アリスから妹であるエリスが死んだと聞かさたアデル達。それは導師として治癒の指輪を使えるようになった後の話だそうだ。

アデル

そ、そんな……

ロココ

妹さんが……

フィンクス

…………

 突然、アリスや先輩達の過去を聞かされ、重い雰囲気がテーブルを包む。

アリス

なぁに
ちっちょこばっている。
もう随分と昔の話だ。

 アリスは笑みを漏らしながら明るく振舞っている。いつもどうり曇りのない笑顔だ。

アリス

それにエリスも
覚悟はしていた。
いいんだよ、それで。
お前達も覚悟はしている筈だ。

 アリスの言う覚悟とは、死の覚悟。アデル達にも目的があり、その為に覚悟をしているつもりだ。



 しかし、仲間を失ってそう言えるだろうか。まだ仲間を失った事のないアデル達には、理解が及ばなかった。

アリス

まぁ理解など出来んだろう。
そう思わなきゃ
もたないんだよ、心がな。

シェルナ

アリス……

アリス

と、しんみり言ったが
アイツらだって同じなんだ。
本当に重いものを抱えているのは
アイツらだよ。

 アリスの視線はデメル達のテーブルに向けられていた。



 真剣な話をしているこちらのテーブルとは逆に、馬鹿騒ぎしているのが見える。



 ダナンとモロゾフは一気飲み勝負で、何杯もの麦酒を空にしていた。どちらとも意地でも負けまいと限界以上に飲んでいる。

 底抜けのアホさ加減を前面に押し出したハルが、手羽先肉を数個同時に口に放り込む。アホ面のまま口をモゴモゴさせたかと思うと、骨をぴゅうと吹き出す。次々と骨が連射され、空になっていた木製ジョッキに入っていく。子気味の良いリズムのこの隠し芸は、どう贔屓目に見ても下品極まりない。

 それをアンコールさせようとヴィタメールが手羽先をいくつも追加注文。デメルがリアの前で負けていられないと、手羽先を全部口に入れ骨ごと噛み砕いてみせた。

アリス

同じパーティだったアイツらは
自分達を許していない。
目の前でエリスを失った痛みは
どれだけ馬鹿騒ぎしても
癒えるわけはないんだよ。

 アリスの言葉は誰にも触れることが出来なかった。

 もし誰かを失うようなことがあったら……。何度か危ない場面はあったが、想像するだけで血の気が引いていく。

誰も死んでないみたいだな。

リュウ

!?

 突然、誰も死んでいないと後ろから声がする。懐かしい声色を思い出しながらも、声のする方に視線を移す。

ジュピター

久々。
オイラの席ある?

ユフィ

ジュピター!?

フィンクス

元気そうだな。

ロココ

お久しぶりです。

 次々に声を掛けられるジュピター。それに白い歯を見せ返事していく。ジュピターを知らないランディは、察しているものの眺めていた。

シェルナ

ランディが入る前に
パーティにいた剣士だよ。

ランディ

ランディだ。

ジュピター

オイラ、
ジュピターってんだ。
よろしくな。

ハル

おおおおおおー!!
ジュピター!
久し振りっす♪

ジュピター

よぉハル。
少しは強くなったか?

ハル

ジュピターこそ
爺ちゃんに教えられて
強くなってるんじゃ
ないっすか?

ジュピター

それが……

 言葉を濁すジュピターに、注目が集まる。

ジュピター

ジッちゃんが謎の病気で
教えてもらってないんだ。

ヴィタメール

ジュピターのお爺さんって
あの有名剣士のジンだよね。
剣技『絶糸』を使うっていう。

デメル

親父が言ってたな。
無茶苦茶強ぇーって。

モロゾフ

親父は一緒に戦ったって
言ってたもんな。

ハル

で、ジーチャン
大丈夫なんすか?

ジュピター

心配いらねぇよ、あんなの。
絶対仮病だし。
オイラに教えんのが
面倒なだけだって。

ハル

なんかどこかで
聞いたような話っす。

ジュピター

まぁ、今は
ジッちゃんが纏めて書いた
本を参考にしてんだ。

フィンクス

ジンが纏めた剣技の本!?

ジュピター

言っとくけど
すげー汚い字だから
九割方、何書いてっか
分かんんねーよ。

シャイン

有名剣士ジン直筆の本。
高く売れないかしら。

お!?
ジジイの話出てるん?

 ジュピターを中心に、祖父ジンの話で盛り上がる。その脇から、60前後であろう方言を使う男が声を掛けてきた。

コフィン

誰にでもすぐ話し掛けますね。
私に紹介ぐらいさせて下さい。

 その男の後ろにコフィンの姿があった。どうやらコフィンの知り合いで旧知の者らしい。

コフィン

この方はルグラ。
私達が生まれるずっと前から
迷宮を探索している方です。

ルグラ

おいおいなんちゅー
紹介やねん。
おっさんって
バレてまうやん。

 コフィンに紹介された方言の男はルグラといった。軽口を叩いているが、長年培ってきたであろう自信を感じる。



 ジュピターの祖父をジジイと呼ぶルグラの登場に、ハル達は運命的なものをどこかで感じていた。

~円章~に続く――

 ~湧章~     126、覚悟と痛み

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