見上げる首の角度は、天井を仰ぎ見るのと変わらない。巨大……、目に飛び込んでくるそれだけの情報でも圧倒される。
見上げる首の角度は、天井を仰ぎ見るのと変わらない。巨大……、目に飛び込んでくるそれだけの情報でも圧倒される。
で、でかすぎっす。
コイツが多分
ドゥーガ―って魔物だ。
あ、情報聞き回ってた時に
聞いた話っすか?
そうだぜ。
五階層で一番危険な魔物らしい。
大型で硬い皮膚を持ち、
並の攻撃は受け付けない。
それに刻弾が命中しても
一発で仕留められないと
聞いたぜ。
こ、刻弾でも倒せない
魔物がいるんですか?
そ、そんな……
直ぐに撤退!!
ユフィの決断は簡潔で早かった。
戦闘が泥沼化してからの撤退と、戦闘が発生する前の撤退では、雲泥の差がある。無論、後者の方が被害は圧倒的に少なくなる。ユフィはそれを決断したのだ。
しかし完全にリスクがなくなるわけではない。迷宮の通路は入り組んでおり、行き止まりに行き着く事や、最悪の場合は引き返した先で新たに魔物と遭遇するかもしれないからだ。
ちっ。
ランディ、我慢して。
悔しいのは分かるけど、
今、私達が倒れるわけには
いかないのよ。
わーってるっつーの。
ダナンを先頭に追い掛けてくるドゥーガ―から遠ざかる。素早い動きが苦手そうなドゥーガ―が段々と遠くなる。念の為、ハルが後方に位置したまま元の通路を進んだ。
そしてもうすぐ。もう少し先に分帰路があるというところで、ダナンの脚が止まった。
ああ、これは!?
イービルブルー
グライバー
イービルブルーとグライバー。四階層にも現れ、ハル達でも充分討伐可能な魔物だが、数が多い。ざっと見た感じでも七体ほどいる。つまりもたもたしていると、ドゥーガ―と挟み撃ちの形になってしまうのだ。
一気に片付ける!!
おおよっ!
ハル、私も仕掛けるわ。
前に出てきて!
既にグライバーの首に切り付けているランディ。ダナンもイービルブルーの一群に突っ込んで、先頭の一体を一撃のもとに粉砕した。
ユフィも前進しながら、一番後方にいるハルにも声を挙げ、短期決戦を促す。
ハル!?
!?
アデルが後方のハルに視線を向けたが、想定していた場所にハルは居なかった。
ち、力が……
ハルがいたのは、遥か後方。ハルの次に後ろにいたアデルも必死で気付かなかったが、随分と離れた場所で立ち止まっている。
あいつ
何やってやがる。
力が……、って……
まさかあの脱力の呪い!?
僻地駐屯兵の憂鬱と呼ばれる呪いの品。稀に脱力してしまう呪いを持ち、ハルはそれを装備してしまって外せなくなってしまったのだ。
ハルは私が助けます!
アデルがハルを助けようと歩を進め始めたが、その足が硬直したように動きを止めた。
あ、ああ・・・・・・
アデルの足を止めさせたのは、遠く離れたハルの向う側にドゥーガーの姿が見えたからだ。しかも、ハルとの距離が思いのほか近い。このままではハルが危険すぎる。
前ではダナンとランディが多数の魔物を相手に戦っている。二人共、二体目を倒したところだが、まだ襲い掛かってきている状態だ。
そしてハルは――
――愛刀・鬼義理に手を掛けることもなく、ただ、ドゥーガ―を見上げていた。