――冒険者の酒場。
――冒険者の酒場。
六階層?
そんなの雑魚ばっかだろ?
気にするこたぁねーって。
治癒の指輪を受け取った後、ハル達は当然のように酒場で喉を潤す。そして六階層の情報を、呑んだくれていたデメル達に聞いていたのだ。
へ?
そうなんすか?
余裕余裕♪
瞬殺だよ瞬殺。
なぁモロゾフ。
ああん、六階だぁ?
んなもんプチップチッって
順番に潰していくだけだろ。
そーなんすね。
なんか勇気出てきたっす。
駄目だよ二人共。
もうちょとちゃんと
教えてあげないと。
じゃ、なんて言やぁ
いいんだよ。
…………
どうした?
やっぱり雑魚としか
いいようがないな。
なんだそりゃあ。
一緒じゃねぇかぁ。
何の参考にもならないデメル達の話。樽酒をたらふく呑んでるとはいえ、聞いた相手が悪いと言っていいだろう。
あんな奴等に聞いても
何の参考にもならねーだろ。
離れたテーブルで馬鹿笑いしているデメル達を横目に、ランディは樽酒が入った木製ジョッキを一気に傾けていた。
始めからあの人達には
何も期待してないわ。
六階層の情報は
コフィンから聞くつもりよ。
そりゃあ間違いないな。
モロゾフ達も低層に
行ける実力者だけど
あの様子だからな。
コフィン達なら
治癒の指輪のことも
聞けるかな?
そんなに導師と認められる人は
多くなさそうですけど。
確かに。
他の冒険者で導師を
している人がいれば
話を聞けるのですが。
ここに来る奴等に
そんな感じの人は
いそうにないけど。
殆どが五階層までで
日銭稼ぎしてそうな
奴等じゃん。
そう雑談をしながら食事に手を伸ばす。リュウ達は迷宮に長く居たため、テーブルの食事はいつもより多く注文したにも関わらず皿だけになっていた。
ヤッホー。
野郎共、イイ感じに
呑んでるわね♪
おおお~♡
愛しのリア。
席は俺の膝のしか空いて
なさそうだぜ。
眼が悪いんなら
医者紹介しよっか?
俺の眼はリア、
お前しか見えないんだ。
あ~はいはい。
そこのツルツルちゃん
ちょいと開けて。
私はハルの横に座るから。
強引な女だな。
はいよ。
言われるがまま、椅子をずらし、ハルと自分の間にスペースを空けるダナン。そしてずらした先の料理にフォークを向けた。
リアの後ろにはアリスがいて、リュウ達のテーブルに腰を下ろした。
久々っすリア。
今日はアリスと二人っすか?
コフィンは居ないんすね。
あ~、アリスと
いっつも二人でいるから
そう思うわね。
そんなこといいじゃん。
呑んだくれよ~。
リアがテーブルに入ってきて、違う雰囲気で盛り上がり始める。
リアはハルのことがお気に入りのようで、ハルとの距離を近づけている。デメルは苛立ちを抑えきれず、どんなものでも穴が開きそうな眼光でハルを脅していた。
この後、嫉妬と酒でこのテーブルは荒れた。一番の被害者はメシを食いたいだけのダナンといってよかった。
で、お前達、
許可証貰ったみたいだな。
アリスも知ってたんでしょ。
だから救援に向かう時、
私達の見えないとこに
隠れていた。そうよね。
悪い悪い。
まぁ、皆通る道だ。
そんな怖い顔するな。
別に怒ってないわ。
けど、六階層からの
情報は貰えるかしら。
まぁ今のままで挑めば
死人が出る。
間違いなくな。
間違いなく……
そ、そんなに
強い魔物達が……
残念ながらそういうことだ。
明るい口調で死者が出る事実をはっきりと言うアリス。ウェイターが特別扱いで持ってきたクヴェウェマのカップに入ったシェルパティを嗜んでいる。
じゃあ無難に五階層で
もっとお腕を磨いてから
六階層に行ったほうが
いいんだろうな。
はっはっは、
何を言ってる。
ゴチャゴチャ考えずに
さっさと六階層まで行け。
それってアタシ達に死ねって
いってるのと一緒よじゃん。
チンタラやってるくらいなら
死にそうな場所行って
一気に強くなるほうが
早いってこったろ。
そうゆうことだ。
分かってるじゃないか。
そんなもんかな。
死ぬと言われたわりに、リュウはのんびりな返事を返す。リュウらしい返事だ。
アリスさん、
私の他に導師として
冒険者をされている方は
今、おられるのですか?
アデルの質問はこれからの自分にとって重要なもので、自然な疑問を先輩にぶつけたものだった。
アリスは表情を変えないままだったが、シェルパティを飲みかけのままカップ受けに置いた。
今はいない。
そうですか。
もう導師として
活動されてるんですか?
死んだよ。
!!
まだ仲間の死を知らないアデル達は言葉を失った。
先輩のアリスが語るその導師の死は、六階層でのこと。ということは治癒の指輪を授与されてから間もない頃、今のアデル達と同じくらいの時期かもしれない。
死を感じることは何度もあったが、誰も直面していない。それを経験してきたアリスの口からその人物の名が零れた。
「そいつの名はエリス。
私の妹で、
あそこで馬鹿騒ぎしてる奴等と
同じパーティだった女さ」