ダナンの渾身の一撃で大きく仰け反るリザ。周囲には散々ハル達を苦しめた霧はなくなっていた。
ダナンの渾身の一撃で大きく仰け反るリザ。周囲には散々ハル達を苦しめた霧はなくなっていた。
なゼ動けル?
ヤはりミラである
可能性がアるノか。
まだやんのか?
俺は弱ぇ奴をいたぶるのは
趣味じゃねーんだよ。
アルパガスと共にミラの存在。
私ノ一存でハ決めらレん。
又、訳わかんねー事を。
忠告してやル。
お前達がどウなろうト
知っタことでデはないが、
次にマみえる時まで力は使うナ。
リザは迷宮の闇に溶けるように姿をくらました。
アデルちゃん。目を覚ましてくれ!
リザの気配が消えたのを確認したダナンは、アデルに近付き水薬を飲ました。
ダ……ナンさん……。
良かった。
頼む、
皆の回復を手伝ってくれ。
水薬は幾つもあったが、アデルの治癒の指輪があれば心強い。すぐに二人で手分けして全員の回復に動いた。
旦那があいつを
追い払ってくれたんすか!?
凄いっす!
私は薄っすらとですが
聞こえてました。
やるな。
伊達にデカイ身体してねぇな。
本当に頼りになります。
でも何で立ち上がれたの?
魔物が入れない結界を張り、小休止するハル達。治癒の指輪は生命力を向上させる効果がある。決して瞬時に回復するわけではないからだ。
俺は昔、
病弱でずっと苦しんでた。
そん時の事思えば、
あんなもん慣れりゃ
どってことないんだよ。
病弱!?
ダナンさんが?
えらくデカイ病人だな。
なかなか信じて貰えないと思うが
ガリガリだったんだぜ。
学校もろくに行けないくらい
病弱だったんだ。
なるほど。
馬鹿なのは
その所為っすね。
貴方ほどじゃないし、
貴方に言われたくは
ないはずよ。
で、たまに顔を出せても
よく苛められてたんだ。
貧弱だったからな。
酷い……。
悔しかったぜ。
だけどそいつらはすげー姑息で
大人にはバレないように
口裏を合わせるんだ、
仲間内でな。
更には逆に俺が
嘘つき呼ばわりされたりもした。
ご両親には相談したり
しなかったんですか?
俺は孤児だったからな。
孤児院の大人達も
病弱な俺にそんなに
世話を焼いたりはしなかった。
俺には家族なんてもんはなく、
最初から一人だったんだ。
暗ーな。
で、なんでそんなムキムキに
なったんだよ。
俺の故郷はユフィや
リュウと同じベインスニク。
そこである男と出会ったのが
切っ掛けだ。
おおーっ!
盛り上がってきたっす。
俺は街はずれの川辺に連れていかれ
苛められていた。
その俺といじめっ子の前に、
でかい熊が現れた。
いじめっ子達も
しょんべん漏らすくらいでかいやつだ。
そこに現れたのがその男で、
熊を一本のナイフで倒したんだ。
喉を一突きしてな。
痩せて青白い顔した俺にとって、
その強い男は一瞬で憧れの存在となった。
男は何も言わず
熊の腹を裂きさばき始めた。
手際の良い仕事は、
苛めっ子も目を離せないでいた。
「食いたいか」
男が初めて発した言葉だった。
淡々とした声色に感情が読み取れず、
怖くなった苛めっ子達は全員逃げていった。
宙に浮いた男の質問の着地点は俺だった。
「お、おいしいの?」
何も考えずに言葉が出た。
男への憧れから逃げるなんて選択肢は
少しも浮かばなかった。
「自分で確かめろ」
で食った熊の肝臓は滅茶苦茶に苦かった。
でも男は「食え」と言った。
「強くなりたいなら食え」
痩せこけた俺の願望など
お見通しと言わんばかりの台詞だった。
俺はそこから食いまくった。
男が肉を干し肉にする為に
何日か滞在している間、
胃のキャパを越えて
何度も吐きそうになったが
腹に肉を送り込んだ。
それこそ病気のことも忘れるほどに。
男の真似をしてトレーニングも一緒にした。
もちろん全然出来なかったが、
見よう見まねで挑戦していた。
男は寡黙で殆ど喋らなかったが、
コルという名と、
ディープスで冒険者をしている事
だけが分かった。
そして男がベインスニクを去る日。
当分食っていけるだけのガロンと
熊胆を手渡してくれた。
一番苦くて嫌いだった部位だ。
後で知ったが、
熊胆は身体に良く働き
非常に貴重で高価なものだった。
俺の病気は
その日から回復に向かっていった。
そして鍛えに鍛えて
今ここに居るってわけだ。
まっ、そんな昔話だ。
ということは
そのコルって冒険者を
探してるの?
いや、別に探したりしないぜ。
勿論感謝の念が
ないわけじゃないが、
俺の目的は強くなった事を
証明したいだけなんだ。
コルに会えれば
それはそれでいいんだが
そこは自然体でな。
運命ってもんがあって
コルと繋がっているなら
きっと自然に会えるだろう。
だから探したりしねぇ。
強くなった姿を見せる事が
その方への恩返しなんですね。
旦那……。
きっと会えるっすよ。
皆、ゆっくりと身体に力が戻ってきていた。
ハルの言葉はダナンに向けられていたが、自分自身にも向けられているようだった。それは誰にでも感じられたようだ。
ダナンは一呼吸置き、口角を上げてから
「ああ。そうだな」と返事をした。