アデル

え!?
いけるって……

ユフィ

ロココ!?
戻りなさい!

 10体以上の魔物を感知した後、ロココが一人で前に進み出る。撤退を考えていたユフィにとって、まさかと言える行動だった。

 そしてそのロココを止める間もなく、魔物が闇の中から蠢き現れた。

牛頭の巨人

スケルトンウォーリアー

アサルトボア

レッドスカウト

 様々な武器を駆使してくる骸骨の戦士・スケルトンウォーリアーが6体、一際大きい牛頭の巨人、猪突猛進に突っ込んでくるアサルトボア3体、素早い動きで硬い皮膚を持つレッドスカウト2体。

 事前にコフィンから聞いていた情報だ。特にレッドスカウトは素早く、隙を見せれば後ろにいる味方を襲ってくる事もある。スケルトンウォーリアーの数、アサルトボアの突進力、牛頭の巨人の存在感も六階層初戦にしては危険すぎる。



 ユフィは魔物の姿を確認し、後ろから襲われる可能性を加味しても撤退の判断は変わらなかった。

ユフィ

ロココ!!
下がりなさい!!

ハル

駄目っす!
聞こえてないっすよ!!

 今にも襲い掛かってきそうな魔物達。ハルはロココに声が届いてないと知り、ロココの前に出ようと走る。

 撤退する流れから、本来後衛のロココが敵に一番近く、ハルが前線に出ようとしてロココに駆け寄る。敵を迎え撃つにはパーティとしてバラバラで最悪の状態だ。

ランディ

ロココ何してんだ!?
まだ魔物倒してないし
迷宮の滞在時間も少ないから
魔気は大して溜まってねぇのに。

ダナン

おい!
出るぞ!!
もうやるしかないだろ!

 ダナンがハルを追い掛け前線に向かう。

 だが既に魔物達は、一直線にロココを目指していた。

ロココ

やっぱり出来た……

 ロココの眼前に刻弾が具現化された。



 エンゲージコアに魔気が溜まる条件は、魔物を攻撃するか、迷宮に留まる間に少しずつ溜めていくかのどちらかだ。いくら六階層の魔気が今迄にないほど濃いとはいえ、まだ刻弾は具現化不可能な筈だ。

アデル

な、何故刻弾が……

ランディ

しかも複数個……
小さめだけど
どうなってんだ。

ハル

ロココ……
わわわ、
な、なんか凄いっす。

 真っ先にロココに突進してきたアサルトボアに刻弾が命中したかと思うと、全ての刻弾は相対している魔物に吸い込まれた。



 実際に吸い込まれたわけではないが、そう見えるほど正確で速い着弾だったのだ。



 12体もいた魔物が一瞬で塵と化す。その圧倒的殲滅力に、しばらく誰も声が出ないほどだった。

ハル

な、何すか今の?

ダナン

まったく俺達の理解を
遥かに超えてるぜ。

ランディ

どうやったら
あんなこと出来んだ?
普通有り得ねーだろ。

ロココ

説明しにくいんですが
簡単に言うと
大気中の魔気を集めて
刻弾を作ったって感じです。

ランディ

感じっておい……

アデル

それより大丈夫ですか?
どこにも副作用は
出てませんか?

 小さいとはいえあれだけの刻弾を具現化したロココに、アデルが近づき心配する。

 「大丈夫です」と応えるロココがそれでも心配で、アデルは脈を計ったり顔色をじっくり見ている。

ユフィ

…………、
本当に大丈夫?
まさかそんな事が出来るなんて
思わなかったから
ビックリしたわ。

ロココ

すいませんユフィさん。
皆さんにも心配を
お掛けしました。

ハル

何言ってるっすか。
凄いっすよ、ほんと。
あれだけ強そうな魔物達が
一瞬でなんて凄いっす。

ランディ

で、ほんと
大丈夫なのか?
あんなの聞いた事ねーぞ。

ロココ

四階層くらいから
もう少し魔気が濃ければ
出来るんじゃないかって。
五階層では試すほど
余裕はなかったんです。
で、ここに降りてきて
確信を得ました。
原理原則は分からないですが
絶対に出来るって。

アデル

しかも複数個でした。

ユフィ

それに
魔物を追い掛けていたわ。
あのレッドスカウトは
刻弾を回避しようと
移動していたけど、
それを追尾してたわね。

ハル

そうそうそうそう。
自分は
全然見得てなかったっすけど。

ロココ

ランディさんが
「出来ないって思えば出来ない」
っ言ってたじゃないですか。
出来るって思うところから
始めようとも。
だからそれを見習ったんです。

ランディ

ぉ……

ランディ

そうだった。
やるなロココ。

 ロココとランディがハイタッチをする。

 身長が随分違う二人だが、今はいつもよりロココが大きく見えた。

 探索初期に比べると特にロココは成長した。味方の窮地に震えて何も出来ないでいた。訓練場で出来ていた事すらも出来ずに、情けない自分に泣くことしか出来なかった。



 それでも堪え、そして仲間に支えられ、勇気を貰った。今は仲間にとって心強い存在となってきている。










 ロココはここまでこれた現状に心から感謝していた。







 その感謝の心はロココの中で激しく渦巻いている。そして自分でも分からないほど唐突に、誰にも話さなかった身の上を、目の前の仲間達に話したくなった。

ロココ

あ、あの…………
僕がここに居る理由を
聞いてくれますか。

 ~円章~     129、絶対の確信

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