――スダルギアがいるサロディア城前。
――スダルギアがいるサロディア城前。
はいはい。
後ろで大人しくしてれば
いいんだな。
サロディアの城主に
煙たがられているスダルギアは、
気のないセリフを城主に返した。
兵力で劣りながらも
野戦で堂々と勝負するらしい。
しかも相手は敵の三本柱の三騎将。
無敵の鉄騎兵団を操る
バグズという凄腕なのにだ。
大人しく籠城すれば
いいと思うんすけど……
騎士の誇りだとかなんとか
大層なお荷物を持って
生きてんだから御苦労なこった。
アイツらあの軍勢には
勝てないだろうなぁ。
俺達もヤバくないっすか?
逃げるにしても
こんな農耕馬に
乗ってんだからな。
はぁ~。
スダルギア達が乗って来た軍馬は
サロディア城主との諍いで
全て没収されている。
城主に金を持っているのが
洩れると煩わしいので、
借金をしたふりをして
農民達に農耕馬を
譲り受けてきたのだ。
だが馬は馬でも
軍馬と農耕馬では全く違う。
農耕馬には力はある。
だが軍馬のように
充分な訓練で鍛え上げられ
洗練された速さは
兼ね備えていないのだ。
戦場では速さが命であり
その速さが圧倒的に違う。
これは致命的すぎるほどの差が
あると言わざるを得ないのだ。
始まったか。
数も質も劣るのに
精神論だけで奴等を
退けるか見物だ。
――ウルが居るタキア城内。
タキア城に到着したウルは、
スダルギアと同じく
城主の信を得られなかった。
ギュダからの指示書を用意したのは
二人共一緒だ。
だがウルとスダルギアの違いは、
城主に対する態度だった。
ギュダから渡された両方の書は
本陣からの正式な書であり
軍人なら守るべきもの。
ウルは最初こそ疑われたが
その書のおかげで
城主以上の権限が与えられた。
スダルギアは
その準備以上の横柄さで
城主を遠ざけてしまったのだ。
ふぅ~。
ようやく終わったか。
後は外にいるあのジジイを
相手にするだけだな。
はぁ~生きた心地がしない。
ガンツ様やギュダ様の下で
暴れまわりたかったな。
おいおい聞こえてるぞ。
そりゃあオレは戦えないから
心配だろうけど
お前等、ちょっとは
気を遣えよ。
だってこの状況なら
そう思うでしょ。
あれっ?
これだけの城に
オレと兵士十人しか
いないぞ!?
あんたがこんな事
言い出したんだろー!
空城で時間稼いで
足止めするって
絶対死ぬじゃんかよ。
まぁまぁ失敗したら
切られるだけだ。
それはどこに居ても
変わらないって。
なんかあんた姫に
似てきたな。
本陣から付いてきた兵士と話すウル。
ギュダに内緒の策とは空城の策。
本来誰も居ない城に足止めをして
夜中に動かした兵で
隙を突く作戦だ。
ギリアム様。
やはりレジエレナ王女は
病に伏せているようです。
うむ。
だがやることは変わらん。
あの城を一早く落とすのみだ。
ハッ!
…………
ギリアム様は
レジエレナ王女との決戦に
心を燃やしておられた。
本当にそれだけなのだろうか?
――ナバール軍サウダージ大将軍の本営。
何処にでもいるものだよ。
正しい判断すら出来ず、
意地だけで
生きていくような奴はな。
申し訳御座いません。
全て私の力不足であります。
白騎士ユランに小言を漏らすのは
ナバール軍の大将軍サウダージだ。
部下に淹れさせた紅茶の香を嗅ぎ
中の波を眺めている。
その波を大きく揺らし続け、
サウダージはユランに
無機質な視線を送る。
本意ではないが
叩き潰すしかあるまい。
私が責任をもって
サウダージ様の威光を
思い知らせてみせます。
何を言っている。
君に出番はもうない。
ここからフィアンセの姿を
見守っているのだ。
サウダージ様。
その言葉で私を語らぬ約束です。
私は既に彼と袂を
分けてきました。
だまれ。
三度目のチャンスはない。
首が繋がっているだけでも
有難いと思え。
大将軍、西の陣への
奇襲があったようです。
被害範囲は狭いようですが
集中的に攻城兵器を
狙われた模様です。
早朝からせわしい奴等だ。
急報です!
東の陣が……
攻城兵器が狙われたか?
ハッ!?
お、仰せの通りです……
自軍の被害報告への反応に
伝令兵達は緊張を顕わにする。
サウダージは紅茶を一口飲み
ゆっくりと口を開く。
攻城兵器だけを狙う訳は
戦を先延ばししたい
思慮が窺える。
…………
何もせずともよい。
は……
小僧の思惑通りに
乗ってやろう。
だが、東西の城が落ちても
そのままでいられるかな。
大軍を引き連れる余裕か、
歴戦を重ねた経験からの威容か。
痛手に違いないギュダの奇襲に、
一切の動揺を見せないサウダージ。
それよりも
北に銀狼は向かったか?
ハッ!
フーバッハ様は昨晩
此処を発たれました。
既に到着して早ければ
昼頃には伝令が着く筈です。
今はそちらが重要だ。
小虫と言えど、
集団となると脅威となり得る。
結束させないこと。
それが重要なのだ。
サウダージが語る北とは、
ここから北東にある国・カシアラ。
イシュトベルトと国境を挟んだ
隣国であり同盟国だ。
イシュトベルト陥落を
静観していた形だったが、
反ナバールの噂が
立ち上がったのだ。
事の真意は不明だが、
この本営に居た銀狼こと
新進気鋭のフーバッハという将軍が
向かう事になった。
フーバッハは、
イシュトベルト陥落時に戦死した
旧三騎将を埋める
新しい三騎将の一角だ。
カシアラに反旗を感じるなら
そのまま三騎将フーバッハが
攻め滅ぼす算段なのだ。
茶の温度は冷める一方。
淹れたてに戻る事はない。
薬指と親指でつままれたカップを
一気に傾けるサウダージ。
それは奴等も同じだ。
何を画策しようが
滅びた国の運命は
消えゆく一方なのだ。