【2035年、イバラキ。アリオス・ロージディア】
【2035年、イバラキ。アリオス・ロージディア】
兄『フェイク』の弔いは、私の意志で慎ましく行った。私と『フェイク』には現存する血縁者は居ない。あの場に居た『ココアさん』達と『創先生』が手を合わせてくれた。
彼が遺したものは、破れた黒衣と傷ついた太刀、そして血に塗(まみ)れた仮面だけだった。
どうしようも無い兄の為に皆が泣いた。
小さな『舞愛』さんが兄を慕ってくれた。自身の騎士様だと、私へ話してくれた。
彼は、死ぬ間際でようやく騎士として認められたのだろうか。
……。
……悲しい事だった。
高機動無人飛行機『イースター』でイングリアへ戻り、王(キング)『マーシナル』へ報告する。
兄の死を。そして、兄が死して見つけたマイア様の為の医師を。
ねぇ! アリオス! あのバカまだ戻らないの? 『あんたの好きなチーズケーキ作って待ってるから!』 ってキミから伝えて! また、3人でティータイムと洒落込もうよ♪
マイア様には手術が終わるまで『フェイク』の事を隠した。姫の心身を傷つける可能性を危惧した。マイア様は、何も知らず人懐っこい瞳で私を見、微笑む。
フェイク、どんな顔するかなぁ? 意外に照れたりするのかな? 喜んでくれたりするのかな?
『マイア様』はパンドラの首輪を付け、『フェイク』の事を笑いながら語る。幸せそうな笑みで『マイア様』は空を視ていた。
手術に立ち会ったのは『私』と、恩人である『桜一家』、フェイクの最後を看取ってくれた小さな『舞愛』さんだ。マーシナル王は執務の為立ち会う事は無かった。
術後が良好なら『マイア様』は地球を巡りたいと仰っている。ガイアとの交渉も視野に入れているとの事だ。
手術は、
――恐ろしい早さで結果を残した。
『マイア様』は『市原医師』のチカラで、『完全にパンドラを外すこと』が叶った。
あ、貴女が『マイアさん』? ち、違った! 『マイア姫様』ですか?
マイアでいいよ♪ 貴女の事は『フェイク』から聞いたことがあるの! わたしのお化けかと思ったって! 『フェイク』そう言ってたよ! 初めまして、『ココアちゃん』!
姫と『ココアさん』は貴重な出逢いを経て、旧知のような親しい仲と成った。
術後10日のリハビリにも、『ココアさん』は貴重な休みを使い我らの国『イングリア』へお付き合いくださった。
まるで姫が2人に増えたような心地になった。
『イングリア』の民も皆、姫の快気を悦び祝った。
……『フェイク』、早く帰ってこないかなぁ♪
指を組み、『マイア様』はずっと彼の帰りを待っている。
隠し通す事は、きっと、誰も出来ない。
――――――私はフェイクの死を伝えた。
またまた~、冗談やめてよ!
……。
え、だって、
……。
そ、そんな、……だって、
すみません。姫様。
『マイア様』は今までに見た事の無い歪んだ表情を私へ見せた。
幾日も、ずっとずっと泣いていらした。食事も断ち痩せ細っていく様を、私は見ている事しか出来なかった。
数日後、身体を丸めた『マイア様』が自室で私へ話した。
『フェイク』を愛していた、と。大きな瞳からとても大きな雫を零して。