――スダルギアが居たサロディア城、
数時間前。
――スダルギアが居たサロディア城、
数時間前。
スダルギア様。
サロディア軍が鉄騎兵団に
圧倒され散り散りに
敗走したようですぜ。
いや～、
見事にやられたもんだな。
実はスカッとしたぐらいだ。
我々に向かってきておりますぜ。
如何いたしやしょう。
それじゃあ、
地下商人の出番だ。
そもそも武力行使ってのが
野蛮極まりないのさ。
地鳴りを響かせた鉄騎兵団は
三騎将バグズを先頭に
一糸乱れぬ陣形で進軍してきた。
そして城門を前に
農耕馬に跨るスダルギアが
目に止まる。
およそ戦場には似合わない
スダルギアの緩さは、
進軍を止めるには充分だった。
貴様何者だ。
もうサロディアは
主力部隊が壊滅し
落ちたも同然。
邪魔だてするなら
踏み潰すまでぞ。
とんでもございません。
我等は貴公を待ちこそすれ
邪魔だてなど
毛頭考えておりません。
ならば何用だ。
私は商人スダルギア。
資財となるものなら
何でも取り扱っております。
ほぉ、商人か。
で、私に何用だ。
鉄騎兵団様の装備一式。
取引をしたいのは
その全部でございます。
戦が終わるなり
金の匂いを嗅ぎつけ
纏わりついて来おったか。
商人とはそのように
節操のない生き物です。
だがすぐに次の戦地へ
赴かねばならぬ。
商いの話なら後日
聞いてやらんこともない。
次の戦地へ赴かれるなら……
うるさい！
我が鉄騎兵団は先程の戦いで
消耗らしい消耗はしておらん。
これ以上の話は邪魔だてとみなし
踏み潰すぞ。
クックック。
貴様、何を笑っている！
いや、将軍は何か
勘違いをしておられる
ようですね。
勘違いだと！？
いい加減にしろ。
いえいえ、どうやら将軍は
私が鉄騎兵の装備を
新調や修復する商いを
持ちかけているとお思いだ。
ではなんだと言うのだ！
その逆でございます。
鉄騎兵団の装備、
全て私に御譲り頂きたい。
な！？ 何を馬鹿な。
もうよい、このような狂人を
相手にしている暇はない。
おい。
動いたら全員命はないぜ。
何っ！？
馬鹿な！
スダルギアの言葉と同時に
後方から火矢が放たれ
その一帯に業火が一挙に立ち上がる。
誰も居ないその一帯は
その炎で轟轟と燃え盛っている。
突然の出来事に。
鉄騎兵団もバグズも目を剥き、
離れていても感じる熱波に
つい両腕を交差させ顔前を守った。
お前達の居る場所は
只の湿地じゃない。
そこは極限まで匂いを抑えた
植物油が大量に撒かれている。
これは警告だ。
一歩でも動きやがったら
お前達の足元に火矢が
撃ち込まれる。
その結果は賢い頭で
考えたら分かるだろう。
ぐぐぐ……貴様ぁ～、
何が望みだ。
さっき言ったろう。
鉄騎兵団の全装備を売れ。
しかも買ってやるって
言ってるんだ。
１００ガロン銀貨一枚でな。
お……おのれぇ～。
不服か。
お前も駆け引きが上手いな。
では１００ガロン銀貨三枚だ。
ぐ、ぐぐ……
おぅおぅ。
兵士は正直なもんだな。
お前の投降の返事を
期待してる顔だぜ。
我々を火で包むなら
この距離にいる
貴様も道連れだぞ。
そこは心配無用。
俺達の馬はどうゆうわけか
農耕馬だ。
軍馬と違い
ぬかるみでの動きは
力強いものなのさ。
スダルギアの兵は少数だが、
油の染みたエリアから離れ
鉄騎兵団を包囲する形になった。
兵の手には
弓に番えられた火矢がある。
圧倒的少数の農耕馬に跨る兵が
数に勝る完全装備の鉄騎兵団を
制した状態になったのだ。
剣を一切交えぬ状態で
このような結果は我慢ならん。
こうなったら、
相打ち覚悟で……
ぅぐっ！？
全滅覚悟の突撃を命令しようと
バグズは腕を上げ
指揮しようとした。
だがその腕は
スダルギアの脇を固めていた兵に
矢で貫かれることになった。
おい。
テメーが死ぬのは勝手だが
兵にまで無惨で無意味な死は
酷なんじゃねーのか？
その突撃は人を率いる者として
敗北以上のものだろーが。
スダルギアの言葉は
戦術での敗北以上に
バグズの心胆に響いた。
臣民がいて国が支えられている。
この当たり前の現実を知り、
その尊さの重大さを
バグズは知る男だった。
騎士としての誇りが……
彼なりの祖国への忠誠心が……
スダルギアへ投降させるに至った。
