シャイン

えっ? そんな高レート?
ってか上限なし?
何で自分からそんなルールに
してんのよ。
やっぱ旦那って
金持ちだったんじゃん?

 シャインが、自身の推測していた事が判明していたと言わんばかりの声をあげる。

シェルナ

なんで自分からそんな危険な
方向に話をもっていったの?

シャイン

でも今ここにいるって事は、
勝負に勝ったんでしょ。
お世話になったアタシら
(心の中ではアタシ)に、
分け前の一つや
一万ガロンほどないわけ?

 ダナンの話に引き込まれ、楽しんでいた誰もが興ざめする発言。確かにそんな高レートで負けたら、ここに居れるわけがないので結果はわかっているのだ。

フィンクス

きっちり懲らしめて
やったんだろ?
どんな勝ち方だったんだ?

 フィンクスの興味津々なトーンが、皆の意識を話に戻した。



 青天井という言葉の意味を、改めて質問するロココ。プロチータのゲームの性質上、出来上がった手役で勝負する前に賭けている額をつり上げられる。その金額に上限額を設けないというのが青天井ルールなのだ。

 突き詰めると、手役など度外視で、相手が持っていない金を積みあげ、賭けれない状態にすれば勝ちという金の積み合い。当然、積み負けた方はそれまで賭けた金を失い破滅するのは言うまでもない。

ダナン

俺達が持っていたガロンは
合わせてもたったの
一万五千ガロン。
リアが出て行くって言った時の
皆の餞別を足してもだ。
はっきり言って勝負にならない。
だが俺は知っていたんだ。

 ダナンが得意気に話す。身を乗り出してダナンの話を待つフィンクス。ハルの目も輝いて見えた。

ダナン

ギダにパーティのガロンを
殆ど持って行かれた日の事だ。
しょぼくれてカジノを出る際、
遠くでコインを
積みまくっている奴が居たんだ。
それは俺達がよく知る男だった。

 もったいぶるダナンの話に、シャインがイラつく素振りを見せる。次の段階には酒瓶が飛んできそうだ。調子よく喋っていたダナンだったが、すぐに話を続けた。

ダナン

ヴィタメールさ。
テーブルいっぱいに
高額コインを積み上げて、
顔色一つも変えて
やがらなかったんだ。
酒場で顔を合わせた時に……

ヴィタメール

金が必要なら何百万でも
貸してあげるよ。
ただし一日一割だけどね。

ダナン

って、話になったからだ。
きっと顔馴染みで力になって
くれると思ったんだが、
あっさり
『勝ち筋見えないから百万ね』
の一言だった。
一生懸命食い下がったんだが、
結局答えは変わらなかった。
確かにそうだよな。
大切な金を勝算のない者には
渡せない。そりゃそうだ。

アデル

百万ガロンでも
足りないんですか?

ダナン

青天井だから
あるに越したことはないんだ。
まぁそれで、
手仕舞いかと思ったんだ。

フィンクス

思った?

ダナン

ところがどっこい
俺と一緒にプロチータでギダに
かもられたゴードンという男が
現れ参戦してくれたんだ。

ゴードン

奴に一泡吹かせて
やらなきゃ気が済まねぇ。

ダナン

ゴードンは
ギダのイカサマに後から
気付いていたらしく、
この日の為に百万ガロンも
貯めていて、復讐の機会を
探っていたんだよ。
そうしてやっと勝負に
なりそうな形になったのさ。

 おおぉっ、と、数名から反応がある。勝負の過程を聞き入るテーブルは異様な雰囲気になっていた。ハルはデザートチェケンを次々に口に入れてはいるが、噛む事を忘れるほど聞き入っていた。

ロココ

二百万もあったから
楽勝だったんですね。

アデル

安心しました。

ダナン

だと思うだろ?

シャイン

何よ。
ギダって男はもっとガロンを
持ってたって言うの?

ダナン

…………。

 ダナンは神妙な面持ちで口を閉ざした。タイミングよく麦酒がテーブルに運ばれてきて、それを手に取り一気に飲み干す。口の端の泡を、手の甲で拭きながらダナンはゆっくりと語り始めた。

 当日――勝負の前。金を貸りる算段だったが、ダナン達は馬鹿みたいな利息をふっかけられていた。

金貸しの男

上限は100万ガロンまで。
利息は一日一割。
あと手数料も一割だから
100借りて渡すのは90だ。

リア

はぁっ!?
無茶苦茶暴利でしょ。
こんなの借りる必要ないわ。

ゴードン

馬鹿にしやがって……

 リアが驚き、共闘することになったゴードンが怒るのも無理はなかった。100万借りた場合でも、90万しか渡されず、今日中に返しても110万ガロン返さなければいけないわけだ。

ダナン

いやそれでいい。
100頼むぜ。

ギダ

くっくっく。
流石ダナンさん。
青天井のルールを
よく把握されている。

 普通の精神では借りられない利息。しかも手元に200万ガロンもあり、勝負するには充分な資金がある。



 だが青天井ルールは金がないというだけで負けてしまう恐れのあるルール。いくら恐ろしい利息であろうと、手元に金がないと話にならない。勝てば、無茶苦茶な暴利も払える。そう思ってダナンは限界である100万を借りてしまった。

























 借りてしまった――、と表現された事にテーブルがざわつく。結果が勝つと分かっているのに、目の前にダナンは元気に話してるというのに、アデルは胸が締め付けられる思いでいっぱいになった。

 ~円章~     143、暴利

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