ジュピターはハルが帰ってこぬまま、酒場を後にした。
「まだ修行あるから行ってくるよ」
と、乾いた声でランディに告げサラッとテーブルを後にしたようだ。
ジュピターはハルが帰ってこぬまま、酒場を後にした。
「まだ修行あるから行ってくるよ」
と、乾いた声でランディに告げサラッとテーブルを後にしたようだ。
いやぁ~
トイレの水が逆流してきて
地獄を垣間見たっすよ。
そりゃ大変だったな。
あら?
ジュピターは?
帰ったぜ。
なんか会話も続かねーし
ハルキチもいねーから
楽しくなかったんじゃねーか?
そりゃ悪いことしたっすね。
まぁまだまだ修行中みてーだし
そんな油売ってる時間ねーだろ。
そりゃそうっすね。
いつでも会えるだろうし。
そしてそのまま何事もなく昼の時間が訪れる。
何か用事を済まして帰ってきたのはユフィだった。
ご苦労様。
どうだった?
誰か募集に反応あった?
全くないっす。
トイレの水が逆流して
地獄見たってだけっす。
そう。
なら良かったわ。
何で良かったんだ?
良くねーだろ?
見付けてきたのよ。
六階層で前衛を任せられる人。
おおっ!?
凄いっす!
流石ユフィっす♪
紹介なんだけど
夕方頃に顔合わせするから
それまでは自由よ。
条件が合えば
明日から探索するわよ。
ユフィの意外な話の流れに、ランディとハルは眉を上げ喜んだ。どんな冒険者が来るのか、期待に胸を膨らんでいるのが誰にでも分かる。六階層で前衛を任せられる冒険者なのでそれなりの経験はしているのだろう。
そんな想像をしている時、アデルとロココが帰ってきた。
見付かったんですか?
ユフィさんすごい。
どんな人か楽しみです。
きっと良い人ですよ。
私も夕方まで待ちます。
ユフィは紹介元から得た情報をメンバーに話す。
しっかりした基礎体力を持ち、様々な武器を臨機応変に使いわけ、冷静で状況判断にも優れ、刻弾の扱いにも長けた冒険者らしい。
実際に目にしないと分からないが、特徴だけで考えてみても充分な戦力である事は間違いない。
それならちょっと外出るか。
裏通りでバザーやってましたよ。
面白そうだな。
ハルキチも一緒に行くか?
行くっす!
一緒に行くっすよ。
つまんない物
買っちゃ駄目よ。
分かった?
は~いっす♪
金の使い方を知らない子供に注意するようなやり取りが酒場に響く。しかし酒場を出るハルの足取りは既にそんな事を忘れているようだった。
裏通りは中央通りほど広くはないが、各商店が並んでおり、枝分かれした小道に行かない限り賑やかだ。特に今日はバザーをしている模様で、いつもより往来は激しい。
商品も様々な物があり、探索に役に立つ者から日用品まで取り扱っている。歩いているだけで店員から声を掛けられ飽きることはなかった。
あの大道芸人凄いっすね。
剣飲み込んでるっすよ。
旨いんすかね?
旨いわけねぇっつーの。
まぁそれでガロン貰って
飯の種にしてんだから
そうゆう意味では
旨いんだろうな。
次はなんっすか!?
火が付いてる棒振り回し
始めたっすよ。
おーやるなアイツ。
八本も投げる奴は、
おっ……
ミスったっすね。
あの冒険者の装備、
焦げたんじゃないっすか?
す、すいません。
大丈夫ですか?
あ~あ~、
こりゃ焦げちゃってるよ。
目立つなぁそれ。
だっせぇな避けろよ。
あれぐらいよ。
これ高かったマントだろ?
ど~してくれんだ? あ?
すいませんすいません
ごめんなさい。
大道芸人を囲んでいた観客の輪が、広がり霧散していく。遠くから見ていたハルとランディだが、誰も助けない現状に足を前に進めた。
すいませんじゃなくて
どうすんだよ。
こんなの恥ずかしくて
着れねぇだろうが。
私今持ち合わせがなくって……
で?
だから?
本当にすみません。
お金貯めたら返すので
許してください!
あ?
それまで俺達に待てってのか?
やめろよそれぐらいでよ。
はぁ!?
誰だお前?
関係ねーだろ。
あ?
なんだコイツは?
