【2036年、イバラキ。マイア・リメデッター】
【2036年、イバラキ。マイア・リメデッター】
9月2日、午前4時12分。
夜明けを前に日本を幾つもの弾道ミサイルが襲った。
想定外です!
屋内無線が訴えている。大きなアラームが家の内外から響いた。
レーダーサイトをやられました! 日本は今、想定外の攻撃を受けています。迎撃出来ません! 茨城近郊の皆様! 避難施設へすみやかに移動してください!
想定外とされる攻撃を『日本』が受けている。首都『東京』で無く、『自衛隊駐屯地』でなく、『原子力施設』でなく、ココア達の住む『茨城』へ被害が広がろうとしていた。
海の彼方からソレは伝えられた。空を奔る戦闘機がビラを撒き散らす。
我々、地球連合の主旨を伝えます。
ビラと同じ内容を拡張機が訴えてくる。
『マイア・リメデッター』、『桜壱貫』、『マァサ・バッハ』、この3名を保護させていただきたい。そうすればこの『日本』を、しいては『イングリア』の地を我ら国連が守ります。
吐息が薄れる。胸を満たしたのは怒りの感情だった。
……わたしが目的なのは解る。けれど何よ! 『マァサ』ママを? 『壱貫』おじ様を人質に取ろうっての! 国連は!
おじ様は動じなかった。率先して指示を飛ばしている。『マァサ』ママも避難誘導を行いながら気丈に振舞っている。こんな良心の塊のような2人を『地球国家連合』は捕虜にしようとしている!
させるものですか! マァサママもおじ様もこの身体も、全て渡すものか! アリオスが守ってくれたこの命! あんた達には渡さない!!
ココアと視線を合わせる。ココアは微笑み頷いた。
ココアが奔りながら『NEO』を身に纏う。空を突きぬけ戦闘機へと斬りかかる。光の剣に胴体を断たれ、戦闘機が煙を吹いて落ちていく。爆ぜるソレは無尽蔵に数を増やした。
齢17、ここまで守って貰った命! 散らしてたまるものですか!!
姫様御下がりください! 我らが皆を守ります! 行くぞ! 一斉に放て!!
『イングリア』から来てくれた騎士『コーニー・クラン』が無人機(イースター)を駆り主砲を放つ。近衛騎士が横並びになって『イースター』から対艦砲を放った。遙か先の海へ並ぶ艦隊にダメージは見受けられない。近衛騎士の皆が空で機首を立て直す。その間にも空と海から放たれた光に街が焼かれていく。
コーニー! みんなっ!!
『イングリア』からやって来た近衛騎士団、その皆が、空から降り注ぐ爆撃に呑まれようとしていた。皆が命を賭してわたしの為、街の皆の為、盾と成り剣と成ってくれた。皆が30強の艦隊、幾100の戦闘機を前に命を刈り取られていく。
アリオスっ! 我らが姫を頼んだぞ!
最年長の『ボルト』がイースターで吶喊した!
放たれるトマホークを前に避難施設を守っていた10数人が消し炭となった。みんな、みんながチカラ及ばない。
軽傷で居られたのは『アリオス』と他数名だけ! 助かりそうなのは『カルロス』と『コーニー』他は解らない! 皆が砲撃と爆弾で焼かれてしまった。
剥きだされた眼球、骨の見える腕、壊れていく皆が頭から離れない。
眼の前にミサイルが着弾した。黒片が幾つも突き刺さる。
痛い、痛いよ!
けれど死ねない。
死んでたまるか!!
いつも黒衣の彼が護ってくれた。背を斬られながらも、わたしの盾で居てくれた。きっといつまでも、わたしは一生忘れない!
アリオスに、仮面の騎士に護られてきたこの身体! あなた達に渡すものか!!
涙が鼻を伝う。
チカラが! チカラが欲しいッ!
チカラが無い事を心から憎んだ! 一国の姫でなくとも、友を助けるチカラが欲しかった!
海岸端に止まった1台の『イースター』から、ぽてぽて、と彼女『シャウラ』が飛びだしてくる。
その爪に握られていたのは1本の光り輝くウサギ耳、その光はわたしを観ていた。
選ばれなかった国のお姫様、どうやらアナタは選ばれたようね。
ウサ耳は『シャウラ』に握られながらわたしへ語りかけてくる。光を放ちそれはわたしと重なろうとした。
【ワタシは『ピース・エメルダ』。ヒトの命を守るモノ】
鋼の大群に囲まれながらわたしの体が煌めく。
緑の帯がこの身を包んでいく。その煌めきはわたしを包む鎧となった。
【契約者よ。ワタシに名を示しなさい】
身体から痛みが消えていく。備わるチカラへわたしは名を表した。
わたしはマイア! 黒騎士の守護を受けしモノ! 『ピース・エメルダ』どうかわたしにチカラを貸して!
幾つもの屍を前にわたしは授かった杖(ワンド)を振るう。
チカラ『ピース・エメルダ』は命へ光り灯す為輝き続けた。