【2035年、イングリア。仮面の黒騎士】
【2035年、イングリア。仮面の黒騎士】
ははははあははははは♪
袈裟懸(けさが)けに我が国の民を刃に掛ける。深夜、宮殿へ奇襲を掛けようとしていた奴らに僕が先制の奇襲をかけた。1人、1人、残さず仕留めていく。
あの子に近しい近衛騎士まで裏切るとか、お前らいったい何なんだ?
近衛騎士の『マルコ・サンディオ』が前に立つ。こいつらの中で唯一危険な奴だが、全く以って負ける気がしない。
マイア姫が死ねば! 皆が安心して暮らせるんだ! 爆死する恐怖から逃れられるんだ! あの子が死ねば皆が安心して眠れるんだ!
そうか、じゃあオマエが死んでくれよ♪
数回剣を交えるも『マルコ』が僕に敵う訳が無い。震えた腕を打ち、返す刃で首を払った。
幾人ものイングリアの民が『マイア』を狙いその命を奪おうとする。だから僕はそいつらの心臓をえぐり、眼球を掘り出し、その仲間へと見せつけた。
――1人として逃しはしない。
仮面の騎士! 何故イングリアを救わない! お前もこの国の騎士だろう? こんな残虐な仕打ちを何故平気で行えるんだ!
あ、悪魔め!!
悪態を吐く2人。歩み近づき、その首を刎(は)ねた。
死にたくない、ああぁああ!!
数は知らない。居るモノ全てを葬った。
あはははぁはははは♪
背をのけ反らせ声を零す。『マイア』に反するモノは皆、死ねばいいのだ。
僕があの2人を幸せにするんだ! 誰にもこの刃は止められやしない♪
『マイア』と『アリオス』を汚すモノは皆、肉片となればいい♪
あの2人を! あの2人を!! あははははっはははあ♪
空に映る月は弧を描き僕に微笑みかけた。
※※※
【2035年、イングリア。アリオス・ロージディア】
また死体が? 『二つ足』と共にか……。
僕がもう少し早くたどり着けば助けられたんだが、間に合わなかったよ。
兄、『フェイク・ロージディア』が状況を説明する。争いの地は王宮に近い森の中。幾つもの木々が折れる中、『二つ足』と『15の同胞』が亡くなっていた。
おそらく相打ちだろうな。よっぽど激しい戦いだったんだろうよ。なんせ微塵、ミンチだもんな♪
1人、辛うじて形が残った『イングリアの民』に残された太刀筋、それに見覚えがあった。けれど、それはきっと違う。彼がこの惨劇を行う理由が無い。
昨夜未明の死者は騎士、一般の民を含めて15人。『二つ足』が消え去った光の跡に、無残に打ち捨てられていた。
※※※
【2035年、イバラキ。桜ココア】
あのさ、シャウラちゃん。
あによ。
ちょっと聞いていい?
朝食後のお茶をすするシャウラちゃんに聞いてみる。
シャウラちゃんて何処のヒトなの?
あたし? パラでレルな世界、この世界とは異なる時空からやってきたわ。
シャウラちゃん、私、真面目に聞いてるんだよ?
だからあたしも真面目に答えてるわよ♪
シャウラちゃんは短い手でお椀を置いて、
ぷはー。生き返るわん♪
と、ため息。その後、説明を始めた。
此処とは違う2035年。そこは平和になった『ホーム』の世界。私の父『シュークレン・バッハ』が身寄りのない子供を集めて作り上げた世界よ。
それが私のおじいちゃん、って事?
知らなかったの? 全くのおバカさんね。そしてあたしは父『シュークレン・バッハ』からこの世界を護るよう遣わされた『科学者』なの。
手の爪をぎこちなく組み、ちゃぶ台に肘?を付く。
あの世界から消えた『王留』を求め、使いこなし、物語の主役となるために! ね。
シャウラちゃんはチカラが欲しいの?
そうよ。
と鼻?を鳴らしてシャウラちゃんが物申す。
あたしは、チカラを得てこの本の主人公である『ナユタ』を救いたいの。
なゆた?
彼女がポシェットから出したのは、出会った時に持っていた『あの絵本』だった。
それは誰もが解らない『誰か』。『犬っ子モカと、ナユタの日々』という絵本から消え去った、忘れられてしまった『誰か』なのよ。
いつもふざけている彼女の目は真直ぐに私を視た。
あたしは彼女を見つける為この世界に来たの。
水色の瞳が私へ訴える。
皆が忘れてしまった『その子』をあたしは救いたい。
『シャウラちゃん』は出会って初めて私へ頭を下げた。深く、その背中を無防備に私へと晒して。
ココちゃん、あたしと一緒に戦ってくれない? その、『誰からも忘れられた子』を救う為に!
――私の答えは1つしか無い。私は地に着いた『シャウラちゃん』の手を取り、起こされた顔へ真剣に向き合ったの。