【2035年、イングリア。マイア・リメデッター】
【2035年、イングリア。マイア・リメデッター】
時にガイア獣は王宮にまで歩を進めた。
持った刃を『四つ足』の爪が弾く。振られながらもわたしは剣を構えた。
……。
abijyu!
まだ、あんた等にやられるわけにはいかない!
ABI!
jyu.
gtyu!
ガイアの上級兵士、通称『二つ足』と下級兵士『四つ足』が庭園を闊歩する。その数は、『二つ足』だけでも10を超えた。イングリアの『姫』であるわたしへ襲い掛かる。
突如として黒い空に銀の太刀筋が奔った。
……。
切っ先は立体的に動き、あっという間に6体の『二つ足』を仕留めた。残ったガイア獣を連れその騎士は庭園を出ていく。
……。
……小さい頃から助けてくれる仮面の騎士が今日もわたしの前を去っていく。
わたしを護る仮面の騎士、彼はその正体を明かすことなく、ずっと、ずっと、
――わたしを全てから救ってくれた。それは、
アリオス? キミなの?
※※※
【2035年、イバラキ。桜ココア】
だ、大丈夫?! 今助けるからね!
『親方ぁ! 空から男の人が降ってきたよー!』
という状況に陥ったらキミならどうする?
私は、まず状態を確かめる。軽傷か、危険な状態なのか、その傷を診る。
くっ! み、見るな!!
お父さんに習っていたから応急処置は出来た。
お兄さん、仮面(それ)取らないと治療出来ないよ!
顔を覆う仮面をはがすと、そこに、青いきれいな瞳があった。北欧系のヒトだろうか?
お前、『マイア』じゃない? いったい誰だ?
私、『マイア』ってヒトじゃないよ。とにかく傷見せて!
また『マイア』? いったい、その『マイア』というヒトは何処の誰なんだろう? そんなに私と似ているのかしら?
呆れつつも彼の傷を確認する。腕に2つ、深い切り傷がある。鋭いナニカで斬られた痕だ。
違うならイイや。……好きにしろ。
はいはい。好きにさせていただきますよ、っと。
腕を捲り、背の高い彼を運ぶ。お父さんに気付かれないよう我が家の廊下へ移動する。
傷口を消毒液で洗う。木の床に横たわる腕は肉の切り口を見せていた。
ヒドイ怪我だね。誰にやられたの?
いちいちガキに話すことじゃない。
いいから。もしかしたら雑菌持ってるのとやり合ったかもしれないじゃない!
桶に容れた大量のアルコールで洗う。彼は痛がる様子を見せない。誰もがのたうちまわる行為を、彼は自然に受け入れた。
きっと数多くの怪我を経験してきたんだろう。よくよく見れば、その身体には幾つもの太刀傷がある。
『二つ足』が16体。
なんて?
……だからガキは嫌いなんだ。根掘り葉掘り五月蠅いんだよ。
何か言っていたけどそれどころじゃない。これは縫合が必要だった。
そして彼の体を視て解った。幾つもの傷痕を視て理解した。
背面から受けた傷が多い。もう塞がっていたけど、彼の背には大きな傷が幾つもある。
これはヒトを護って出来た傷だね。
……。
その顔は何も知らぬ私を嘲(あざけ)笑った。
うん。私分かるよ。これでも武道習ってるから。
コンロで焼いてきたナイフで化膿した場所を切り、同じく熱した針で10縫った。我慢したお兄さんを讃え、その背を思い切り叩いてあげる。
お兄さん。悪い顔してるけど、意外に良いヒトなんじゃない!
細けーよ、死ね。
綺麗な布で幾重にも巻いて解放した。
はいはい。これで終わり! 気を付けて帰ってね♪
……。
傷を診てあげたその人は、名も名乗らず夜の道を帰っていった。仮面を手に道の影を歩いていく。何所かで見た事があるような、青い目をした変な男の人だった。