アデル

いけ!!

ダナン

な……

ハル

は、外れた……

ロココ

あ……ああ……

 アデルの放った刻弾は魔物に命中しなかった。



 ユフィの見立て通り、この魔物は再生時に隙が出来るのは確かだ。そしてアデルの刻弾のタイミングも完璧だった。

 だが今迄と違い、ダメージを受けた後に、再生を始めず肉片でのガードを優先したのだ。





 アデルは刻弾の影響か、両脚に力が入らずへたり込む。ユフィの激しい頭痛も止んでおらず、ダナンとランディは触手のダメージが深い状態だ。

ハル

自分が
何とかするっす!

ユフィ

ハル……
駄、目よ。
一旦……退くのよ。

ロココ

ハルさんっ!!
次は僕が撃ちます!

ダナン

ロココ、
連発はやめろ!

ロココ

構いません!
いけますっ!!

 通常時のロココの声量とは比較にならない。刻弾の連発に危険が伴うのは承知の上で、ロココはハルとタイミングを合わせる。

 再生の瞬間を確認した上での刻弾。要求されるのはその速さと正確さ。ハルも一人で再生を強いるほどのダメージが再度要求される連携だ。



 確率は低い。が、もうそれしか頼みの綱は残されていなかった。

ランディ

待てっつーの。

 ランディが起き上がり魔物に正対している。触手からのダメージは酷いが、眼光は輝き刃物の様に鋭い。

ランディ

俺がやる。
ハルキチ、出来るだけあの
邪魔な触手をぶった切んぞ。

ハル

ランディ、
怪我は大丈夫っすか?

ランディ

つまんねーこと気にしてんな。
こんなもん
我慢すりゃいいんだっつーの。

 ダメージがないわけじゃない。身体もハルやダナンほど頑丈ではない。ユフィが危惧していたランディの打たれ強さは、根性という精神論でカバーされていた。

ハル

分かったっすっよ!

ランディ

やるなハルキチ。

 ハルの連撃に続いて、ランディの長剣が触手を切り割く。だがさらに他の触手が傷付いたランディを襲っていた。

くどいっつーの。

 触手に襲われていたランディは、更に魔物に接近し刻弾を使った。



 ゼロ距離とも言えるその近さでは、肉片でのガードは不可能。刻弾を命中させるのは、至近距離での使用が必要不可欠とランディは考えたのだ。

 通常、刻弾を使用するには高度な集中を要する為、ある一定の隙が生まれる。それを接近戦中に同時に行い、連続で行うのは至難の技だ。

 ロココやアデルに出来ないそれを成し遂げたランディは、魔物を倒した後、飄々と長剣を鞘に納めた。

ランディ

雑魚すぎる。

 憎らしいほどの雑魚発言。



 激闘後とは思えない余裕の台詞は、ハル達の緊張を一気に解いた。

ダナン

やりやがったな。
この野郎!

アデル

す、凄い……

ロココ

接近戦しながら
刻弾の集中を行うなんて……

ハル

そんなに凄いことなんすか?

ランディ

大したことねーよ。
今、初めてだけど
やってみたら出来たし。

ダナン

ぶっつけ本番かよ。

ユフィ

って、
そんな簡単なことじゃないわよ。

ランディ

そこだ。
出来ねーと思うから出来ない。
難しいと思うから難しいんだよ。

 パーティリーダーのユフィに自信をもって意見するランディ。



 ユフィはその言葉に気付かされた。自然に自分の心を縛っていた可能性という鎖の存在に。――自分にも目的がある。妹の病の克服方法を必ず見付けること。スッと目を閉じて再確認するころには、刻弾を撃った頭痛は止んでいた。

ユフィ

その通りだわ。
ありがとうランディ。

アデル

魔気を佩かせるというのも
そういえば試したら
出来たと仰ってましたね。

ランディ

ああ。

 脚の痺れもひき、ランディの傷を手当するアデル。コフィンとの決闘時を思い出し質問したのだ。

ロココ

すごい、本当にすごいです。

ランディ

まずは出来ると思う。
そこから始めねーと
出来ることも出来ねーって
ことだな。

ハル

それじゃあ、
あの技使っても
剣がボロボロにならない
ようにも出来るっすね♪

ランディ

お……、おう。
ったりめーだっつーの。

ハル

そうっすね。

 ハルの満面の笑みと言葉は、ランディも気付かざれてなかった可能性を感じさせた。

 ~湧章~     115、可能性の鎖

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