――冒険者区、中央通りドルサック商店前。
――冒険者区、中央通りドルサック商店前。
結局、リアとダナンに渡された莫大な祝儀は、ハル達の装備を買って使うことになった。
おお~ぉ。
なんだかこの場所久びさっす。
普通は地道にガロンを貯めて
装備を少しづつでも
良くするものよ。
ハルはまったく金貯める気
ないもんな。
報酬貰った途端に
つまんねーもんに
使っちまうからな。
今を逃したら
まともな装備は二度と
買えないんじゃないか。
それなら一層
武具に詳しいガーナッシュさんが
いてくれて心強いですね。
ガーナッシュもリアを見送りに行くついでにここに同行していた。
粗野で適当なデメル達と違って、ガーナッシュは理知的で武具にも深い見識を持ち合わせている。折角だからハル達はご意見戴こうと半ば強引についてきてもらったのだ。
11人分の装備となると
良質な装備を一人一つと
いったところだな。
なるほど。
半端な装備幾つかより
ずっと使えるもんを一つの方が
良いってわけか。
確かにそうかもな。
わぁ~♪
武器が沢山あるぅ。
こんな場所だったんだ。
シェルナはどうやら初来店だったらしく、店内の天井まで積み上げられた武具に圧倒され声を漏らした。
店内に客は居なかったが、ハル達は14人居たのであっという間に店内が混雑状態になった。
懐かしいっす。
そうそう量産品の刀ばかり。
メチャクチャ懐かしいっす。
おい、そこの素寒貧。
先頭の騒がしいハルの声で、居眠りから覚めた店員は、愛想の欠片も見当たらないトーンでハルを睨めつけ呼び示した。
貧乏の分際で
入ってくんじゃねーよ。
出てけよ穀潰し。
アホ面したお仲間も一緒にな。
ハルの顔を覚えていたのか、何の確認もないまま店員は暴言を放った。ハルの後ろにタラト、ダナンと金持ちに見えない風体の二人が見えたからだろうか。
何にしても不遜な態度でカウンターに戻り、改めて居眠りを始めようと椅子にうな垂れて座った。
100万ガロンあるわ。
へ!?
へ?
じゃないわよ。
なんて言うのよ?
いらっしゃいませぇ~$$$
あれだけの悪口を放っていた店員は、大量のガロンを目の当たりにし一変した。リアは勿論、ハルにもへつらい、へりくだり、敬って崇め奉る勢いだ。
そして店の奥の細い通路に案内され別室に通された。手狭だった店内とうって変わり、ゆったりとくつろげるスペースがあり、14人でも狭いと感じなかった。
そこには武具など陳列されていなかった。おそらく、希望の品があれば奥の部屋から運んでくるのだろう。
暫くすると、茶が運ばれてくる。高級で上品そうな茶菓子も振舞われた。
凄く美味しいです
このお菓子。
このデザインも
素敵で可愛いですね。
え!?
どうやって食うんすか?
え? お?
あれ美味っ!
少なっ!?
お!?
もう一個貰っていいんすか?
あれ? え!? 美味っ!
ハァグペロムチャモグ
グチャハムプロクチャ!
ズズズズズヅヅズズ!!
気品の欠片も見当たらないハルとタラトにも引き攣りながらも笑顔を忘れない店員は、早速本題に入ろうとせず、世間話を始めた。
流石商人と言えるのだろう。手遅れ感は否めないが、人間関係を構築しようとする健気な流れだ。そして一通り世間話をしたところで本題を切り出してきた。
ところで本日はどのような品を
ご所望でしょうか。
在庫のリストなどあるか?
かしこまりました。
少々お待ちください。
機敏でテキパキとした動きは、先程カウンターで寝ていた者と同一人物とは思えない。茶菓子を御代わりしまくって食い尽くす間、ガーナッシュがリストを見て、店員に素早く指図していった。
ハイドライトソード
音速の鞭(オンソクノムチ)
カルツ・オルネ
九頭桐丸(クズキリマル)
赤龍(セキリュウ)
銀の盾(ギンノタテ)
暁の仮面(アカツキノカメン)
リング・オブ・リカーナ
印老痕(インロウコン)
静寂の金輪(セイジャクのキンリン)
冥血六界(メイケツロッカイ)
一流の武具がテーブルに並べられる。輝いて見える一つ一つに、ハル達は目を奪われたように視線を這わせた。
ハルの前には当然のように刀がある。『九頭桐丸』と銘打たれた刀からは、明らかに量産品と違う次元の力を感じた。
ガーナッシュがそれぞれの品の説明を丁寧にしている。それを脇目にも置かず、ハルは刀をじっくりと見始めた。
綺麗っすね。
逆丁子(サカチョウジ)の
刃文(ハモン)が幾ら見ても
飽きない美しさっす。
…………
中切先(ナカキッサキ)が
特に実戦重視っすね。
反りが浅くて
短めだから使い回しが
きっといいっすよ。
それに……
ん!?
シャセツどうしたんすか?
刀触ってる時は
大人しい奴だなってな。
あーーー!!
そうだ!
シャセツっすよ!
この刀、
絶対シャセツに合うと
思うっすよ。
!?
皆、ハルが刀を使うものだと思っていた。そもそもガーナッシュもそのつもりでいたのだ。
疑り深い目でいたシャセツだったが、ハルの真剣さに当てられ刀を手に取る。今迄、真っ直ぐな直刀を使用していたシャセツだったが、持った瞬間に眉を上げ反応を示した。
馴染む……いや、
手足の一部と錯覚するほどだ。
そんな気がしたっす。
それにしても相変わらず凄い……
おい、その銀の盾で
ちゃんとガードしろよ。
え!?
っちょ、っま……
あーーーー!!
銀の盾が!?
ま、真っ二つに!?
あーあ、
7万7千ガロンがおじゃんね。
まっ、アタシの盾じゃないから
いいけど。
銀の盾、お買い上げ
ありがとうございます。
うそーぉっす!
自分の装備この
真っ二つの盾っすかぁ!?
ほんと騒がずには
いられないのね。
素晴らしい刀だ。
気にいった。
俺はこれにするぞ。
ハルの悲鳴の中、『九頭桐丸』はシャセツが使う事になった。
皆、それぞれがガーナッシュの選んだ品の中から決めていく。どうやらハル以外の全員はそれで決まりそうだ。
涙目のハルはシェルナとアデルによしよしと頭を撫でられていた。
!?
ハルは何かを感じた――――
何か……ハルにだけ感じる何かが――
それは店の表側。量産品ばかり雑多に積み上げられているあの場所からだ。
何かはわからない。共鳴するような何かを感じ、ハルは一人、導かれるように足を進め室を出た。