ハル

ゥヴベグェズズェ~
ヅベヴェジェシェススズゥ~

 ヴィタメール達が語る昔話の途中、それはそれは話の腰を折るには充分なハルの嗚咽が響き渡った。

ヴィタメール

流石に泣きすぎでしょ。

ハル

ダダダダダッデゾノヒド
ゾノヒドォ~?

デメル

おいおい大袈裟な奴だな。
それに昔話だぜ。

ハル

ムガジッデイッダッッデ
ガナジイモンハガナジインズヨォ。

フィンクス

鼻水ズルズルで
何言ってるか聞こえないぞ。

アデル

ハルは優しいから
涙が止まらないんです。

ユフィ

優しいってのを
否定する気はないけど、
そこに底抜けの馬鹿が
混じってるのは確かよね。

 ユフィの酷すぎる突っ込みに、ドッと笑いが起こる。隣に座るシェルナに頭をよしよしされるハルは、それでも泣き崩れていた。

リュウ

それで、そこからリアは
素直になったのか?

デメル

そりゃあそこから俺が心を
溶かしていったんだよ。
なぁ? リア?

リア

はーい全然違~う。
あんたは全く無関係。

デメル

照れてやがる。
まったく素直じゃないやつだ。

リア

そりゃあ目の前で
何人もバタバタ死んだら
気付くわよ。
心を閉ざしてても良い事ない。
誰が死んでも悲しいし
死なせたくなんてない。
どうせ探索続けるなら
意志疎通はするべき。
他人との付き合いは
意見が衝突したり
煩わしい事も多いけど
一人で生きていけるほど
やわな世界じゃないって。
そんな事にやっと気づいたのよ。

ダナン

まだまだ未熟だったんだな。

リア

まだルーキー卒業したばかりの
男に言われる筋合いはないわ。

ダナン

急に先輩風吹かせ始めたぞ。

リア

いや先輩だし。

ダナン

俺等一応夫婦だよな?

リア

モチロン♪
でもここでは私は先輩♪

ロココ

完全にダナンさんは
尻に敷かれそうですね。

フィンクス

完璧にそうなるな。

ハル

ジリニジガレジュッデ
ドドドォユウジジッジュガ?

ランディ

ハルキチ、鼻水大量に
スープに入ってんぞ。

 冷静なランディの突っ込みから場はさらに荒れる。



 ハルはスープが勿体ないと言っているようで、でも今は飲む気分ではないとタラトに冷めない内に譲ると勧める。タラトは訳も分からず飲もうとしたが、類まれない嗅覚で異変を感じる。毒物が混入されてると感じたタラトは、スープを皿ごと放り投げる。その皿はダナンの頭に着頭(スパゲッティの件で以前もあったので着地を『着頭』の造語で採用)し、鼻水だらけスープをダナンは頭から浴びた。

 ブチ切れたダナンは鼻水だらけのハルとタラトを交えて乱闘を始めた。



 もうすぐディープスを発つ仲間との別れを惜しむように乱闘は続く。一瞬でK.O.されたハルを横目に、ダナンとタラトが我慢比べの殴り合いを始めた。胸板や腹を全力で殴りそれに耐え、攻守が交代する。お互い絶対に痛いのを堪え、強がって効いてないふりをする。


 馬鹿そのものの二人をユフィとシャセツは視界にさえいれず茶をすする。止めようとするも止めれないアデルや、圧巻の迫力にどうする事もできないロココ。リュウとフィンクス、そしてランディにヴィタメールはどっちが勝つか賭け事をし始めた。


 そして金の話で眉を上げたシャインが、思い出したように問いを放つ。

シャイン

ねぇ、そのお金、
何に使うの?

 なんてこと聞くんだと全員思ったが、シャインだから仕方がないと皆その気持ちを静め込んだ。そしてお金とは、ヴィタメールが贈った餞別100万ガロンのことだ。

リア

じゃ、こんなにあっても
しょうがないから皆で使えば。

シャイン

キターー(゚∀゚)ーー!

ユフィ

ちょっとそれは駄目よ。
二人の門出なんだから
そんな適当に貰っちゃ
駄目でしょ。

シャイン

まぁまぁそんな硬いこと
言いっこなしじゃん。

ユフィ

でも流石に……

 あまりにも巨額のガロンの話は少しこじれそうになった。その時…………

なら私が頂こうか?

 テーブルの後ろからの声。それは聞きなれぬ男性の低い声だった。

シェルナ

ん?
誰!?
この人?

 声を挙げたシェルナを筆頭に、視線をその男に移すが見覚えはない。

ガーナッシュ

目的を果たしたのか、リア?

ヴィタメール

ガッシュ。
君にいくお金なら
僕達が口を挟むよ。

デメル

その通り。
まぁ俺の金じゃねーけど。

リア

私達が貰ったものは
私達の好きに使うわよ。
まぁ、ガッシュには
あげないけど♪

ガーナッシュ

まだ生きていたようだな。
それにちゃんとガーナッシュと
呼べと何度も言ってるだろ。

ハル

え?

 気絶していたハルは、目の前の人物がガーナッシュだと聞こえてきた瞬間、起き上がってきた。ガーナッシュを知らなかった皆も、生きていたことに目を丸くしている。昔話では死んでしまったと思っていたからだ。

ヴィタメール

別に死んだなんて
言ってないよ。
その後も暫く一緒に
潜ったしね。
今は違うパーティだけど。

ガーナッシュ

何の話か知らんが
勝手に人を殺してくれるなよ。

ハル

生きてて良かったっす。
ホホホホントウニヨカッタッスヨォォ~。

ガーナッシュ

なんだこの小僧は!?

 そこからハルの号泣は堰を切ったように溢れ出した。引き剥がそうとしてもガーナッシュに寄りかかるハル。


 訳も分からず目の前の見知らぬ小僧の鼻水を大量に浴び続け、ガーナッシュは魔物との戦闘以上の地獄だと後に語ったという。

 ~円章~     155、濁流

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