――翌日、冒険者の酒場。

コフィン

ルグラに連絡をとり
何か知っているか
聞いてみましょう。
それまでは内密に。
明日もその刻弾は
使用しないで下さい。

 リザの一件をコフィンに伝えた返答だ。



 すぐにコフィンは酒場を発ち出て行ってしまった。アリスはそもそもここに来ていなかった。

ユフィ

私は資料室で一度
調べてみるわ。

リュウ

俺も後から行こうかな。

シャイン

アンタ達、
ホント仲良いわね。

ハル

仲が良いのは良い事っす。

ユフィ

は、はぁ!?
ななな何言ってるの。
そんなんじゃないわよ。

シェルナ

キャー♪
分かり易いツンデレ反応。

ユフィ

もう私は行くわ!
貴方達もカジノで
散財とかしないようにね!

アデル

それでは、私が見張って
おきますね。

 ユフィがテーブルからそそくさと離れる。今日は迷宮探索に行かない日なので、各自自由行動なのだ。 

シェルナ

私はメルクス通りのバザーに
行こっかな。
アデルもどう?

アデル

それはいいですね。
私もご一緒させてください。

シェルナ

じゃあ善は急げで
すぐに行こ。

 シェルナに引っ張られるように、アデルも酒場を後にした。



 そこに現れたのはリアだ。

リア

ん?
あんまりいないわね。
まぁいいわ。

 リアは開口一番、酒場にいるハル達に向け早口で話し始めた。

リア

私、ディープス
出る事にしたから。
居ないメンバーには
よろしく言っといて。

 突然のリアの言葉に、ゆったりと食事をしていた雰囲気が蒸発する。もう涙目になっているロココが真っ先に聞き返す。

ロココ

リ、リアさん、突然どうして?
リアさんが居なくなったら
皆寂しいですよ。

ハル

なんでなんすか……

フィンクス

…………

 フィンクスは腕組みをして、静かに座っている。リアは少し笑みを浮かべながら、首を横に振った。

 一番驚いていたのはハルだった。このディープスに来てからいつも明るく声を掛けてくれた。沢山お酒も一緒に飲んだ。王宮に仕える騎士になる為……それがリアの目的と聞いていた。実力を付け、名をあげて騎士になると……。



 真意を確かめるべく、じっとリアの様子を伺うように目で訴えた。

リア

ずっと、考えていたのよ。
一介の冒険者が
騎士になるなんて
出来るわけないって……。
このあたりが潮時かなってね。

 ハルの顔を真っ直ぐに見つめ、ハッキリとした口調でリアは答えた。



 リアが騎士になろうとしていた事を殆どのメンバーは初めて知った。全員の目的はバラバラだ。各々に境遇があり目的がある。その目的に辿り着こうとする手段が一緒なだけなのだ。途中で目的を達する者がいても、それこそ諦める者がいても何ら不思議ではないのだ。

ロココ

…………

 ロココは言葉に出来ない思いを抱えていた。



 リアには話していない事情もまだあるだろう。そう分かっていても、急な別れを惜しむ気持ちを抑えきれぬのは人として自然な姿だ。

シャイン

そっか。またね。
もしどこかで出会った時は
一杯奢ってね。

 軽々と挨拶したのはシャイン。

 リアのセリフから察すると、相当思案しての決断だろう。止めるのも野暮だし、シャイン自身はこれ以上重たい雰囲気になったら嫌なので、かる~く見送るようにしたのだ。

リア

明日ディープスを出るから。
その後は故郷に帰って
ゆっくり今後の事を考えるわ。

 シャインの挨拶の所為か、何かを途中で諦める者に見えないくらいスッキリとした表情。見送る仲間達の不安も幾分か和らぐ気がした。

ダナン

何で途中で諦めんだ!!
簡単に諦めんなよ!

 どうしても納得のいかないダナンが声を荒らげる。恐らくダナンの中に諦めるという言葉はないのだろう。

リア

故郷から手紙があったの……。
恩人からの……
縁談の誘い…………

ダナン

縁、談……

 間を置きつつそっと話すリアは、先程と違い俯き気味だ。

 まさかの話に、目を白黒させているダナンは、直前の台詞を忘れたように、勢いを失った。



 寂しい話から華のある話になった事で、後ろのテーブルに居たランディから祝福の言葉があった。別れの寂しさもある。しかしめでたい事なので、複雑な気持ちだがメンバーそれぞれがリアを祝福した。

ハル

リア……
幸せを祈ってるっす。

 ハルはリアにそう伝え、「こんなもんしかないっすけど」と、麻袋をリアに渡した。それは昨日の探索で得たガロン全額だ。

ランディ

俺も乗っからせてくれ。
元気でな。

ロココ

僕もさせてください。
上手くいくと良いですね。

リュウ

御祝儀ってやつだ。
いくらあっても困らないだろ。

フィンクス

確か故郷はレイマール
だったよな。
近くに寄ったらお邪魔するかも。

 全員が麻袋をドンドンと置いていく。リアはビックリして言葉を失っている。

 ダナンは諦める事に対しては怒りを表していた。しかし縁談については気持ちを切り替えて言葉を添えた。

ダナン

元気な赤ん坊産めよな。

 ダナンは何か複雑な思いが胸に渦巻いているのを感じながらも、惜しげもなく麻袋をテーブルに置いた。


 この場に居る最後の一人になったシャイン。守銭奴という言葉がぴったり当てはまる彼女。雰囲気に押され他のメンバーみたいに全額渡すなどもってのほかと思っているに違いない。

シャイン

しょーがないわね。
じゃ1000ガロンだけ。
アタシがおめでたの時まで
覚えといてね。

リア

…………

 「気持ちだけで」と、リアは受け取ろうとしなかった。だけど皆の気持ちが収まらないと無理矢理に渡されてしまった。



 どこか後ろめたさを感じていそうなので、わざと明るくシャインが他のメンバーの金額を聞きまわり始めた。

ロココ

ごめんなさい。
少ないんですが
880ガロンでした。

リュウ

900ガロンかな。
たまたま手持ちが少なくて。

フィンクス

なんてこと聞くんだよ。
まぁ800ガロンしか
確か入ってないけど。

ダナン

すまん700だ。

ランディ

んーだよ。
俺も700だよ。
今の全額だ。
こーゆーのは
気持ちなんだっつーの。

ハル

そうっすよ。
こうゆうのは気持ちなんすよ。
額じゃないんすよ。

シャイン

で、幾らなのよ。

ハル

20ガロンっす。

シャイン

(イラ)

 「少ないと思いつつも恥ずかし気に1000渡したのに、なんで私が一番多いのよ。アンタ達どうしてそんなに持ってないのよ!」



 そんなシャインの心の声が全員に聞こえた。




 特に言いだしっぺのくせに一際少ないハルへ、怒りと罵詈雑言が飛ぶのは仕方のない事だった。

リア

……ありがとう。

 そんな光景を見守りながら、リアはぽつりとその言葉を落とした。皆の気持ちに感謝がないわけじゃない。だけどどこかその言葉に影が差している。そんな声色に思えた。

 ~円章~     138、諦める理由

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