マギアフィラフト
~諷章~
はぁ~、
やっぱりそんなに都合良く
メンバーなんていないっすねぇ。
ランディの時が
タイミング良すぎたんだって。
そうですね。
流石にすぐには見付からない
でしょうけど、
きっと良いメンバーが
来てくれるって信じましょう。
ダナンとリアがディープスを発った翌朝、募集板に反応する者はまだ現れていなかった。
当然と言えば当然であり、1日2日では済まない可能性も充分にあり得る。
六階層以下に挑戦出来る冒険者で前衛を守れる者。更にで言えば、低層を目指す考えで2パーティ協力に同意してくれる者だ。更に付け加えると、呪われている男が一人いる事を承認してくれる者でもある。
流石にぼぉっとしてる訳には
いかないだろうから
俺達は軽く六階層に
行ってくるよ。
リュウは生来ののんびり顔のまま、誰よりもぼぉっとした眼でそう言った。
ユフィはそののんびりさ加減に少し呆れたが、言っている事は正論なのでリュウの申し出を了承した。
ボク達も全員で待ってても
しょうがないですから、
順番に行動していきましょう。
そうね。
じゃあまだ食事している
ハルとランディに
ここに居てもらうわ。
もし誰か来るようだったら
私に連絡して。
今からリーベの所へ行くから。
何もなければ
昼にもう一度集合ね。
分かったっす。
早く良い人が来るように
祈りながら待つっす。
誰か来たら
一人がここで待って貰って
一人が私に連絡よ。
おう、分かってるって。
任せな。
楽勝だっつーの。
そうして、ハルとランディを残し酒場を出て行く。
何か難しい顔をして祈っているハルを眺めながら、ランディは皆の背中を見送った。
誰か良い人来ますように。
誰か良い人来ますように。
誰か良い人来ますように。
誰か良い人来ま……
あれ!?
二人だけ?
今日は探索休みか?
お!?
ハルの祈りがどう伝わったのか、修行中のジュピターが朝っぱらからこの冒険者の酒場に現れた。
ランディは一度顔を合わせていたので、直ぐに自分がこのパーティに入る前のメンバーだと思い出した。
お~!
ジュピター!
おはようっす!
朝からここに寄るなんて
珍しいっすね。
あ……ああ。
たまには朝も良いかなってな。
実は修行もひと段落して
もう一回パーティに
入れて欲しいなんて
どう言やいいんだ?
メンバー7人とか
ややこしいしなぁ。
…………
そうなんすね。
何か食うっすか?
いいよ。
ジッチャンと食ってきたから。
コイツこんなにチビなのに
冒険者してたのか?
でも弱いんで自分から
身を引いたってシャインが
言ってたし……
まぁそう言わないで
この卵食うっす。
メチャクチャ旨いっすよ。
マジで腹一杯だからいいって。
ってか知ってるし。
シャワ鶏の蒸し卵だろ。
やっぱハルにでも
言い出しにくいな。
誰か欠員出てたら
こんなに明るくないだろうし。
皆いないけど元気にしてる?
勿論皆元気っすよぉ。
やはり。
いや、その方が良いんだけど。
もしかして誰か故郷に
帰ったりとかあるかと
思ったが甘かったか……
しっかし暇っすねぇ。
やる事ないから
調度良かったっすよ。
何で今日は二人なんだ?
あ、ちょい待ったっす。
ちょいトイレっす。
今、メンバー募集しててな。
早く見つけてーから
一応二人づつ待機ってやつだ。
メンバー募集!?
いや待て!?
メンバー募集なのに
何でハルから誘われないんだ?
しかも早く探索行きたいのに。
このチビ確か
有名な冒険者え~っとそう
ジンって人の孫だったな。
なんか修行してるみたいだし
誘うのは野暮ってもんだよな。
それって何か
条件出してんの?
六階層以降の攻略で前衛かな。
あのハゲが抜けたからな。
ハゲなのに抜けた!?
いやいやそんな事はいい。
旦那が何かで抜けたんだ……
(ハゲなのに……)
もしかして六階層だから?
オイラには
無理だと思われてる?
…………
…………
おいおい、
なんか会話続かねーな。
ハル、
トイレ長くなーか?
遅いなハルキチの奴。
そ、そうだな。
ぁゎゎゎゎゎぁ。
やっぱりそうだ。
このイケ面も誘わないじゃん。
そう言えばハルも
何してるか聞いた時、
そそくさとトイレに行って
長い間帰ってこないし、
やっぱり戦力外通知
出されてんだよこれ~(泣)
大体食い過ぎなんだよ、
いつもよ~。
あれで太らねぇってのが
理解できねぇ。
どうでもいい話を。
さり気なく次の話題に
したつもりだな。
チキショ~、
戦力外通知とはぁ~、
く、
くく、
悔しいーーーー!!
ハルはそれ以上に
馬鹿程動くからな。
訓練やらなにやらで。
それな。
でオタクは
順調なわけ、修行?
…………
ほぼ初対面の二人は、ぎこちない会話とすれ違いの交差点で感情の衝突事故を起こしていた。
巨大な荷馬車が昆虫を踏み潰したような事故で、事故を起こしたとも思っていないランディと、真正面からプライドをズタズタにされた(と思っている)ジュピターは、手を取り合う事はなさそうだった。
オイラ弱いんで
まだまだ修行中かな。
わっはっはっは。
そか。
頑張れよ。
渦巻いた感情の末に出たジュピターの言葉は、やせ我慢と見栄とえもしれぬ心地悪さからだった。それは事情を知っていれば、何かに抗する見えない糸に踊らされた操り人形の如き姿だった。
そんな事もしらないランディの純粋かつ単純で涼やかな応援は、真っ直ぐに飛ばず、ねじり曲がってジュピターに聞こえたに違いない。