――冒険者の酒場。
――冒険者の酒場。
ハル達はそのまま帰還し、酒場に集まっていた。
リュウ達も6階層の探索を無難に終え合流している。
目隠しした人間!?
はぁ!? 一人で?
冒険者じゃないの?
リザとの遭遇をリュウ達に話し、情報を共有しているところだ。シャインの反応は予想通りで、ユフィ達は不明だった点を次々と話していった。
イントネーションが違ったり
知らない単語ねぇ。
遠隔地の人間じゃないのか?
俺達もそう思ったぜ。
だけど訳分かんねーのは
言葉だけじゃねーんだよ。
ダナンはそこまで喋って、薄切りハムを何枚も同時に大口の放り込んだ。
ギギギって動けなくなったり
アガガガって変な霧が
苦しかったっすね。
全く何を言ってるか分からん。
食べ残したカルボナーラを
三日間放置して
ネバグチョになったものを
直接内臓に入れられた気分す。
まずそ、う。
にくが、いい。
最初は金縛りだった。
全員同時にな。
それをハルが無理矢理に
解こうとしたら、
毒霧みてぇなもんが出てきて
気分が最悪になっちまった。
そんなところだな。
アエラスを変質させた。
そうリザは言っていたわ。
アエラス?
何それ?
アエラスの密度が高まってとか
アエラスの循環とかも
言っていたわ。
おそらくは
魔気のことだと思います。
リザが現れる前に倒した
オルビストから出た黒い気。
あれから強い魔気を感じました。
なるほど。
オルビストの黒い気は
魔気だったってことか。
確かに。
アエラスの密度が
加速度的に高まって、
と言ってました。
ってことはそいつは
魔気を変質させて
毒霧を作ったってことか?
そんなの聞いたことないじゃん。
出来る出来ないは別として
それが一番説得力があるな。
それに関連するように、
パトリダの調和を乱す、
とも言ってました。
覚えてないっす。
そして僕の事を
アルパガスとも
呼んでいました。
う~ん、
何言ってるかわかんなく
なってきちゃった。
これは今日僕が
初めて試した刻弾、
大気中の魔気を集めて
作る刻弾なんですが、
これを撃とうとした時にも
両方言っていました。
ロココン何気に凄いこと
してんじゃん。
つまりその刻弾を撃つ者、
撃てる者かもな。
そいつがアルパガスで、
その刻弾はパトリダってもんの
調和を乱すってことか。
そう言えば、
立ち去る時にも
力は使うな、
と、言っていました。
恐らくはそいつにとって
都合の悪い力ってことか。
いや、そういえば
お前達がどうなっても
知った事ではない、
って言ってたから
俺達にもリスクがあるかもな。
アエラスの循環、
つまり魔気の循環を軽視する
っていうのは、
魔気は循環している
という事…………。
アルパガスは、
いや、そのロココの力は
魔気の循環を乱して
パトリダの調和を崩す、
ってわけね。
聞いたままだと
パトリダってのは
――迷宮、じゃないか。
リュウの推測に、聞いていた者全員が何かしらの反応をする。ユフィがまとめて、リュウがさらに推測する。両パーティリーダーの分析は、説得力のあるものだった。
確かにしっくりくるわね。
で、それでそいつが何者か
分かったのか?
俺はどうでもいいがな。
俺は人間と思えねぇな。
なぜそう思う?
奴が言ったんだよ。
俺等の事を
『ユデアの子』ってな。
そう思った理由は分からねぇ。
何となく直感だよ。
そういえばアデルちゃんの
治癒の指輪のことも
『ユデアの遺物の複製品』
なんて言ってやがったな。
聖ユデアの遺物……確か
宝剣ジュヅヴァ、
聖鍵アピスライヴァ、
王玉マザーコア、
清輪ディヴァング……
確か聖ユデア教の真導師様が
代々受け継いでおられるのが
清輪ディヴァング、
別名、加護の指輪ですよね。
この治癒の指輪は
人工的に複数作られているので
そのことでしょうね。
皆が何言ってるか
チンプンカンプゥ~ンっす。
はる、にく、きたぞ。
うぉっし!
皆喋ってるっすから
タラトと一緒に
食いまくるっす♪
ハルはウェイターが皿を置く前に、骨付き肉をつまみ上げた。タラトも負けじと三本同時に鷲掴みにする。もう腹八分目はとっくに過ぎてるだろうに、二人は骨付き肉にがっついて、ウェイターがテーブルから離れる前に追加注文をした。
私達がユデアの子なら
リザは違う……
つまり人間ではないという事?
そもそもその言い方なら
かなり聖ユデアの事を近しく
呼んでるように聞こえない?
つーか俺あんまり
知らねぇんだけどよ、
聖ユデアってほんとに
実在してた人なのか?
俺は興味がないから外れる。
リュウ、
明日は休みでいいんだな。
ああ、明日は休みだ。
明後日昼にここでなぁ~。
シャセツおっやすみぃ~☆
良い夢見るっすよぉ~♪
フン
シャセツの背中にハルがやかましい声を掛ける。それを背中で受け流すシャセツは酒場を後にした。
テーブルはまだ聖ユデアの話で盛り上がっていた。アデルとシェルナが詳しく、皆に説明を続けている。
結局この日、リザの正体を知る糸口は見付からなかった。明日、ここに来ていないコフィンとアリスに報告することにして夜は更けていった。