――冒険者の酒場。
――冒険者の酒場。
初めて四階層から帰還したハル達。新メンバーのランディの活躍もあり、誰一人欠けることなく夕食の席に着いていた。
四階くらいなら
まだまだ大丈夫だな。
そうっすね。
どーせなら明日もう五階に
行っちゃうっすか?
それは流石に早いのでは……
只の勢いで
言ってるだけだっつーの。
まぁ、俺は全然いいけどな。
なぁに、馬鹿言ってんのよ。
今日も結構苦戦したし、
まだまだ早いわよ。
確かにそうですね。
せめてもう少し四階層に
慣れてから行くべきかと。
真面目に話すアデルの目に、デザートチェケンの蒸し焼きが運ばれてくるのが映る。台詞とは裏腹に口元からは涎が出ている。
でもあいつら
今日行くかもって言ってたし、
歩調合わすなら早いうちに
考えてた方が良いかもな。
そんなこと言ってたの?
シャセツとタラトが、
四階じゃ物足らないって
言ってるみたいっすよ。
リュウも大変だな。
あの二人を纏め上げるのは。
フィンクスがあまり
やることがないって
言ってました。
それだけあの二人は
強いんでしょうね。
シェルナの医療技術を
使うシーンがないとも
言ってましたね。
私には自信がないわ。
あの二人の手綱を
制御し続けるなんてね。
ユフィが想像しただけで疲労しているのが分かる。今迄、リュウの苦労話を嫌と言うほど聞かされているからだ。その疲労を忘れたいように、ユフィは珍しく麦酒を喉に流し込んだ。
それにしても
ジュピター、
どうしてるっすかね?
お爺様の元で
剣術の修行中なんですよね。
帰って来た時が楽しみです。
…………
ランディさんの前に
ここに居た人です。
もの凄く
剣術に長けた人だったんですよ。
まぁ、
チビでクリクリだったけどな。
そうっす。
それでも強いんすよ。
んで、
今は有名冒険者だった
爺ちゃんにもう一度
剣術を教えて貰いに
帰ってるっす。
ジュピターのことを語るハルは、自分のことのように楽しそうに話す。
『絶糸(ゼッシ)』っていう
凄い剣術を使う冒険者ジン。
その有名な冒険者が
ジュピターの爺ちゃんなんすよ。
ジンの名前は聞いたことあるな。
俺、
ここでウェイターやってたから
色んな情報には詳しいからな。
おおー!
ジンの話で
有名なのとか知ってるっすか?
迷宮探索黎明期の
冒険者だから、
もう一緒に探索した奴は
一握りだろうが、
さっきハルキチが言ってた
『絶糸』って剣技の伝説は
語り継がれてるらしい。
ランディは木製ジョッキを一気に傾け麦酒を飲み干す。粗野な飲み方だが、ランディがすると自然に男前さと美しさを兼ね備えた仕草に映る。
剣が無効な硬い魔物だろうが
実体を持たない魔物でも、
どんな魔物だって
一瞬で倒れる。
糸を絶たれた
操り人形のようにってな。
そ、そんな凄いんすか……
酒場の情報にはいい加減な与太話はいくらでもある。だがランディの話したジュピターの祖父・ジンの話は、確かな筋のものだった。
同じ剣を扱う者にとって伝説となった剣技は惹き付けてやまない。ハルはその剣技を体得したジュピターを想像し勝手に嬉しい気持ちになった。
遅いわ…………
何だよ。
まだ何か注文したのか?
私もデザートの追加注文、
遅いと思ってたのですが……
違うわ。
リュウ達の帰還が
遅すぎるって言ってるのよ。
あ…………
五階層に行くかもと行っていた話を思い出して、ロココは声を失った。
確かに今日の探索は
夕方前の遅くから
出てたよって、
さっきミリーナが言って
いましたが……
それにしても
遅すぎるわ……
いくらリュウさん達が
強いと言っても
あまりにもハイペースなのは
否めない……
おいおいおい、
何が言いてぇんだよ。
五階に挑んで
ヤバいことになってる。
おいっ!
いい加減なこと
言うんじゃねぇぞ!
いや、
それぐらいに思わないと
いけないわ。
直ぐに助けに
行くっすよ!
待ちなさい。
まだそうと決まった
わけじゃないわ。
私達が知らない
五階層に挑むのに、
万全の準備をするべきよ。
そんなこと
言ってる場合じゃないっすよ!
今日、
ハルさんとダナンさん以外が
刻弾を撃っています。
初めての階層で
これは危険すぎます。
だからって、
ハル。
落ち着いて……。
気持ちは一緒よ。
最悪なのは二次被害。
救助に行く俺達が
倒れたんじゃ、
話にならないからな。
結界を張ることが出来れば
その場で救援を待てる。
その状態であることを
信じるしかない……
じゃあ結局
どうすんだ?
ロココ、訓練場から
アレを借りてこれる?
いや、
絶対に借りてきて頂戴。
絶対に借りてきます!
アデルは水薬等の追加購入。
ハルとダナンは出来るだけ
五階層の情報を集めて。
私とランディは、
コフィンや旧知のベテランを
探しながら救助してくれる
人を探すわ。
それを行いつつ
各自の探索準備を万全にして
一時間後、階段室に集合。
わかったっす。
その時にまだ
リュウ達が帰還してなければ
迷いなく救援に向かうわ。
通常、まだ四階層に挑んだばかりのパーティが、五階層に行くには早すぎる。それに疲労もあるしロココが言うように刻弾も撃った状態だ。
その危険を顧みずに救援に向かう。どんなに準備を完全にしても無謀と言わざるを得ない。それを誰もが認識しながら、各自は準備を進めた。
そして一時間後。
コフィン達とも連絡は取れず――――
リュウ達はまだ戻らなかった。