仲裁に入った男を見て、大道芸人を脅す冒険者達は鼻で笑った。その男は小柄な大道芸人よりも背の低い男だったからだ。
まぁまぁ、ちょっと
端っこが焦げただけだろ?
探索に潜ったらそれぐらい
すぐ消耗するだろ。
ハル達よりも早く仲裁に入ったのは、ジュピターだった。観客達も仲裁に入ったのが小男だと知り、少し期待した表情を曇らせた。
おチビちゃん。
同情を買って誰かに
止めてもらおうと思っても
誰もそうしないと思うぜ。
誰がどう見ても俺達の装備は
高級品ばかり。
は?
迷宮の下層に行ける冒険者、
つまり腕が立つって
誰にでも分かるからだよ。
それが何?
びびって話忘れたか?
あ?
誰も助けてくれねぇってよ。
だから別にいらねぇって、
あんたら如きに助けなんて。
どうせ似非(エセ)だろ。
今のは失言だ。
お前終わりだぜ。
俺達がカッコだけとでも
思ってんのか? あ?
やれ。
あいつらの剣筋、
マジでカッコだけじゃねーぞ。
ハルキチ早く行くぞ。
大丈夫っすよ。
あ?
おいおい仲間なんだろアイツも。
まぁまぁ見てるっすよ。
観客の外の輪にハルは立ち止まり観戦し始めた。ランディはそれでも輪の中に入ろうと、人混みを掻き分けていく。
チョロチョロとうぜぇな。
抜けよ。
おチビちゃんも冒険者なんだろ。
え?
いいの?
いいぜ、
ぶちのめしてくれよ。
俺達悪党だしよ。
悪党?
じゃ、これでどうだ?
ああ?
キャッ!!
チャラそうな冒険者は大道芸人の首根っこを掴み人質として捕えた。
あんたら何階?
あ?
何階層まで潜ってんだ?
はぁん?
なるほど。
俺達は……
待て。
おチビちゃんは何階なんだ?
三階層だよ。
ぷはっ!
見た目どうり雑魚じゃんかよ。
俺達は六階層だよ?
マジでなめんなよ。
六階…………?
まぁ調度いいか。
ぐは、
何が?
ゥグ……
ば、馬鹿な……
速すぎ……る
めんどくせぇから
追撃入れとくか。
何だ今の動き?
速すぎる……
人質をどうこうする間もなく、ジュピターの峰打ちが三人を襲った。冒険者達は実力の差を身体で感じ、一目散に逃げていく。一応、相手の実力が分かるぐらいの力量はあったようだ。
また速くなったんじゃ
ないっすか?
見てたのか、ハル。
いやぁ流石っす。
やっぱ凄いっすね、
ジュピターは。
おいおい
速すぎんだろ今の。
あんなのに全力でやるか?
大人気ねーな。
ん?
そうか知らないんすね。
あんなの全然ジュピターの
全力じゃないっすよ。
は?
全力じゃない?
まぁ三割ってとこかな。
え?
三階層で尻尾巻いて
逃げたんじゃ……
あんなに強いのに
最強の爺ちゃんに
修行つけてもらったら
敵わなくなるっすよ。
強い?
あんなにチビなのに?
弱ぇんじゃねーのかよ。
初陣でウェルキアを
一人で討伐っすよ。
次の日に遭遇した時は
瞬殺だったっすし。
!
ウェルキアって一階層の強敵。
腕六本あるヤツだ。
あいつを初見で一人だと?
俺は六人がかりで
ギリギリだったのに……
ま、まじかこのチビ。
褒めすぎだろ。
むず痒いっての。
ランディは完全にジュピターに対する偏見を自覚した。シャインから聞いた情報が「弱っちいから修行してる」だったにしても、外見で偏った見方をしていた事を反省した。
ってか、修行いるか?
俺達よか遥かに速そうだし、
迷宮潜ってる方が
強くなれんじゃねーの?
おおーー!
そうっすよ!
ジュピターがパーティに
入ればいいんすよ。
それっす。
それが良いっす!
ハルはランディの話を聞き、それは名案だとばかりの勢いでジュピターに迫る。
なるほどな。
ハルだもんな。
そうゆうことか。
オイラもまだまだだけど
そうすっかな。
ジュピターの誤解が解け、ランディの偏見もなくなった。それでめでたくジュピターが返り咲くことになったが、二人は忘れていた。
ユフィが紹介された冒険者との顔合わせが、夕方にある事を……。