ギダの多額の借金をヴィタメールが買い取り、この場の清算が終わった後――

リア

皆……ありがとう。
やっとギダに……

ヴィタメール

金ならどーって事ないよ。
気にしないで。

デメル

リア……

リア

そしてダナン、
私を止めてくれてありがとう。
あのまま感情に任せて
ギダに手を掛けていたら、
永遠に私は戻ってこれなかった。

ダナン

よせよ。
仲間だろ。
当然の事をしたまでだぜ。

リア

ずっとギダに
復讐することを考えていた。
もう戻ってこない家族のつらい
表情が頭から消えなかった。
復讐を遂げて
自分も死ぬつもりだったわ。

ダナン

俺はよ、自分が孤児で
家族なんてもんは知らなかった。
ガキの頃は周りを見ては孤独だと
毎日のように悲観したもんさ。
病弱でいじめられてたしな。

ヴィタメール

…………

ダナン

でもリアの話を聞いて、
初めから失った者より
後から失う者の方が辛いと
気付かされたんだ。

デメル

…………

ダナン

だからよ。
お前に死なれちゃまずいだろ。
俺はもうお前の事
仲間だと思ってんだからよ。
……死ぬなんてよ、
しかも人を殺して……
何も浮かばれねぇままでよ。

リア

分かってた。
ギダを殺しても何もならない。
私が失った家族は
決して帰ってこない。
それでも空っぽの私には
そうするしか出来な――

ダナン

空っぽじゃねーよ。

リア

!?

ダナン

俺の中にリアが居る。
俺達は一緒に探索に
潜ったわけじゃねーが
他の誰だってそう思うぜ。
それと同じように
リアの中に俺達も居るはずだ。

リア

私の中に……

ダナン

だから死ぬなんて言うな。
あんな男の為にこれ以上
自分を捨てるなんて
俺は許せねぇんだ。

リア

その割にかなり無謀な
対決になったじゃない。
ヴィタメール達が来てくれたから
助かったけど。

ヴィタメール

僕達は詳細を知らないけど
リアを止める為じゃないかな。

デメル

どうせ負けてたら
止めたくせに自分でブッ叩く
つもりだったんだろ。

ヴィタメール

それは間違いない。
最後は力づくだよね。

ダナン

リアがやるくらいなら
俺がやってやるってな。
まぁ、公的にぶっ潰すのが
ベストだからな。

リア

あんた……
そんなつもりで……

ダナン

本当は暴力に訴えるなんて
駄目ってわかってるけど
いいんだよ、んなもん。
仲間が不幸になるくらいなら
カジノだろうが世界だろうが
敵に回してやるぜ、俺はよ。

リア

馬鹿…………
ほんとに、ば、か……
皆に嘘ばっかりついてた
私なんかの為に。

ダナン

つらいけどよ、
きっと悲しみは消えない。
勿論忘れるなんて出来っこない。
だけど決着したんだ。
あの野郎を懲らしめてよ。
だからこれからの自分の為に
過去は受け入れて、
未来を向かねぇか?

 ずっと俯き加減だったリアが、ダナンの言葉を受け顔を上げた。

リア

あーもう、うっさい!
全部分かったわよ。

デメル

おー、怒らせちまったな。
馬鹿なやつだぜ。

リア

確かにこんな詐欺師に
関わったのは、
不幸でしかなかった。
どんなに悲しんだって
家族はもう帰らない。
それに思ってたのと違ったけど
復讐してやった。
これからもたっぷりと
絞ってくれるわけよね。

ヴィタメール

もちろん。
溜め込んだ財産吐き出させて
くたばるまで働かすつもりだよ。

リア

うっし。
たっぷりいたぶって頂戴。
後の事は任せるわ。

ヴィタメール

いいけど、
どうしたの急に?
あんまりうるさいから怒った?

リア

帰るの。
故郷のレイマールに。

デメル

うぇっ!?
なんでだよ?

リア

家族への報告よ。

ヴィタメール

なるほど。
新しい一歩を進む為には良いね。

ダナン

だな。
又、帰ったら顔出せよな。

リア

何言ってんのよ。
あんたも行くのよ。

ダナン

はぁ?
なんでだ?
護衛なんていらないだろ?

リア

違うわ。
あんたも報告に行くに
決まってんでしょ。

ダナン

何のだよ?

リア

結婚よ。
私達の結婚の報告よ。

デメル

あん!?

ダナン

何言ってんだ?

リア

結婚するの。

ダナン

だから何言ってるか
わかんねーっって!

