日が落ちてから

真冬の川のように

冷たい雨が降ってきた。



レジーナが

大勢の兵士の前で倒れた事は、

他言無用と口止めされた。



だが軍に広がる動揺と共に、

城下に漏れ伝わるのは

押し止めれぬことだった。

兵士

姫様が早く元気になるよう、
み、皆の思いを込めて
お見舞いをしよう!

兵士

テリーヌ、動揺するな。
姫は『激烈ハイパー切り』の
練習をし過ぎただけだ。

兵士

ナーズ、すまない。
わざと明るく振舞って……
気を遣わせたな。
やはり……
動揺は隠せないようだ。

何人もの兵士が、

レジーナの部屋の前に集まる。



勿論、

レジーナを心配してのことだったが、

近衛兵に面会謝絶と伝えられる。



そしてこれ以降は、

静かに命令を待て

との事だった。

兵士

ラビ隊長補佐殿、
私は少し離れた所で
見ていましたが、
姫は御自身で歩けぬほどの
状態でした。

兵士

やはりそうか……。
心配する気持ちも分かるが、
皆はこれ以上騒がず
自身の任務に当たれ。

兵士

ハッ!

兵は統率を保っていた。



指揮官を失うダメージは

軍に取って最大のものであり

敗北を意味するも同然だ。



だが、幸か不幸か戦闘中でない。

それにまだ重病だと決まった訳でもない。



それが支えとなってか

指揮系統はギュダを中心に

保たれていたのだ。

ギュダ

腕利きの軍医は
姫から片時も離さず配備。
容態の報告は逐一いれさせ、
万全の体勢に整えた。

それに加え、スダルギアに

薬や医療器具の調達を任せてある。



これは事情を知る兵士から

直接スダルギアに話があった結果だ。







皆、レジーナの容態を案じ、

ギュダやスダルギア、

それにガンツに様々な事を質問した。

ガンツ

…………

兵士

ガンツ様。
やっぱり新技の名前
『ウルトラスマッシュ切り』
が良いと思いますよ。
それが一番しっくりきます。
どうでしょう?

ガンツ

ああ……、
そうだな、ブルチズ。
……それがいい。

兵士

…………。
御心労察します。

ガンツ

だが俺に余計な気は遣うな。
心配するなら自分の部下や
城下の市民達に
気を配ってやってくれ。

ガンツの視線の先に、

市民の中に入り

騒ぎ立てている兵士がある。



雨にも負けない明るさで

城下市民を落ち着かせようと

しているのだろう。









それを眺め

ガンツは少し面持ちを緩める。



そして静かに自室に戻っていった。

やはりそれでも暗い影が

レジーナ軍を覆っているようだった。



この夜は雨が降り注いだままで

暗い影を払拭出来ないでいた。



それもそのはず――――

レジーナの容態は、

軍医の見解だと

すぐには回復しないとのことだった。

――翌朝。



伝令からギュダへの第一報は、

明らかに緊張が走っていた。

伝令兵

ギュダ様、
ナバールからの
使者でございます。

敵国ナバールからの使者。



おそらくは勧告、

圧倒的戦力を盾にとった

降伏勧告だろう。



いくら連勝に次ぐ連勝の

レジーナ軍と言えど、

戦力差は覆い隠せない事実だからだ。







ギュダはレジーナの名代として、

使者と会見することになった。

ナバールの使者は

明かりの通りにくい

一室で待っていた。



怖じず扉を開けたギュダの目に

使者の立ち姿が飛び込んでくる。



真っ白な頭髪も含め

全身白の鎧姿は、

見た者の瞳に焼き付き

記憶に刻まれる。



ギュダが入室する前から

それを知っていたかのように

扉に視線を向けて待っていた。

やはり白であるマントが

窓からの風を流し翻る。

誰が見ても一介の使者ではない

その者は、

目を見張るような美しい女性だった。

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