十七歳
夏の終わり
僕は船に揺られながら
離島を目指していた
今年もこの季節がやってきたな
十七歳
夏の終わり
僕は船に揺られながら
離島を目指していた
十二歳の夏から、
毎年、
毎年、
毎年、
毎年、
飽きもしないで僕は
船に身を委ねる
彼女に会う為に………
初めてここに来たのは
十二歳の夏だった
太陽くん、勉強なんかしないで一緒に遊ぼうよ
勉強なんか、じゃないだろ夏休みの課題だ
日向は宿題やらなくても大丈夫なのか?
太陽くんに見せて貰うから、大丈夫
おいおい
ね、ここにヒマワリの種を撒こうよ
撒いただけじゃヒマワリは咲かないよ
わからないよ、来年咲いているかもしれないじゃん
仕方ないなぁ
ユラユラと
ユラユラと
まどろみに落ちていく。
時代は目まぐるしく変化する。
十二歳の僕は、
十七歳の僕になっていた。
だけど、
この島は変わらない。
あの頃のように、
のどかな波音を響かせて
僕を出迎えてくれた
十七歳の僕は
浜辺を歩く。
誰もいない浜辺。
聞こえるのは、僕の足音。
立ち止まり、
僕は顔を上げる。
……………
………
僕の十二歳の思い出、
青い空の下、
波打ち際を走る
日向の眩しい笑顔。
太陽くんも、おいでよ。気持ちいいよ
え、教科書が濡れるから、嫌だ
えー?
息抜きも大事だよ
日向は、泳げないんだから気を着けなよ
ここは浅いから、大丈夫だよ
それに、日向だって勉強しないと
宿題は手伝えるけど、テストは手伝えないよ
良い中学行けないぞ
太陽くんが、頑張ってるから大丈夫
だって、日向は太陽くんのお嫁さんになるんだから
バ、バカ! 突然、何を言うんだよ
約束したじゃない、指切りげんまんって
幼稚園の頃の話だろ
でも、約束したよ。一緒にいるって……だから、今も一緒にいるのでしょ?
………まぁ、そうだけど
太陽くんが優秀なら、日向はヘッポコでも良いの。だって、ヘッポコな日向を太陽くんが助けてくれるから
………助けるけどさ、少しは勉強して欲しいかも
わかった。それが、太陽くんのお嫁さんになる条件なら……少しは勉強してあげる
日向は少しだけ、後ろに跳んだ。
ほんの少しだけ。
ピチャピチャと
水しぶきが跳ねた。
おいおい、何で上から目線なんだよ
男の人は女の人に逆らえないんだよ
何だよそれは
勉強教えるから、はやく上がってこいって
うん
……あれ?
日向?
ごめん、行くよ……あれ
何だか深くなって……
日向!?
あ……
気の抜けたような日向の声がした。
そして、
僕の目の前に戦慄が走る。
僕が立ち上がった時には遅かった。
波が大きく荒れた。
そして大きな波が、
日向の小さな体を飲み込んだ。
これが、
僕の、
夏の思い出………