ギダ

ギリギリだったが私の勝ちだ!
お前達のような外野が
いくら集まろうが
結果は同じだったな。

 負けた。あと一歩、足らなかった……



 小銭の山は誰にでも分かり易いように丁寧に並べられていて、カウントに間違いはない。味方に付いてくれていたギャラリー達は、調子に乗って持ち金全額をテーブルに置いてくれていたが、「まだ誰も持ってないか?」とお互い聞き回っている。


 そんなものがあればすぐに出す。どのギャラリー達もそんなふうに口に出している。自分が賭けたガロンも然り、それ以上にリアに勝たせてやりたいと全員が思っていたようだった。

リア

ああぁ……

ギダ

絶望だな。
惜しいとこまでいったが
負けは負け。
今更泣き言に耳は傾けんよ。

ダナン

ック……

ギダ

クククククク。
敗者が悔しがるのは
いつ聞いても愉快だ。
さぁっ!
もっと聞かせろ!
これほどの金額を失う事は
そうそうある事ではないからな!

リア

……がう。

ギダ

ククククク。

リア

違う……。
私完全に忘れてた。
皆から貰ったお金……
5,000ガロン。

ギダ

!?

 リアがそう言って、ポケットから出したのは5,000ガロン銀貨。リア自身も本当に忘れていた。このガロンは、リアがディープスを離れると言った時、ハル達が餞別によこしたものだった。大きな金額の勝負だったので、本当に計算に入れていなかったのだ。



 5,000ガロン銀貨を見たギダは、悲鳴にも似た声を出し崩れ落ちた。やはりもう持っていなかったのだ。そして2,500ガロンの差で勝った。と思った時、ゴードンが胸ポケットから5,000ガロン銀貨を一枚出した。

ゴードン

俺の最後の金……

 ギダの口元が明らかに緩んだ。

ギダ

隠し持ってやがったのか!
グズはグズなりに
使える時もあるものだ。

ゴードン

お前の言いなりになるものか。
賭けてしまった100万は
お前にくれてやるが、
この5,000ガロン銀貨は
決してくれてやらんぞ。

 ゴードンはハッキリと言い放ち、ギダに服従しないという決意を見せた。利害だけで繫がった関係は脆い。ギダの許し難い態度を目の当たりにして、手の平を返すのも無理はなかった。

 そして激昂するギダと揉み合いになったが、そのまま5,000ガロン銀貨をリアに放り投げてよこした。

ギダ

ばばば馬鹿野郎馬鹿野郎
馬鹿野郎馬鹿野郎がぁぁ!!

 狂ったように連呼するギダ。その二人を見ていた金貸しの男は、それを見て内ポケットに手を入れた。すると10,000ガロン金貨が出てきた。



 ゴードンは利害でギダと繫がった男。敢えて言うならギダを裏切ってもおかしくはないし、結果そうなった。だが金貸しの男は、何か弱みを握られているようだし、リア達が勝っても自身が調達して賭けたガロンを、負けたギダから取り立てる事はかなり困難という状況。必然的に、ゴードンのように裏切る事は出来ないはずだった。

金貸しの男

はぁ、はぁっ……

ギダ

よこせっ!
直ぐに私によこすんだ!

ヴィタメール

君が心配しているのは、
奴からの取り立てだろ?
それは無用の心労だよ。
奴が負けた後は
僕達がきっちりと取り立てる。
勿論君が出した分もだ。
幸いここはカジノで、
そもそも公的に返済計画が
約束されるしね。

デメル

万一それがなくても、
俺が絶対に払わせる。
負けた分きっちりとな。

 金貸しの肝の部分を鷲掴みにするデメルとヴィタメールの提案。動揺する金貸しを見て、ダナンが一言添えた。

ダナン

仮にギダが勝ったとしても
お前さんのその感じじゃあ、
一生ギダの野郎に
頭上がらないんだろうな。
弱味握られてんのは
わかるけどよぉ。
ひっくり返るんじゃねぇのか
この瞬間の決断でよ。

金貸しの男

ぅぐぐ…………

 金貸しは両目をギュッとつむり、天井を見上げる。まずいと思ったのだろうか。ギダが金貸しを説得しにかかる。

ギダ

じょ、冗談はよせ。
酷い事を言ったが
全部お前のためだったんだ、
信じてくれ。

 膝を付き泣きつく。そんなギダを見下ろし、金貸しの男が目を潤ませながら返答した。

金貸しの男

ゴードンがあんたに
信じれてくれと言ったよな。
そしてあんたが
取った行動を憶えているか?

 ギダは思い出していた。憶えていて思い出したからこそ、両手を震える口元にやり、目を剥き、声にならない声を漏らした。



 金貸しの男は、10,000ガロン金貨をリアに手渡した。



 リアは金貸しの男に目配せで感謝の意を表し、ギダに向き直った。

リア

この結果は
自分自身が招いたもの。
金だけの力で築き上げた
人間関係の脆弱さを
思い知るがいいわ。

 そう言って金貨をテーブルに真っ直ぐ降ろし、ギダに引導を渡した。

 ~円章~     148、この瞬間の決断

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