そう、その日の放課後もまた、トオルは忘れ物を取りに教室に戻ったのだった。
そう、その日の放課後もまた、トオルは忘れ物を取りに教室に戻ったのだった。
お前、ホント忘れっぽいのな
なぜかトオルの席に座っている生物教師笹塚は、頬杖をつきながらトオルを見上げる。
誰のせいだと・・・
ん?
か細い声で言うトオルに、笹塚先生はわざとらしく問い返す。
・・・
トオルは何も言わずに先生の前の席についた。その頬が上気していることには目もくれず、笹塚先生は百人一首の本をぱらりとめくる。
かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞふけにける
かささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける
かささぎ?
とはなんぞや。
うん、と、カラスの仲間、だと
へー
さ、現代語訳、と
笹塚先生は本をしばらく流し目で読むと、やおら顎に手を当てて数秒の間天井を見上げて言った。
いやー、長居しちまったなー
え? それが意味ですか? ホントすか?
かささぎはどこに行ったのか。毎度のことだが笹塚先生の解釈は超訳すぎてトオルは今回も置いてけぼりの様相を呈し始めている。
もちろん、先生の勝手な想像にすぎないが
と、前置きをした上で、迷探偵笹塚の推理はこうだ。
・かささぎの渡せる橋→天の川の橋
つまり、想いの成就
天の川は織り姫と彦星が会うための橋だからってことか
そうだ! そして、
・夜が更けて 霜が降りている
・・・はっ!
そこでトオルにもようやく笹塚先生が何を言わんとしているかがわかった。
想いが叶って夜が更けた、ということは?
うわーうわー
うぶだねぇ
うるさい!
笹塚先生のにやけ顔に心底腹が立つトオルであった。
笹塚メモ
・大伴家持(おおとものやかもち)
・詠み人知らずの可能性が高い
・新古今和歌集より出典
詠み人知らずってやつ多いっすよね
そうだな
なんでなんすかね?
忖度が、あったんじゃねぇか
まじすか
さあ、わからんな。なにせ大昔のことだし
ま、そりゃそうだ