100万ガロンチップを2枚テーブルに放り投げたのはデメルだった。
負けを受け入れようとしていたダナンも、傍で見守っていたリアも、思いもよらなかったデメルの登場に目を剥いて思考を止めてしまっていた。
リア、安心していいぜ。
この小悪党共は
俺が叩き潰してやる。
100万ガロンチップを2枚テーブルに放り投げたのはデメルだった。
負けを受け入れようとしていたダナンも、傍で見守っていたリアも、思いもよらなかったデメルの登場に目を剥いて思考を止めてしまっていた。
この人達が
ある程度賭けてくれなきゃあ
僕達が儲からないからね。
そ、そうだったのか……
あんた達……
すぐ後ろにはヴィタメールもいた。いつもの笑顔のままで、過激な事を言っている。
徐々に現実感が戻ってきていたダナンには、二人がここに居るだけで頼もしくて、そして戦う力が湧きあがってきた。
ヴィタメールはギダ達が資金面で劣勢な俺達を食い潰そうとして、賭け金が釣りあがるのを待っていたらしい。ダナンに100万しか貸さなかったのは、言われた通り勝算か薄いという事と、金の匂いのしそうなこの勝負が成り立たないと困る二つの理由からだ。
なんだてめぇら?
俺等に喧嘩売って……
君みたいなチンケな金貸しに
冒険者の僕達がびびると
思っているのかい?
ダナンから貸付の希望があった時、ヴィタメールは儲けるチャンスと思い、ここまでの絵はすぐに頭の中で描いていた。こんな大勝負で儲けるチャンスはおいそれとやってこない。
だがいざ現場で確認すると、そこには挨拶もなくディープスを去ったリアがいたのだ。デメルは面白半分で付いてきていたが、表情から笑みが消えていた。まさか御執心のリアが血相を抱えて困っていたからだ。二人には詳しい内容は分からない。だがあのギダって男がリアと敵対してるってことだけは確実に理解出来たのだ。
こいつ強がりやがって。
蝙蝠野郎は引っ込みな。
そこの貧乏人の血を吸うだけの
ヒルみたいな金貸し、出番だろ。
てめぇらまさか
100乗せて
終わりじゃねぇよな?
190万も賭けているギダ側も引くに引けずに、金貸しの100万であわせてくる。その上にキリよく110万乗っけて、合計400万賭けている状態になった。
デメルも110で同額にした後、もう100万上乗せし、完全に火のついたその金貸しは、デメルとの金の積み合いに応じた。
もう現実離れした無茶苦茶な金額。一単位が100万ガロンチップという馬鹿げた金の積み合い。みるみるうちに積み上がる高額チップ。
そしてもうお互い900万ガロンも賭けている状態だ。
す、スゲーなデメル。
こんなに持ってたのかよ。
まっ、
俺の金じゃねーしな。
これは僕が集めた金だよ。
いいんだよ金なんざぁ
誰のもんでもよ。
リアを困らせる奴は
俺が叩き潰す。
…………
馬鹿な……
こんな奴等が、
こんな大金を……
いよいよ、金貸しの男の口元が震え出した。生業で金を扱う自分と張り合える訳がないと思い込んでいたからだ。それに今迄にカモにしてきた相手は、最初の段階で終わっている。こんな破滅する金額を賭けた事など一度もなかったのだ。
当然その上に100ね。
そう言って100万ガロンチップを弾きテーブルの上に落とすヴィタメール。そしてポケットから次の100万ガロンチップを1枚取り出し、手の内で振ると2枚に。次の瞬間には4枚になるという手品をしてみせた。
ただの手品だが、相手には『まだ金ならいくらでも増やせる』という印象が残ってしまう。
も、もう……、
これで勘弁してくれ。
そう漏らし、金貸しの男が10万ガロンチップを10枚重ねて置く。するとギダの形相が曇り、金貸しの男を覗き込んだ。
わ、わわ分かった、全部出す。
でも、こ、これで本当に、
本当に最後なんだ、
……信じてくれ。
弱味でも握られているのだろう。その金貸しは内ポケットの中から虎の子の100万ガロンチップを1枚泣きながら取り出して、上乗せした。
…………
めんどくせぇ。
折角見せたんだから
それ全部いっちまえよ。
確かに。
じゃ、この4枚も。
即座に100万ガロンチップを4枚、普通にテーブルに置き、300万ガロンの上乗せをしてみせたヴィタメール。
金貸しの男に本当に金はなさそうだった。
自然に視線が集まる先はギダ。初めて見るギダの真剣な顔。
ったく、使えねぇ奴等だ。
金持ってるしか取り柄がねえのに
それすらなくなっちまえば
利用価値なしだ、ゴミが。
……そして、舐めるなよ小僧。
そう低い声で言った後、手の内から出してきたのは100万ガロンチップ5枚。大方、ゴードンが裏切ったところで決着がつくと思っていたんだろう。それが未知の要素であるデメルとヴィタメールが現れ、決死の覚悟を決めたに違いない。
こんな事言うのもなんだがよ。
敵であるおめぇの顔が、
今迄で一番男前に見えたぜ。
実際に大金を賭けねば分からない感覚だった。だが確かにダナンは、憎き敵にそう感じたのだった。
そして終幕は近い。更なる波乱を呼び起こす予感。いつの間にか集まったギャラリー達は、この大勝負の行方を固唾を飲んで見守っていた。