。
どんよりした雰囲気が三人を包み、何とも言えない気まずい空気がその場を支配ようとしていた。
いらねー……
え!?
そんな奴はいらねー。
こうなりゃ力づくで
そいつの参入を止めてやんぜ。
普段みせない悪い目をしたランディは、二人を引き寄せこれからの説明をする。そこからジュピターをパーティに引き入れる為の作戦会議が始まった。
もうそろそろ
来そうな時間ですね。
楽しみです。
絶対に良い人ですよ。
確かコルトって
やつだよな。
へ、へへ
へぇ~。
おい、ハルキチ
自然にしろ、自然に。
来たわ。
きっとあの人よ。
俺はコルト。
ユフィさんですよね?
想像以上の男前が爽やかに挨拶をしてきた。雰囲気・ビジュアルだけで見れば善人極まりない。
そうよ。
私はリーダーのユフィ。
ここに居るのがメンバーよ。
よろしく、コルト。
俺はこの迷宮の謎を
解きたくって冒険者やってます。
六階層に辿り着いたばかりですが
良かったら御一緒させて下さい!
ハキハキと自分の目的を告げ、へりくだる訳でもなく下からパーティ参入を希望してくるコルト。
そこからコルトの自己紹介があった。
漁師の息子として育ち、漁業で鍛えた基礎体力が下地にあり、長剣と短剣・そしてハンドクロスボウを臨機応変に使い分け、刻弾の扱いも手慣れたものらしい。
志も高く、覇気と漲るパワーを感じる好青年そのもの。ロココやアデルは好感触を前面に出しているし、ユフィも明るい表情をしている。
アババ、アッバババ……
これ以上のない人材に、恐れを隠せないハルは薬物中毒者のように顎を震わせている。別にハルは演技しているわけではなく、このままでは自分が誘ったジュピターが入るメンバー枠が残らないからだ。
なるほど。
こちらのパーティの事情は
分かりました。
2パーティで資金や情報を共有し
下層を目指すメンバーが
殆どなんですね。
素晴らしいです。
飲み込みも早く、頭の回転も速そうだ。それにこの2パーティの条件にも快く賛同してくれている。ますますどころか、コルトの参入はほぼ決定しているような雰囲気になっていく。
だがそこでそれを止める作戦が実行される。
あと言っとかないと
いけねーのは、
呪いの品を装備しちまってる
奴がいるんだ。
すげー迷惑な話だけどな。
アバババ、
アッババババババ……
それは大変ですね。
初めて見せるコルトの陰気な表情を確認し、ランディは更に追い込みをかける。
しかも二つな。
ほんと迷惑な話だけど、
力が抜けたり、
視覚がおかしくなったり
するみてーだわ。
戦闘中にそんな奴が
出ちまうかもって事は
了承してくんねーとな。
ランディのセリフにユフィの顔付きが思いっきり曇る。言うにしてもサラッと言えば良いだけなのにと声が聞こえてきそうだ。この最高の人材を逃すのは、パーティの損失とはっきり言えるからだ。
だが言ってしまったものはどうすることも出来ず、コルトの反応を待つしかなかった。
心中察します。
何故なら前のパーティにも
居たからです。
そして隠されていたんです、
俺には……。
知っていれば皆死なずに
済んだかもしれないのに。
そうだったんですね。
でもランディさん。
貴方は教えてくれた。
自分達にとって不利な情報を。
お、おう。
と、当然だっつーの。
だから逆に信用出来ます!
なかなか言えない事を、
俺が離れていくかもしれないのに
伝えれるってのは信用できます!
逆効果。顔に似合わず陰惨な経験をしているコルトは、不利な情報を隠さずに話したことに対して、絶大な信用を感じてしまったのだ。
ユフィの顔に血色が戻る。そのような死地から一人生き残るということは実力や運も持っているし、知ってさえいれば助けだせた自信すら伺える。そんな豊富な経験と力を持つコルトに更に満足したのだ。
ランディは計画が逆効果となり、上半身を引くほど驚いたが、次の作戦に移行する。
なら次の手だ。
あの~ここに
ビエントさんって
冒険者がいると
聞いてきたんですが……
じ、自分っすけど。
借金の取り立てにきました。
150万ガロンの貸付金。
取り敢えず利息の15万ガロン
だけでも納めてもらえませんか。
はへ?
『滅茶苦茶に借金漬けなメンバーがいる作戦』だが、ハルは完全に忘れていて、した覚えもない借金に恐れおののいていた。
150万!?
しかも利息が1割!
そんなの返せるわけが……
それよりそんな借金どこで……
約束しましたよね。
なければパーティの金が
あるからそれで返すって。
驚天動地の展開にユフィ・ロココ・アデルが顔を青ざめる。コルトも目を見開いていたが、少し落ち着きを取り戻そうと深く一呼吸を入れた。
さぁっ!
返して下さい!
借金の取り立て人にしては
随分と迫力に欠けますね。
ほへ?
それに貴方は大道芸人ですよね。
最初は驚いて忘れていましたが
すぐに思い出しました。
そう言えば……
あまりにも突飛な嘘はすぐ
ばれますよ。
じゃあなぜこんな事をしたか。
恐らく誰かに頼まれたから。
ギクリ
そしてその依頼人は
俺がこのパーティに
入ったら困る理由がある人。
アババババババ
多分あそこでこっちの
やり取りを見ている人、
あの人が関係してるんじゃ
ないですか。
淡々と話すコルトは酒場の一番端の物陰からこちらを見ていた男に視線を移した。
そこにはモジャモジャした男が――そうジュピターだった。
間違いなく彼は冒険者だ。
昼過ぎのバザーで、
大道芸人さんを助けていたのを
俺は途中から見ていたから。
凄腕だったよ。
俺なんて足元に及ばないくらい。
もう完全にコルトの独壇場となっているこの空間。誰もがコルトに次の言葉を待つしかなかった。
つまり、ランディさんや
ハルさんの演技は仲間の為……
旧知の仲間を見つけ
パーティに誘ったけど、
既に俺の面会が決まっていたから
どうしようもなくしたって
事ですよね。
探偵すぎんだろ。
御名答だよ。
そこまで当てられちゃあ
もうジタバタしねーよ。
悪かったな。
やっぱり。
そうだと思いました。
ごめんなさい、コルト。
ややこしいことを
してしまって。
申し訳ございません。
いいんですよ。
俺、このパーティ好きですよ。
今回は身を引きますけど
又、縁があればお願いします。
コルトは瞬く間に推理し真実を見極め、清々しい程あっさりと身を引いた。ユフィの怒りも感じ取り、三人を叱らないように諫めたりもしている。
折角の出会いだったがパーティ参入には至らなかった。貧乏くじを引かされながらも、完璧な推理と振舞いで笑ってみせるコルト。完全にいいとこをもっていかれたコルトに対して、ランディは一言、反撃を試みた。
今回の推理は99点。
なぜならハルキチはよ、
頭悪ぃから
演技なんて出来ねぇし。
気さくでいて爽やかなコルトの笑顔が返ってくる。仲間に囲まれるハルの姿を目に収め、コルトはジュピターに手招きした。
出会っていきなりの別れだが、コルトは酒を注文し乾杯した。
「出会いと別れに乾杯を」
ハル達は、麦酒の泡が喉を通る爽快さが、どこかコルトに似ていると感じていた。