レジーナ

久しいな。
息災だったか。

レジーナが声を掛ける先には、

余裕な面持ちを変えない男がいた。

スダルギア

お嬢ちゃんこそ、
あんな無茶な作戦のわりに
怪我一つなさそうだな。

レジーナ

はっはっは。
その憎まれ口も
健在で何よりだ。

アズール城で戦後処理と

今後の戦力確保に努めていたスダルギアが、

所持万端整えて

このユベイル城に入城してきたのだ。

スダルギア

募兵と軍律の教育に訓練、
それに食料と武器の確保に加え
民の掌握等々。
現段階で可能な限りを尽くし
将来に亘る基盤を整理してきた。

レジーナ

流石はスダルギア。
期待以上の働きは、
予想を超えるものだ。
私より指導者に
向いているのではないか?

ギュダ

何を仰るかと思えば……。
そのような発言は、
士気に関わります。

レジーナ

いやいやそうでもないぞ。
私はスダルギアなら
仕えてやっても良い。

ギュダ

姫っ!?

スダルギア

くっくっく。
相変わらず振り回されているな。
俺が楽して準備出来たのは
お嬢ちゃんの威光を
利用したにすぎん。

ギュダ

貴様、よくもベラベラと……

スダルギア

使えるものは使う。
亡国の姫の名は
使い道が色々で心躍ったものだ。

レジーナ

随分と楽しんだようだな。
私を嫁にするとか
言ってたんじゃないのか。

スダルギア

安心しろ。
それは二回しか使ってない。

レジーナ

ほ、本当か……

ギュダ

貴様は殺す!

スダルギア

ギュダ殿の噂もでっち上げて
兵達の士気を
上げさせて貰ったぞ。

レジーナ

どんな噂だ?

スダルギア

あー見えて、
ぬいぐるみと一緒に寝ている
可愛いとこもある、ってな。

ギュダ

え?

スダルギア

上官の人間味ある一面は
親近感を感じさせれる。
でっちあげても、
兵の士気が上がればよかろう。

ギュダ

ふざけるな貴様!
私の威厳を返せっ!

スダルギア

逆上するとはまさか図星か?

ギュダ

×#※&%■~

レジーナ

スダルギア、
それくらいで許してやれ。

そう言いながらも、

ギュダをからかっているのを

楽しそうに見ているレジーナ。



そのレジーナの後ろから、

涼やかな風と共にガンツが現れた。

ガンツ

よう。

スダルギア

元気そうだな、色男。

ガンツ

おかげさんでな。
準備万端ってところか。

スダルギア

そっちこそ
死ぬ準備でも出来てるのか?
直ぐにでも戦いたい顔してるぜ。

ガンツ

死ぬ準備ね。
そりゃあ忘れてた……

スダルギア

クックック。
それは長生きしそうだな。

ガンツ

が、死は恐れていない。
俺が恐れるのは
この人と思った人の為に
戦えないことだ。
死ぬつもりはないが
死に恐れを抱くことはない。

スダルギア

武人してるねぇ。
そんな武人さんに
祖国から手紙が来てるぜ。

祖国からの手紙、

そんな大切な手紙を

スダルギアは二本の指を伸ばし

回転させて飛ばした。



手紙はシュルシュルと二人の間を飛び

ガンツの首元で受け止められた。

ガンツ

手紙?
誰だ?
あの王さんからか?

スダルギア

俺は知らん。
自分で確認しな。

普段、手紙など貰わないガンツは、

首を傾け不思議そうにしている。

兵士

ガンツ様、
もしや恋人だったり
するんじゃないっすか。

ガンツ

そんなの居ても、
ここに比べりゃ退屈だろ。

兵士

かっけー。
今度、さり気なく
女子の前で言ってみよ。

ガンツ

そういやお前って……

兵士

女子にモテる為に
兵士になったんすよ。

レジーナ

それも立派な理由だ。
生き抜いて活躍すれば
私が見目麗しい娘を
紹介してやろう。

兵士

マジっすか!?
姫、約束っすよ!
ひゃっほーう♪

ガンツ

活躍すればだぞ。

レジーナ

勇気ある姿を
私に語らせてくれよ。

兵士

んか~っ!
俄然やる気が出てきたぁ!
ガンツ様!
俺を先陣に出して下さい!

ガンツ

なんか早死にしそうだから
殿(シンガリ)だな。

兵士

そりゃないっすよぉ~。

ガンツ

生きて帰らなきゃ
意味ないだろ。
お前の結婚式に
俺は出たいんだぜ。

兵士

た……隊長~。
嬉しいこと言ってくれるじゃ
ないっすかぁ~。

 一兵士の感激が城内に響き渡る。

騒がしい兵士はガンツに抱き付き

大袈裟にも泣きじゃくってる。



五月蠅いものを煙たがる表情を

隠そうともしないスダルギアだったが、

部下に慕われているガンツには

微笑ましい視線を少し洩らした。

スダルギアが合流したこの日。

早速、軍議が行われた。



それは深夜まで続いた。



来たる決戦を前に

万全の準備と戦術を

確認していたからだ。

ガンツ

!?

それは経験則にないほど

赤く染まった月の夜だった。















ガンツが手紙を読んだのは

一人、赤い月の下だった。

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