次の日の山奥の家

与兵

……

与兵

……


与兵は目を覚ましました。
  

与兵

朝か?


吾助を待っていたのですが、囲炉裏端で眠ってしまいました。
  

与兵

いま、何時だ?

寝ぼけ眼で身体を起こすと、布団がかかっています。

与兵

かけた覚えがない……

鶴太郎

すぅ……


与兵にぴったり寄り添って鶴太郎が寝ていました。

与兵

こいつがかけたのか?

驚き以外の何物でもありませんでした。

与兵

嫁だなんだと言いながら
何もしないヤツだぞ。


与兵は鶴太郎に布団をかけ直しました。

鶴太郎

ん……


離れた与兵を追うように、ころんと寝がえりをうちます。

与兵

……

与兵

寝顔だけなら
ホントに天使だな……


そんなことを思いながら、与兵は鶴太郎の頭を優しく撫でます。

鶴太郎

すぅ……

与兵

……


与兵は立ち上がりました。

与兵

吾助が帰ってきて、
かけたのかもしれない。

そっちの可能性の方が高い気がしたので、家の中を探しましたが、吾助の姿はありませんでした。

与兵

吾助……
帰ってこなかったんだ。


淋しそうな顔で与兵は思いました。

与兵

……

気を取り直して、与兵は朝ごはんのしたくを始めました。

鶴太郎

……


少しして、鶴太郎が起きました。

鶴太郎

よひょ……

キョロキョロと周囲を見回します。

トントントントン

土間の方からご飯を作る音が聞こえてきます。

鶴太郎

……

ぱっと顔を輝かせ、鶴太郎は急いで土間へ向かいました。

鶴太郎

与兵、おはよう。


土間で野菜を切っていた与兵に言いました。

与兵

おはよう……

鶴太郎も見ずに、それだけ言います。

鶴太郎

吾助は?
帰ってきた?

与兵

帰ってないみたいだな。


一瞬、手を止めましたが、すぐにまた野菜を切ります。

鶴太郎

そっか……


鶴太郎はとても寂しそうです。

与兵

……

与兵

帰ってくるって言ったのに、
帰ってこなかったわけだし……


与兵は自分に言い聞かせます。

鶴太郎

また肉なしのトン汁?

与兵

野菜汁と言え。

もしくは、けんちん汁です。

鶴太郎

肉、ないんだ。

与兵

いや、今日のは
肉が入っているトン汁だ。


そう言って野菜を切ります。

鶴太郎

じゃあ、
野菜汁じゃないじゃん。

与兵

肉なしのトン汁は
野菜汁だということをだな……

鶴太郎

説明したってこと?
そーゆーのはいらないよ。


与兵が言っているのに遮って言いました。

与兵

……

与兵

どうしてこいつは
こうなんだ?


ちょっと頭に来ました。

与兵

寝てた時は
天使みたいだったのに……


ふてくされ気味です。

鶴太郎

お肉あったのに、
昨日は野菜汁だったんだね。

与兵

ああ……
まあな。

与兵

吾助が持ってくる肉の方が
絶対に高いし美味い。

与兵は吾助が持ってくるであろう高級なお肉を鍋に入れるつもりでした。

よく、与兵が吾助に利用される印象を持たれますが、けっこう与兵も利用しています。というか、与兵は吾助に頼りまくりです。

与兵

野菜汁も
うまかっただろ?

鶴太郎

まあ、
味はよかったよ。

与兵

なんだ、その言い方は。
なんか文句でもあるのか?

ちょっと機嫌が悪くなりました。いつも良さそうな顔はしていませんが。

鶴太郎

美味しかったよ。
これ以上ないくらい。


でも、あまりそういう感じが伝わってきません。

与兵

……

鶴太郎

吾助、
今日は帰ってくるかな?


ぽつっとつぶやくように鶴太郎は言いました。

与兵

吾助には吾助の用事があるんだよ。


与兵も自分にそう言い聞かせていました。

与兵

……


そして、相変わらずの仏頂面で野菜を切ります。

鶴太郎

……


鶴太郎は与兵にキュッと抱きつきます。

与兵

こら、危ないだろ。
刃物を持っている時は離れろ。

慌てて手を止め、包丁を置いて言いました。

鶴太郎

吾助も一緒にご飯、
食べれるといいね。

与兵のささくれた気持ちをなだめるように言いました。

与兵

………………

与兵は鶴太郎をじっと見つめます。

鶴太郎

鶴太郎は与兵を見上げました。

与兵

吾助がいた方がいいのか?

鶴太郎

うん。

即答です。

与兵

落ち着け俺、
落ち着くんだ。

とても強く、自分に言い聞かせます。

鶴太郎

ボクも嬉しいけど
与兵も嬉しそうなんだもん。

与兵

……

与兵

俺のためなのか?

鶴太郎

うん

こくんとうなずきました。

与兵

かわいい……

うなずく様子が、感動的に愛らしかったようです。

鶴太郎

鶴太郎は首を傾げます。

与兵

いま、メシ作ってるから
あっちで待ってろ。

囲炉裏端を指し、鶴太郎の頭をなで、優しく言いました。

鶴太郎

ここいちゃダメ?
与兵の近くにいたい。

与兵

刃物とか火とか
使ってるから危ない。

鶴太郎

……さみしい。

与兵

ここは寒いぞ。
囲炉裏で火に当たってろよ。

鶴太郎

与兵がいれば、
寒くない。

破壊的に愛らしい笑顔で言いました。

与兵

ったく。
ホントにもう。

与兵はそう言って、鶴太郎はいろり部屋と土間の間の段のところに座らせました。

与兵

ここならいいだろ?

囲炉裏端よりも、少しは近いです。

鶴太郎

うんっ!

与兵

危ないから
こっちには来るなよ。

鶴太郎

え~。

与兵

お前が怪我したら大変だからな。

鶴太郎

そしたらまた
おぶってくれる?

与兵

だから怪我しようとか
絶対にダメだからな。

怒って強く言います。

鶴太郎

は~い

与兵

寒かったら
囲炉裏端に行くんだぞ。

鶴太郎

行かないよ。
ごはんができるまで、ここで待ってるっ

与兵

……

与兵はそれを聞き、急いでおいしいご飯を作ろうと思いました。

鶴太郎

与兵っ

与兵がご飯を作っていると、鶴太郎が呼んできました。

与兵

なんだ?

鶴太郎

大好きっ

キラキラの笑顔で言いました。

与兵

何言ってんだよ。

与兵は嬉しそうにご飯を作ります。

与兵

町に行って、
吾助にしても大丈夫か聞いてこよう……。

そんな、よこしまなことを考えました。

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