ドゥーガ―をハルが一人で倒した報告に、刀の教官が困惑した。



 その傍らで、同じ教官のキャロウェイが不機嫌そうに舌打ちを鳴らした。

キャロウェイ

チッ!

ほら言ったろ、
ハル達は大丈夫だって。

 盗賊の砦の情報がなかったユフィ達の緊張感は、一旦の安堵の後、聞き覚えのある声に意識がいく。

リュウ

皆無事で良かった。

シャイン

ヒャッホー♪
一財産じゃん。

ハル

リュウ!?
それに皆も。

 キャロウェイが叩きつけるように複数の金貨をリュウの前に積み上げる。おそらく何かを賭けていたのだろう。シャインがその輝きに飛びつく。






 そう、キャロウェイ以外にリュウ達六人もここに居たのだ。





 ハル達は、取り敢えずリュウ達の無事に胸を撫で下ろす。だが、ことの顛末が全く理解出来ていない。

 もうキャロウェイと刀の教官は、背を向け通路の奥に歩き出す中、リュウが話し始めた。

リュウ

この盗賊の砦は、
訓練場管轄の
最終試練の場みたいだ。

ユフィ

そのようね。
貴方達の救援も偽装。
私達は、まんまと
それに試されたって訳ね。

 ユフィは大方、察しがついているように呆れ口を漏らす。それに続いて、リュウ達から説明があった。

リュウ

俺達は今日、
五階層攻略で
この盗賊の砦に辿り着いた。

フィンクス

まっ、
そんな予定はなかったんだけど
例によってそこのお二人が
ガンガン進んで行くから
着いちゃったわけだな。

シャセツ

こんな階層で
愚図愚図してられるか。

タラト

マモノ、よわい……

シェルナ

やっぱり二人で
殆どやっつけちゃうんだよ。
強すぎなんだよね。

シャイン

まぁ、そんで
気付いたわけじゃん。
ここの奥が一階層と直通で
繋がってることをね。

リュウ

そう、
ここまで来れた者には、
許可証が出されて
六階層までの直通ルートが
解禁されるんだ。

 一階層からの直通ルート…………

 前王の時代に建てられた人類の砦とは、迷宮での最前基地でありながら、短縮ルートの中継点でもあったのだ。

ランディ

なるほどな。
誰でも簡単にここまで
降りれて来れちまうから、
腕試しして
短縮ルートの許可証を
発行してるっつー感じか。

フィンクス

御名答。
それでここに辿り着いた時
あのキャロウェイが現れたんだ。

ユフィ

あいつらならくたばっちまう
とか言われて、
どうせそれで賭けに
なったんでしょう。

シェルナ

それも御名答♪
さぁっすがユフィ。

ダナン

それでお疲れの俺達が
命掛けで来たって訳か。
全く無茶するぜ。

シャセツ

こんな階層で手間取るようなら
先もたかが知れているからな。

ロココ

何にしても良かった。
皆無事で
本当に良かったです。

シャイン

ロココン心配かけたわね。
さぁそれなら戻るじゃん。
ガロンも滅茶苦茶増えて
ほくほくだし。

 ハル達は全員で帰還した。

 短縮ルートは一階層のガーディアンゲートの脇にある隠し通路に繋がっていた。いつも見かける六、七人の衛兵が居て、少し感心したような視線を感じた。多分、短縮ルートで降りる時にはこの衛兵達に許可証を見せるのだろう。

 階段室に着くと生還した実感が身を包む。特に今回は無理をしての救援に臨んだ形になったので、その実感は大きい。

 そんなハル達の前に、見覚えのある男が現れる。

結晶師ニグ

こちらへ。

ハル

グニ!
なんか久しぶりっす。

フィンクス

ニグだって。
加えて言うと
元地獄四天王。

シャイン

なぁに神妙にしちゃって。
訓練場にはすぐ行くわよ。
今回は結構
魔気溜まってるだろうしね。

 シリアスな結晶師ニグを、チキンカクテルレースで一緒に騒いだハル達で茶化す。帰還後は魔気の回収による買取がある為、すぐ隣の訓練場には誰もが向かうものだ。

 なのに迎えるように結晶師がいるのは違和感を感じる。が、すぐに許可証の発行だと気付く者が殆どだった。

 ハル達は魔気の回収を終え、報酬を貰った後、講堂に集められた。

シャイン

予想以上に報酬が♪
キャロウェイから
ふんだくったガロンもあるし
久々に懐が暖かいじゃん。

シェルナ

講堂、すっごく懐かしい。

ロココ

許可証ってどんなもの
なんでしょうね?

ユフィ

やっぱり公式なものだから
刻印や公印されたものでしょう。

タラト

にく……

ダナン

それ言ったら腹減るだろ。
いや、
お前等ずっと食ってないのか。
そりゃ飯食いてぇわな。

 思い思いを口にする中、入口の扉がゆっくりと開かれた。

 結晶師長リーベだ。今日はフードをしておらず、きめ細やかな肌は透き通るように白く、口元は色気を発しながらもそれ以上に上品に見えた。

ただ今から
数ある苦難を乗り越えた証に
許可証の授与を行います。

 やはり、許可証の交付だった。

 相変わらずリーベの声は、抱きしめられるような優しい声で安心してしまう。口々に話していた者達も静かになるのも仕方がなかった。

支導師の名の元に
アデリシア=ブライトマンを
導師と認め
許可証に代わる
治癒の指輪を授与します。

 リーベは自身の事を『支導師』と言い、アデルの事を『導師』と認めると口にした。

 そして許可証とは『治癒の指輪』。導師に与えられる聖ユデア教会の指輪だった。

 ~湧章~     123、合流

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