ナンチャイは金融機関に勤める人間だ。



 自分で言うのもなんだが、お金を扱わせたらそれなりの人間だ。

 さて世の中は低金利。

 現在、通常預金でおよそ0.001%。定期預金でさえ0.01%しかない。



 これを計算すると、100万円を預けて10年経っても利息は1,000円。さらに税金で20%、つまり200円持っていかれて800円しか増えないのである。



 これが世の中の現状だ。

 老婆心で語ると、ATM手数料に216円とかを度々払うのなんて狂気の沙汰。金が幾らでもあるなら良いが、将来を考えると絶対に悪い癖なので修正するが得策です。

 それでは本題に入ります。



 今回は投信信託の話。知らない方の為に簡単に説明します。



 素人が株や債券や不動産などを買おうとしたら大変なので、全部任せてお願いしちゃおうというものです。上記の金利では資産は増えないので、運用して増やそうという目論見です。

ナンチャイ

長老、そろそろ買い時ですぜ。

 長老というのは、一番この支店の古株のお方だ。私は長老の投資タイミングを提案するお役目を頂いているのだ。

長老

先程課長に、
『長老の背後に狐が見える』
と言われたのじゃ。
それが面妖なと思うじゃが
どうやら
金運に良いもののようじゃ。

同期

何言ってるか理解し難い人が多いでしゅね。ナンチャイ達の上司には、【背後霊的なものが見える】能力を持った上司がいるのでしゅ。ある人は白蛇、ある人は何かしら知らない昆虫、ある人はズタボロの鮭など。因みにナンチャイは馬――に乗った武将らしいでしゅ。何か強そうでしゅ。それで長老が金運たっぷりの狐というわけでしゅ。余談でしゅが、その上司は、世界中を飛び回り世界各地に友達がいるお坊さんの免許的なものを持った四ヶ国語を話せる上に背後霊的なモノが見える上司なのでしゅ。

ナンチャイ

うおぅ、す、凄い。

長老

そうであろう。
ならば買おう!
この前の利益も
狐様のお陰かもしれぬの。

同期

前回とは、僅か1週間で5,000円儲けた時の話でしゅ。
それぐらいの説明でいちいち背景切り替えて説明しているのは、わてが出番欲しいからでしゅ。

ナンチャイ

前は真ん中のコース。
今回はちょいと
攻めてみますか?

長老

そうよのぉ。
こちらには狐様が居られる。
ハイリスクが何するものぞ。
それに50でよい。

ナンチャイ

それなら私も便乗して
買おっかな。

 こうして私達はそれぞれ50万投資した。

 これがとんでもない結果に繋がることになるとはこの時二人共思ってもみなかった。

 ここで豆知識を1つ。投資信託には売買する時、時間差があります。値動きは夜の1日1回。海外ものなら、今日買っても明日の値段でしか買えないのである。

 ――購入時。

ナンチャイ

うおぅ!?
すごく下がったよ。
まぁ有り得る数字だけど
タイミング良い。

 買う時は安いもののほうが良いので、下がれば万々歳なのだ。

 ――値動き一日目。

ナンチャイ

はわぁ!?
すげぇ反発。
(下がった後上がること)
ラララ、ラッキー。
まだ一日目で最短だけど
売っちゃいます?

長老

売り払え!
こちらには狐様がいるのだ!
恐れるでない!

ナンチャイ

ははぁ~。

 ナンチャイはタイミングも良いし、狐様も居られる事だから長老に乗って売却を敢行。まぁ、販売する側の人間として最速で儲けを出した経験があれば面白いかもという気持ちもあった。

 ――売却後の夜。

ナンチャイ

うーん、ちょいと下がったね。
まぁいいか。

 あと一回値動きして、下手したらマイナスになることも有り得る。だがそれも承知の上だ。

 ――最終の損益が分かる次の日。

ナンチャイ

ドキドキ

 スマホで情報を見てみる。いつになく緊張する瞬間だった。

ナンチャイ

う・・・・・・うぉぅ。
ま、ま、又上がったー!
しかもかなり上がった。
ヤッター!

 色々計算すると、手取りで4927円得していた。このお金は短い期間で売買する金なので、ざっと1%儲かれば万々歳なのだ。日常の5,000円はでかい。最高だ!

ナンチャイ

長老に報告しよう♪

 有頂天になってスマホの入力が軽快なナンチャイ。何度もこの1%作戦で儲けは出しているが、最短の一日売却は流石に初めてだったからだ。

ナンチャイ

ヒャッハー!
うっひょーぅ!

楽しそうやな。

ナンチャイ

まぁね。
定期預金やったら
50万入れてても、
10年で400円。
って事は123年分を
1日で稼いだって
ことやからな、
ワッハッハッハ♪

おーおー、
舞い上がっとる。

ナンチャイ

舞い上がらずにおられるかー。
敢えて言うなら1230年分の
通常預金の利子やで。
言い換えると、
1230年前は789年、
奈良時代。平安時代が
始まろうとする頃に預金して
やっと得られる金利を、
時空を歪めて僅か1日で得た
と言っても過言ではないのだよ。
素晴らしい。
素晴らしいの一言に尽きる!
うきゃー!

奈良時代ってw

ナンチャイ

よっしゃー!
祝杯上げるぞ!
肉食いに行くぜぁ!

その言葉待ってたんやぁ♪

 ――そして。

ナンチャイ

ふぃ〜、美味しかったなぁ。

せやなぁ、狐様々やで。

女性店員

ありがとうございました。
御会計8090円になります。

お!?

これって
さっきの計算やったら、
2020年分の利息と
同額やんな。
キリスト生まれてない時からの
利息分やん。

ナンチャイ

ははは、た、確かに……。

 舞い上がってた私の酔いは一気に覚めましたとさ。

第十四話 『背後の狐様』

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