ギュダ

少し時間は稼げそうだな。

攻城兵器への奇襲は上手くいった。



早朝からのギュダの策は

敵の虚を突き、

確実に敵軍へダメージを与えた。






ウルの向かった西のタキア城、

スダルギアが向かった東のサロディア城。

どちらも苦戦を強いられるのは必定だが

この本陣であるユベイル城の

戦闘はさらに過酷である。



伝令によれば、

三騎将の一人・銀狼フーバッハが

北東のカシアラに向け

軍を進めたようだが、

ここの敵本陣にはまだ

ギュダ達の何倍もの兵力が

待機しているのだ。

ギュダ

意外にも敵は冷静だな。
怒り狂って兵力で
潰しに掛かってくるぐらい
計算していたのだがな。

兵士

確かに。
攻城兵器がないにしても
大人しすぎます。

ギュダ

大軍の将であるのは
伊達ではなさそうだな。

まだ知らぬ敵の将の動向。



いくら兵力差があれど

それを率いる将が愚鈍なれば

つけ入る隙は幾等でもあるものだ。



しかし、

目の前の大軍を率いる将は

どうやらその類ではないらしい。

兵士

それにしても気になります。
まさかこちらの策に
気付いているのでしょうか?

ギュダ

カシアラの協力は
絶対に必要だ。
使者には弁の立つ者を選び
幾つもの交換条件を握らせた。
カシアラにとっても
苦しい選択だが
理は多いにある。

兵士

それまで耐え凌げるかですね。

ギュダの策は、

攻城兵器を徹底的に破壊し

籠城戦の為の時間を稼ぎ

同盟国に使者を送り

ナバール軍を包囲する作戦なのだ。

ギュダ

おかしい……
敵の動きがなさすぎる。
攻城兵器を失ったとはいえ
それ以外の戦術を託せる
兵や将はいるはずだ。

ガンツ

こちらの動きを
警戒しているんじゃないのか。

ギュダ

いや、
警戒は怠らぬだろうが
後手に回ったりはしないはず。
兵との戦闘の前に、
先手で動き主導権を
握った者が優勢になる。
それを承知なら
何か考えてのことだ。

ガンツ

そんなゴチャゴチャ考えないで
突撃した方が早くないか?
まさか圧倒的少数の敵に
突撃されるなんて
思ってもみないんじゃないか?

ギュダ

そんなものは
お互いに考える
百策の内の一つにすぎん。
すぐにでも対応される。

ガンツ

うへ、
マジで言ってんのか、それ。

伝令兵

急報です!
敵陣中に攻城兵器が次々と
出来上がっております。
それも今朝の奇襲時前よりも
数が多いとのことです。

ガンツ

それぐらいの被害は
すぐにカバー出来るって
見せつけてんのか?

ギュダ

そんな幼稚なものではない。
奴等の狙いはあくまでも
我々の降伏。
その手段の一つだ。

伝令兵2

ギュダ様!
サロディア城での野戦は
鉄騎兵団バグズの完勝。
サロディアが落ちるのも
時間の問題と思われます。

ガンツ

スダルギアが……
嘘だろ……

伝令兵3

急報!
タキア城が三騎将のギリアムの
手により落城しましたっ!

ギュダ

くっ、ウル……
上手くいかなかったのか。

ガンツ

おいおいおい、
あの二城は絶対必要なんだろ。
どうすんだよ、おい。

ギュダ

せめて
カシアラに送った使者が
最良の結果を出せれば……

兵士

ギュダ様、敵から城に
矢が撃ち込まれたようです。
それにこんなものが。

サウダージ大将軍

カシアラ付近で男を見つけた。
黒髪で背が低いが鍛えられた
身体を持ち眼光鋭い男だ。
眉間に古傷を持つその男が
怪しいと兵が思い問い詰めた。
只の旅行者だと答えたが、
良い体格をしていた為
我が軍の兵士に招き入れた。
こうやって我が軍は精強に
なっていくのだ。

ガンツ

なんだこりゃ?
何が言いたいんだ?

ギュダ

くっ……

兵士

これは……

ガンツ

おい、
これってもしかして
さっき言ってた……

ギュダ

そのもしかしてだ。
カシアラに送った使者と
特徴が一致している。
捕縛して我々の策を知り
わざわざ告げてきたのだ。

ガンツ

これで完全に孤立かよ。

ギュダ

ならば、
姫と護衛を逃がして
我々はこの城で敵を
食い止めるしかあるまい。

兵士

ギュダ様。
非常に申し上げ難いのですが……

ギュダ

何だ?

兵士

レジーナ様は馬車の揺れに
耐えられる程の容態では
ございません。

ギュダ

姫の容態は
そこまで悪いのか……
なんということだ。

二城が落城し

カシアラの援軍も望めず

レジーナだけでも逃がす事すら

不可能だったのだ。





そこに伝令兵から

この本陣に三騎将が集結してきている

報せが届く。





タキア城でウルを破った

暁星のギリアム。



サロディアでスダルギアを破った

鉄騎兵団バグズ。



カシアラとの通信を断った

銀狼フーバッハ。





誰がどう考えたって

この状況を覆すのは不可能だろう。



ギュダにそれを告げた伝令兵も

完全に顔を青白くさせている。

ガンツ

誰もお前を責めやしない。
姫を護る為に降るって
選択肢をとってもな。

ギュダ

…………

ガンツ

負けたっていいんじゃねーか。

ギュダ

姫…………

ギュダはガンツの言葉に驚いた。







およそ彼の口から

出そうにない言葉を受けてか、

追い詰められた所為か、

この戦いを振り返っていた。















アイヅガルドを出立し

チナ村を救い

スダルギアと大一番の賭博勝負。

アズール城に潜入し、

今居るユベイルでは

ギリアムの配下・七戦鬼と戦った。

そしてナバールとの決戦前、

レジーナが倒れた。







姫の名代として指揮を執り

現在は

圧倒的不利な上に

次の策もない。









情けない事に

「姫がここに居れば」

と頭を掠める。



常に回りを巻き込み

先頭を行くレジーナの姿を思い出す。

まるでそこにレジーナが

いるかのように。





















ギュダは閉じていた目を

ゆっくりと開く。



そしてはっきりとした口調で

言葉を発した。

ギュダ

なんだガンツ。
これしきの事で降参か?
私は何も考えずに突撃するが
手柄を独り占めしていいのか?

やぶれかぶれになったように

聞こえるが、

そうではない。



レジーナの事を思い出せば

不思議と勇気が湧いてきたのだ。










「姫ならばこの状況をどうするのか?」



それを本気で思えば

なにやら楽しくなってきたのだ。

ギュダ

自分の為を思う時より、
あの人の為ならと
思う時の方が力が湧く。
人間の真価は自己よりも
尊敬に値する他の者の為に
動く時に発揮される。
私はそれを姫に教えられた。
その無量の感謝を思えば、
万の矢も敵も
どうということはない。

やぶれかぶれではない。

負けるつもりなど毛頭ない。

勝利しか見えぬ瞳には

熱い炎がたぎっていた。





ギュダは愛槍を手に取り、

全軍に戦闘準備を発した。

40ー負けたっていいんじゃねーか

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