――ユベイル城から東のサロディア城。

スダルギア

どうやら俺はあの城主に
嫌われたようだな。

兵士

なんであんな事
言うんっすか!?

スダルギア

つい口が滑った。

兵士

その結果が軍馬と兵糧を
全部没収されて、
奴等の管理下になって
しまったわけですね。

スダルギア

ギュダの訴状も
効力がなかったな。

兵士

いくらギュダ様の命令と言え
殆どがゴロツキのこの集団に
軍権など譲れんでしょう。

スダルギア

お前達の人相が悪いから
俺はいつも悪役だな。

兵士

一番怪しいのは
スダルギア様かと……

スダルギア

本当のことを言うな。
まぁ正規の大軍を預かるのは
俺の趣味じゃねぇ。

兵士

でも後陣で待機と
命ぜられましたが
奴等があの三騎将に
敵うもんでしょうか?

スダルギア

勿論負けるさ。
あのナバール軍の三本柱に
名が上がるには
それなりの実力があるだろうよ。

スダルギアは不敵な笑みを部下に送り

夜空に瞬く星を見上げた。



そして何かを少し考えた間をとり

会話に戻った。

スダルギア

俺達の出番はそこからだ。
無敵の鉄騎兵団を潰すのは
ゴロツキ共の仕事さ。

ギュダ

選択肢などない。

ギュダ

戦力差は認めざるをえん。
明らかに劣勢だ。

ギュダ

だがどれだけ脅されようが
自陣に裏切り者が居ようが
変わらぬ。

ギュダ

帰ってくれ。

ギュダが放った言葉の先には

白騎士ユランが居た。





その理由は最後勧告。





昨日の圧倒的戦力を見せつけた後の

効果的なタイミングでの降伏勧告だ。

ユラン

どうあっても
変わらぬようだな。

イシュトベルト陥落時に

ナバールに投降したユランは、

ナバール軍を纏める

サウダージ大将軍の副官という立場。



現在の任務は当然、

レジーナ軍の武力解除。



しかしギュダに

降伏勧告をつっぱねられるのは

予想の範疇だったようだ。

ユラン

では人払いを願おう。

ギュダ

…………。
分かった
全員下がれ。

ギュダの命令で

部屋に居た兵士達は出て行く。



白騎士ユランと二人になった時、

ユランはゆっくりと口を開いた。

ユラン

お願い、ギュダ。
それしか道はないわ。

ギュダ

君には重い荷を
背負わせて
しまっているようだな。

二人きりになるやいなや、

明らかに口調に変化が現れた。



同郷の顔馴染み以上の

何かを感じさせる。

ユラン

死んでしまう……。
あれだけの軍勢を前に
無謀すぎるわ。

ギュダ

姫が率いる軍は
数の力を跳ねのける。
今迄もそうした報告は
聞いているだろう。

ユラン

お願いギュダ……
貴方を死なせたくないの。
貴方まで、
貴方まで失ったら……
私は私でいられなくなる。

そう、か細く縮む声で訴えかけ

ギュダの胸から背中に両手を回す。



険しく眉を寄せていたギュダも

現状に苦しむユランを

胸の前に見下ろし

白く輝く髪を撫でた。







鎧がなければ

愛しみあう男女にしか見えない。





事実二人は恋仲だった。





お互い公では将軍としてここに居るが

私的には一組の男女なのだ。



その男女の想いが、

国の未来を決める交渉に

影響を与えないわけがなかった。

ギュダ

私は愛しい君の傍に
今でも飛んでいき助けたい。
悲しみや苦しみを分かち合い、
君の為なら何をしたって
惜しくない気持ちでいる。
それが私の偽らざる気持ちだ。

ユラン

それなら……

ギュダ

だがそれは出来ない。
それが出来れば
どれほど楽だろう。
一人の男として
愛する女を守り続けれれば……
それが出来るほど、
それを優先出来るほど
私が姫から預かったものは
軽くないのだ。

ユラン

ギュダ……
それは分かっている。
その上でのお願いなの。
降ることが貴方や姫、
それに兵達を守る事に繋がるのよ。
責任や意地で死んでも
未来は何もないのよ。
生きていれば何かを変えられる!
それが分からない貴方では
ないはずよ、お願い!!

ギュダ

私はこれまで
姫に散々振り回されてきた。
そして姫は今回も私に
重責を与えられた。

ユラン

…………

ギュダ

だから私には
慣れっこなのだ。
姫が起こすハプニングは
私が解決する役目。
これくらいの逆境は
覆してみせるよ。

ギュダは口角を上げた。



愛する者の懇願を

断らねばならぬ状況下で。











願いの叶わなかったユランは、

ギュダの胸の内で

静かに啜り泣いた。



そして

ギュダに涙を掬われ

もう一度泣いた。

涙の中

ユランは決別した。









私的な立場を

この室に置いてくるように。









この決別は愛する者との決別。












そして部屋を出る頃には――











公の顔。

そう、敵方の大将軍副官

白騎士ユランの顔に戻っていた。

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