迷宮の中にある建造物――それは噂される盗賊の砦に他ならないだろう。その入口を前に、ハル達は足を止めていた。
迷宮の中にある建造物――それは噂される盗賊の砦に他ならないだろう。その入口を前に、ハル達は足を止めていた。
これが盗賊の砦……。
入って大丈夫なんでしょうか?
もう一度、座標確認すれば
いいんじゃねーの?
そうね。
ロココここで
シャンディの青石をお願い。
分かりました。
シャンディの青石が光を発する。何度見ても、迷宮内での光は眩いものだ。
やはりこの建造物の中です。
先程の場所から
殆ど動いてません。
マッピングの結果も
やはりここが一番怪しいです。
じゃあ、ここで
間違いねぇな。
どんな罠があるとも
限らないわ。
細心の注意で気を付けて。
りょ~かい~っす。
ならとっとと行くか。
こいつらほんとに
緊張感ねぇな。
怖じることなく入口に入ろうとするダナンとハル。実に頼もしい反面、本当に注意深く行動しているのかと心配に思える。
この先にリュウ達を脅かす何かがある可能性が高い。それを理解しているか怪しい態度に、ランディが厭きれるのも仕方がなかった。
砦の中には灯が並べられており、迷宮の中よりも遥かに明るい。壁面のレリーフも精密で美しくとても迷宮の中にいるとは思えぬほどだ。
で、誰も居ねぇな。
居ねぇっす。
拍子抜けって
思っちまうだろーが、
まだこの先があるぜ。
…………
あっ!?
誰か居たっすよ!!
追い掛けるわよ。
充分気を付けて。
調度、灯の届かない場所から誰かがハル達を見ていて、そのまま奥に姿を消した。
もしかして盗賊……
もしそうならその人達と
戦うのでしょうか……。
人なら言葉が通じるわ。
なら交渉の余地はあるはず。
言葉が通じても
話は通じないかもな。
そうではないことを祈るわ。
先に進み、人影が見えた角を曲がる。
同じ造りの壁面が続いて見え、同じ光景が続く。その奥に先ほどの人影があり、背を向けもう一人の誰かに話し掛けている。
おい、お前等
何こそこそしてやがる。
こっち向きやがれ。
パイセン、
コイツらっすよ。
ああっ!?
きょ、教官……
刀の教官じゃないっすか。
あ、お前か……
ハルが驚いて声をあげたのは、先程の人影が顔見知りだったからだ。訓練場に入りたての頃、刀の訓練がしたくてこの教官に指導をしてもらってたのだ。実際は面倒がられて基礎体力のトレーニングばかりさせられていた。
なぜこの男がここに? 何のために? リュウ達と関係あるのか? そしてもう一人の男にも見覚えがあった。
御覧の通り、いっちょ前に
全員生きてるみたいっすよ。
…………
!?
確かキャロウェイって
教官だったな、毒舌の。
大体話が見えてきたわ。
察しがいいな。
伊達にドゥーガ―から
全員逃げてこれたのも
頷けるってやつか。
ところがどっこい、
あのデカブツはぶっ倒したぜ。
何を冗談言ってんだ。
あんなのお前等に
倒せるわけねーって。
いや、マジだっつーの。
マジか!?
あ、お前さんか。
すげー体格いいし……
俺じゃねーぞ。
ダナンは短い否定のあと、ハルに視線を送る。それを追って、刀の教官も視線を動かしハルを確認する。知った顔に安心したハルはアホ面満開だった。
…………
はぁ!? コイツ!?
冗談きちーって。
もしくは
ただトドメ刺しただけだろ?
いえ、本当に
ハルが一人で倒したんです。
一人で!?
お見せしたいくらい
凄い一撃でした。
一撃で!?
信じがたい表情を隠そうともしない刀の教官は、驚きのあまり暫く愕然とするしかなかった。
やっぱりコイツ異常だ。
ぶっ壊れ性能すぎる。
馬鹿の皮を被ったバケモン。
同じ人間と思うのやめよ。
基礎訓練の時と同じく、いやそれ以上に、ハルは刀の教官に距離を置かれることになった。