――ベインスニク、ベインタック商会邸。

召し使い

おはようございます、ネピア様。

ネピア

おはようございます。

召し使い

!?
ネピア様、
御身体の具合は大丈夫ですか?

ネピア

やっぱりちょと顔に
出ちゃってるかな?
実はあまり寝付けなくて。

召し使い

御身体に触ってなければ
良いのですが。
直ぐに医者をお呼びしましょう。

ネピア

違うんです。
ちょっと夢を見て
そこから
眠れなかっただけなんです。

召し使い

そうでしたか。

ネピア

お姉ちゃんが出てきたんだけど
どうも周りの人に振り回されて
大変そうな夢だったの。
それで思い出しちゃって。

 ネピアは姉であるユフィの事を思い出して、昨晩眠れなかった。寝不足の目元を弱冠気にしながらも、メイドに笑顔を見せた。

ネピア

無茶してなけりゃ
いいけど……

召し使い

リュウ様も御一緒しているのに
旦那様も本当に心配じゃ
ないのでしょうか。

ネピア

オジさん仕事ばかり
だもんねぇ。

召し使い

今朝なんて早朝から飛び起きて
どこかの商人とお会いに
なっているようです。

ネピア

え!?
今この時間でしょ。
もっと前に?

召し使い

そうです。
まだ薄暗い時間です。

ネピア

仕事熱心なのは良いけれど
心配とかしない人なのかな?

召し使い

まぁ、他人以上に御自身に
厳しい人ですから。

ネピア

はぁ~

召し使い

はぁ~

 ――ベインスニク中央通り。

屋敷の主人

で、様子はどうなのかね?

商人

御子息は健康そのものです。
探索も充分なスピードで
進捗しており非常に
優秀と言えるものでしょう。

 ベインタック商会の主人、そうリュウの父親と話していたのは商人だった。どうやら何かを報告しているようだ。

屋敷の主人

詳細は?

商人

お連れの方々には
様々な者がいまして
御子息とベルゼビュートさんが
リーダーとなり二つのチームを
組んでいるようです。

屋敷の主人

二つのチーム……

商人

単純に人数の関係も
あるのでしょうが、
お互いの情報や資金を
共有しており、
機能的に動いている模様です。

屋敷の主人

なるほど。

 屋敷の主人は一言ごとに軽く返事をして、何か思いを馳せているようだ。

商人

不思議なものですね。
チームが力を併せるのは当然。
そして別のチーム同士が
協力しお互いの為に動く。
更にそれは国の為でもあり
自分達や周りの者の為でもある。
このベインスニクを発展させた
貴方と私の父のように。

屋敷の主人

街の発展は、
住人の力に寄るものだ。
私と君の父上は、
それを助けただけだよ。

商人

父も同じ事を申しておりました。

屋敷の主人

君の父上は偉大な方だった。
私も様々な事を沢山教わった。

商人

…………

屋敷の主人

どうしたのかね?

商人

驚きました。
それも父が申しておりました。
彼は偉大で沢山教わったと。

屋敷の主人

そうでしたか。

商人

はい。

 商人の父親は病でこの世を去っていた。

 その亡き人をそれぞれが思い出し、万感を胸に抱き笑った。空には真っ白い鳩が飄々と風に乗り飛んでいた。








 そして商人はその偉大な父親の地盤を引き継ぎ、商いを続け、旧知であるベインタック商会とも交流を続けていく姿勢だった。そうして、少し前にリュウとユフィの事を頼まれたのだった。

商人

あとどうしても
気になることがありました。

屋敷の主人

なんだね?

商人

彼等の金銭の使い方です。
商人という立場上、
聞くに絶えない扱い方かと。

屋敷の主人

なるほど。

商人

御子息に問題はないのですが
その周りの者の悪銭には
閉口するばかりです。

 金を扱う商人としてどうしても気になるその使い方。少々のことなら本人の自由だが、報告対象であるリュウの周囲の者達・つまりハル達の金の扱いが酷いと言っているのだ。

商人

金銭を使うのは人間だけ。
極論、
人を構成する大事な要素に
金銭というものは絶対。
人を人たらしめるのは金。
この扱いがいい加減な者は、
人として重大な何かが
欠けているとしか
言わざるを得ません。

屋敷の主人

その者達の中の二人を
私は知っている。
私の大切な家族を
探し出してくれた者だ。

商人

ご存知でしたか。

屋敷の主人

その若者達はどのような
金銭の礼も受け取らなかった。
おそらく金を持たず
窮しているにも関わらずだ。
それどころか旅先で知り合った
病人の事を気遣っていた。

商人

…………

屋敷の主人

勿論、君が言った事は正しい。
金なくして人は語れない。
金の使い方でおおよその
人格が我々には分かる。
その若者達も我々が見れば
狼狽する使い方をするのだろう。

商人

その通りです。

屋敷の主人

だが私が見た若者達は
金の上に人を置いていた。
金を優先せず、
人に重きを置いていた。
それは金以上に
人を人たらしめるものなのだ。

 主人は何かを思い出すかのように空を飛ぶ鳩を眺めた。そのあと、真っ直ぐに自身の友人の子を見据え伝えた。

屋敷の主人

それは得難き美徳。
金に固執すれば
容易に得れぬもの。
それを持っていれば
金の使い方など後からでも
身に付くものだ。
だから私は信じるよ。
我が子とその友人達をね。

 商人は亡き父が尊敬していた友人を前に、父からの言葉と聞き違える程感銘を受けた。


 「おそらく父が私に伝えられなかった分、伝えようとしてくれているのだ。」


 その熱い想いを胸に受け止め、商人は心に言葉を刻みつけた。

『人を人たらしめるもの』

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