オルビストから放たれた黒い気。それは天井まで膨れ上がりハル達はかなりの距離をとっていたが、見上げる形となった。
それを見ていると息苦しくなる。無性に苛立ちに似た感情と止めようのない焦燥が押し寄せ、肌が泡立ち、急激に鼓動が高鳴る。口から吸いこむ空気は濁った様な感覚で、汚物を口に入れたような錯覚さえ覚える。
あ、ああああぁぁ……
オルビストから放たれた黒い気。それは天井まで膨れ上がりハル達はかなりの距離をとっていたが、見上げる形となった。
それを見ていると息苦しくなる。無性に苛立ちに似た感情と止めようのない焦燥が押し寄せ、肌が泡立ち、急激に鼓動が高鳴る。口から吸いこむ空気は濁った様な感覚で、汚物を口に入れたような錯覚さえ覚える。
ぅぐっ
なんすかこの感じ!?
気持ち悪ぃ……す……
はぁ……はぁ……
おいランディ……
ぐぇ……
な、何かしたのかよ?
知らねぇつーの。
気色悪すぎるぞ、コレはよ。
こんな情報……
聞いてないわ。
何なの……一体……
遠くから見ているだけで、最悪な気分になる黒い気は、徐々に膨張し、迷宮の通路を覆うように拡がり続けていく。そのスピードは加速度的に速まり、どうしようもなくハル達の周囲一帯を覆い尽くした。
焦燥
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不安
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嫌悪
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怒り
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苦しみ
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恐怖
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諦め
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対策など何も浮かばなかった。
何をどうすれば良いかも分からないし、ただ黒い気に飲みこまれ、ただ掻き起こされる負の感情に抵抗しようとすることで精一杯だった。
沸き起こる負の感情は、黒い気の様に膨張し続ける。背中を駆け抜ける悪寒は、今迄の何よりも危機を察知していた。
そして何よりも恐ろしいと思ったのは、必死に抵抗しようとすればする度、その気持ちが薄らいでいくことだった。
それぞれが抱える目的。その思い。リスクが大きい迷宮に足を向けさせる強い目的意識を、粉々に打ち砕くほどの虚無感。
その虚無感の中に残るのは、ただ何かに侵食された真っ黒い絶望だけだった。
アデル…………
帰ったら、ファムンテン
好きなだけ食っていいっすよ。
!?
ユフィの奢りっす。
!?
自分は特上レアロースを
奢ってもらうっすよ。
……!?
外でこんなに暗けりゃ
きっと星が綺麗っすよね
ハル……キチ……!?
ロココも元気ないっすよ。
絶対見付けるんすよね?
友達助ける魔物の角。
ハルさ……ん……
でももうこの暗闇も
飽き飽きっす。
ハル!
…………
ぅおっと…………
ん…………
ハ、ルさん…………
ハッ!?
…………
皆お目覚めっすね。
皆、ハルの言葉で正気を取り戻した。
そして辺りの黒い気が晴れている事にゆっくりと気付く。気持ち悪さが全く残ってないわけではなかったが、あの最悪の状態と比べれば何のことはない。――そう、皆、押し潰されそうになっていた。
大きな闇に飲みこまれ、精神が閉じ込められた。戻ってこれないと覚悟する間もなく。
しかし救われた。ただの声一つで戻って来れた。
現状が解明されたわけでもなかったが、その声の主にそれぞれが声を返した。
私は奢るなんて一言も
言ってないわよ。
あ!?
ビッグファムンテンに
極上とろチーズと
絶品海老カツと
フォアグラをダブルで
トッピングしてそれから……
はは……は
おめぇ馬鹿かよぉ?
暗闇で刀振り回しやがって、
当たったらどーすんだよ?
なんだ知らなかったのか?
ハルキチは一級の
アホだっつーの。
あああアホで
ごめんなさいっすぅ~。
ハルさん。
皆、感謝してるんですよ。
アホさ加減にっすか?
どうゆうことっすかぁ?
口には感謝の意を出さねど、全員がハルに助けられたと認識している。それをこの暗い迷宮で笑顔に変えられるのは、このメンバーだからこそだろう。
それにしてもどういうことなの?
コフィンからこんな情報は
聞いてなかったし、
今のは本当に危なかったわ。
謎ばかりが残る先程の黒い気。ユフィが不思議がるのも無理はなかった。
アエラスの密度が
加速度的に高マって
暴発しタのダ。
状況が理解出来ぬままのユフィ達に、覚えのない声色と発音。全員未知に包まれたまま、声の主へ意識をもっていかれた。
声の主は迷宮の闇から現れた一人の男だった。
目元を布で隠してはいるが魔物ではなく人間で間違いなさそうだ。この危険で物騒な迷宮を一人で歩いてきたのか。ハル達は青白い顔のこの男に、先程の黒い気の中の感情を思い出させられた。