リア

私とあんたが結婚するの。
これは決定事項。
分かった。

 話の流れが誰にも分からなかった。

 デメルが『実はてめー俺の知らないとこで、リアにちょっかい出してやがったのか?』と聞こえてきそうな眼光をダナンに放っていた。

 無論そんな事実はなく、ダナンの反応からリアが突拍子もないことを言っているのが誰にでも伝わった。

リア

そうと決まれば
早速行動しましょう。
はいはい急いだ急いだ。

ダナン

おいおいおいおい。

 ダナンの太い腕を両腕で抱きカジノから出ようとするリア。

 リアに好意を寄せていたデメルは、訳の分からぬ展開に全身を震わせていた。

ギダ

あの娘……
絶対に許さん。

 ギダはヴィタメールに多額の負債を受けながらも、去り行くリアとダナンの背中に目にも見えそうな憎悪を飛ばしていた。

  ゆ…… 
  許さん。 

デメル

テメーこらクソ詐欺師が。
リアに散々酷い思いさせた
みてーだな。
リアが許しても
俺様が許すわけねーだろ。
全身に風穴開くまで
鉄拳叩き込んでやるぜ。

おらぁ避けんじゃねー!
俺は猛烈にムカついてだよ!
死んで詫びろや、ウラウラァッ!

僕も勿論ムカついてるから。
腹は僕が殴るよ。
ホラホラホラ~♪

意外に頑丈じゃねーか。
まだ風穴開かねーぞ。
ウラウラァ!

か、勘弁してくれ。
かかか、金は返すから。

テメー、
なんか勘違いしてねーか?
金なんざぁどうでもいいんだよ!
ウラウラウラウラァ!!

そのとおり。
金返せっ!!
直ぐさま全額返せ♪
ホラホラホラホラホラァ♪

ウラウラァッ!
向こう側の景色見せろや!!

金返せ!
金返せ!
金返せ!
金返せ!

ゴードン

滅茶苦茶だなこの二人。

金貸しの男

まったくだ。
ギダが可愛く思えるよ。

ゴードン

俺、真面目に生きるわ。

 ギダへの制裁は、リアを盗られたデメルの逆恨みとそれに便乗したヴィタメールの悪乗りが殆どを締めていた。

 ――カジノを出た二人。

ダナン

おいおい離せって。
一人で歩けるからよ。
でもよ、何で突然……

リア

夫婦だったら
腕組むぐらい普通でしょ。

ダナン

それが一番
訳わかんねぇんだ。

リア

あれ?
嬉しくない?

ダナン

そ、そんなんじゃねーよ。
そりゃ嬉しいに決まってる。

リア

やっぱり可愛いとこ
あんじゃん♪
よしよし。

ダナン

茶化すなって。
で……、
本気にしていいのか?

リア

もちろん。
何故ならあんたは私を
止めてくれた。
何の見返りもなく純粋に
自分の身を挺してね。

ダナン

だからそれくらい
当たり前だろ。

リア

似てると思ったのよ。
あんたと私は。

ダナン

…………

リア

あんたは私の過去を知って、
家族を失う辛さを感じた。
天涯孤独である
自分の境遇と比べてもね。
それを聞いて私も気付いたわ。
あなたと違って私には
少なからず幸せな家族との
思い出がある。
もう戻らないけど確かに
それは私の胸の内に残っている。

ダナン

そうだな。

リア

贅沢なんて言葉おかしいけど、
そんな感情が湧いてきて
不思議とあんたの言葉が
スッと心に入ってきたのよ。
過去を受け入れて
未来に目を向けるってね。

ダナン

そんなくさい事言ったか?

リア

まぁた照れちゃって♪
……まぁそれで、思ったの。
あんたと私の境遇は違う。
でもあんたとなら――
あんたと新しい家族になれるなら
絶対に大事に思ってくれるって。
違う?

ダナン

ああ、そうだな。
絶対にそうする。

リア

でしょ~う♪

ダナン

そしてここに誓うぜ。
俺の初めての家族・リアに、
これから共に前を向いて
歩いて行くことを。

リア

ありがとう。
私も誓うわ。

ダナン

うっし、それじゃ
一件落着だな。

リア

そゆこと。

ダナン

それじゃあ行くか。
レイマールに。
リアの家族に報告しに行こうぜ。

 二人は同じ気持ちに満たされ肩を並べて歩いた。もうすっかり日は落ち、街灯は通りを照らしている。



 人生の岐路を過ぎた二人は、この先を硬く誓い合いその眼は明るい将来を見据えていた。

 ~円章~     150、異なる境遇

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