――ユベイル城の一室。

イシュトベルト城攻略。







しかも相手は周辺で最強の軍事力を持つ

ナバールを相手にしてのこと。



その一筋縄ではいかない目標を

如何に達成するかの軍議が

この一室で始まろうとしていた。

レジーナ

本当か?

伝令兵

嘘のような話ですが
どうやら確かなようです。

レジーナ

全く理解が及ばん。

伝令兵の報告を受け、

一人呟くレジーナ。







そこへ誰よりも早く

ギュダが部屋に入って来た。

ギュダ

どうかしましたか?

レジーナ

いやいや何でもないぞ。
私も少し疲れているかも
しれないな。
ケフンケフン。

わざとらしい咳をしてみせたレジーナ。



ギュダはそれを横目に

「また何か企んでおいでか」

と、喉まで出掛かった言葉を

強引に飲み込んだ。

スダルギア

あいつらまだ来てないのか?

部屋に入って来たスダルギアが

開口一番、定刻に

揃っていない者への不満を吐き出した。

ウル

オレはすぐ後ろにいるぞ。

ギュダ

二人共定刻通りだ。
座ってくれ。

軍議の始まる時間に達したが

ガンツの姿はなかった。



時間にうるさいスダルギアは

気分を害しているようだが、

ガンツの様子を衛兵に伺わせる事にして

軍議は始められた。

ウル

その新兵器のことだけど
オレの望む形に仕上がるのは
どれくらい掛かる?

ギュダ

今から用意するとなると
いくらなんでも時間が掛かる。
少なくとも三日は必要だ。

スダルギア

だが、
敵に準備を進められないよう
こちらから仕掛ける……。
その予定だったな。

レジーナ

無論だ。
開戦は早い方がいい。
明後日の早朝……
それを目途に考えてくれ。

ギュダ

姫、スダルギアの働きで
準備は万全です。

レジーナ

うむ。
神速を目指す我等が軍としては
早期決着が望むところだ。
だが、ウルの一手は
並行して進めよ。

ギュダ

分かりました。

日は落ちた…………











ガンツの見上げた空から

気分を映したような

暗い雨が降り注いでいた。

レジーナ軍の情報を流せだと。







ここよりも離れた地で

臆病風に吹かれやがって。

って当然か。





ナバールの軍力は

アイヅガルドとは比べ物にならない。

先々を考えたら降伏論者を

説き伏せる材料がないし、

対抗しうる戦力もない。


どうせ将来降伏するなら

このタイミングがベストだよな。

そう思うと仕方のない決断かもしれない。



アイヅガルド王も

民を護る為の選択をしたにすぎない。



それで俺に密偵となって

レジーナ軍の情報を流せってことか。



























出来るかよ、んなこと……。















……そもそも何で俺はここに居る?



王に命令されたからか?

厄介払いされただけか?

普通に見りゃ

貧乏くじ引かされた立場だ。



それともただ戦場に

身を置きたかっただけか?

武を誇りに

自分の生き場は戦場と決めていたからか。







……いや違う。

違わなくもないが本質は違う。









自分で決めたんだ。



例え王に命令されようが、

気に食わなかったら

俺は間違いなくここにいない。







ここは自分で選んだ場所なんだ。











何故かってそんなもん決まっている。







あの姫さんだからだ。



あの人の下で働きたい。

不忠不義だと罵られようがどうだっていい。

あの姫さんを勝たせてやりてぇんだ。







……だがそうしたら

スリンガー一族は、

裏切り者として当然全員斬首は確実。





俺がくたばろうが

どう言われようが構わない。

自分が選んだ道だからな。

だが、

名門スリンガー一族全員となると

200人以上はいる。

老人含め女子供も容赦ないだろう。







そんな選択、俺に出来るか…………

ガンツに答えは出せなかった。





ただ冷たい雨に打たれることしか

出来ないでいた。




















そして

雲間の隙に星の見えない深夜、

ガンツから一通の手紙が

アイヅガルドへ差し出された。

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