――5年前。デメルとヴィタメールが新米の頃。

デメル

何で俺達が追い出されなきゃ
なんねーんだ?

ヴィタメール

武者修行ってことだろ。
僕達はオヤジ達の
強いパーティにいるから
自然に守られてる。
だから他の冒険者と
一緒になって苦労してこい
ってことだね。

 デメルとヴィタメールは、所属しているパーティから離れ、他の冒険者と待ち合わせしていた。



 その理由はヴィタメールの察した通りだった。まだ新米の二人に、迷宮の過酷さを実感してもらう為、パーティリーダーが言い渡した経緯だ。

デメル

なるほどな。それじゃあ、
あっさり片付けてやりゃ
良いってわけだ。

ヴィタメール

そうゆうことだけど
油断は禁物だよ。

デメル

へいへい。
お!?
あいつらじゃねーか?

 二人が階段室に入ると、あらかじめ聞いていた風体の冒険者が三人入口付近に待っていた。

ゲイドウィン

君達がデメル君と
ヴィタメール君だね。
私はゲイドウィン。
今日からよろしく。

ヴィタメール

よろしく、僕はヴィタメール。
パーティの欠員が出たんだよね?

コーティ

コーティだ。
募集板で正式なメンバーが
決まるまでだが頼むぞ。

デメル

俺はデメルだ。
まぁ俺様が来たからには
安心していいぜ。

ガーナッシュ

私はガーナッシュ。
我等の足は引っ張るなよ。
意気込んでる奴ほど
あっと言う間に死ぬ。

ゲイドウィン

ガーナッシュ!
失礼だぞ!

デメル

気にすんなって。
俺達ぁ毒舌にぁ耐性あるからよ。

ヴィタメール

確かに。
それよりもう一人は
まだ来てないの?

コーティ

!?
あいつじゃあないか?

 コーティの視線の先には、暗い影を背負った女冒険者が歩いていた。その女冒険者はどうやらこちらに向かってきているようだった。

リア

あなた達ね。
じゃ行くわよ。

 まるでデメル達のことなど気にすることもなく、女冒険者は自身の名前すら告げずに、迷宮入口の方へ足を向けた。せっかちなのか不愛想なのか、それともその両方なのか。

ガーナッシュ

おい、いくら助っ人だと言え
名前くらい名乗ったらどうだ。

リア

リアよ。そんなことは
階段を下りながらでも出来る。
さっさと行くわよ。

コーティ

やれやれ。
癖の強いのばかりだな。

ガーナッシュ

そこそこは使えるな。

 ガーナッシュのパーティは地下四階の探索を進めていた。デメル達の実力もあり、危なげなく探索は進んでいた。

ゲイドウィン

今日は初日だし、
これぐらいで引き揚げようか。

ヴィタメール

あ、それも良いかもね。

リア

何ぬるい事を。
さっさと奥へ行くわよ。

コーティ

やっと喋ったと思ったら……

ガーナッシュ

女、いい加減にしろ。
安全策で言っているのが
理解出来んのか。

リア

安全策!?
安全を望みなら酒場で
騒いでりゃいいでしょうが。
チンタラやってらた
何も進まないわ。

ガーナッシュ

調子に乗りおって、

ゲイドウィン

待てガーナッシュ!
リアの言う事も一理ある。
だから今日はその間、
あと二戦だ。それで帰る。
それでいいな?

 リアの態度に憤るガーナッシュを抑え、リーダーのゲイドウィンが今後の行動を決める。リアはそれにも愛想をつかしたような視線でありながらも、黙って先に進もうと背を向けた。

デメル

おいおいツンツンすんなって。
楽しくやろうぜ、なぁ?

リア

私に関わらないで。

デメル

ヒュ~♪
怖ぇ怖ぇ。

 誰も寄せ付けないリアの心の壁は、分厚くて、そして冷たかった。迷宮の奥地の闇に向かうその姿はとても寂しく映った。

コーティ

いい加減にしろよ、
テメー!
俺達が優しくしてたら
付け上がりやがって!!

リア

!?

 あっという間の出来事だった。


 迷宮の闇から音もなく現れた魔物は、リアの肩を掴んだコーティの首を難なく地面に転がした。







 リアは数舜前に気配を察知したが、何の反応も出来なかった。一番先頭を歩いていた時に、コーティがタイミング悪く近付いてきたのだ。位置関係のせいか魔物はコーティを狙ったが、彼が来なければ間違いなくリアの首は繋がっていないだろう。――そう、眼を剥いたまま恨めしそうにリアの方を向いている今のコーティの首と同じく。

ガーナッシュ

コ、コーティ!

ゲイドウィン

落ち着けガーナッシュ!
呼吸を整えろ!
我等に向かってきているぞ!

ガーナッシュ

コ、コーティ……
くそっ!
俺が――

ゲイドウィン

駄目だガーナッシュ!
こいつは強敵だ。
皆で力を併せるんだ!

ガーナッシュ

俺が殺る!

 ~円章~     152、冷たい壁

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