階下から声が聞こえる。
な、何よコイツ! 私にいったい何をさせようっての!
階下から声が聞こえる。
朝から騒がしいわね。明け方に変な夢見ちゃうし一体何なのかしら、
その後、『お前も見たのか?』 という父さんの声が続いた。
喉が詰まるような圧迫感。自室に戻り右手へ手袋を被せる。
怖い。怖い!! 怖いよ!!!
制服を着こんで外へ飛び出す。見渡した路地には、意外にも変化が見受けられない。
歩く数人、皆がスマホを握り辺りを窺っている、ように見えた。
その中で手袋を付けているのは何人居るだろう。寒いし、きっとみんな付けてる!
な、……何で、
何故か? 真冬の今、手袋を付けていたのは、見た限り私だけだった!
お、お前!
ひっ!
喉がひしゃげた声を出す。後ろに男が立っている。飛び退き慌てて逃げた!
迷彩系の服を纏った男、ソイツが追ってくる!
もしかして、コイツが『ルーラー』?
全力で走った! 有難い事に私の方が幾分足は速い! おそらく!
駆けながら思い出した。た、たしか、
【能力者『贄(にえ)』には、どんな殺人も許される!】
はず!
奔りながら制服のポケットを探す。シャーペンが1本在った。心もとないが充分武器に成る!
ま、待て! お前能力者だろ?
来ないで! 来たら殺すわよ!
シャー芯を押し出し構えた!
落ち着けヒナ。落ち着け。私の受けたチカラは、おそらくゴミ能力では無い!
ココはどうにか回避して、誰かから能力を請け負おう! それしか無い! じゃないと誰かに、というかコイツに狩られる!
ま、待て! お前どんな能力を持ってるんだ? 俺はまだ死にたくないんだ!!
アナタいったい誰よ? アナタこそ、此処で死にたくなければ名前と持っている能力を教えなさい!
お、俺は、うお!
ゴミ箱で躓きその男が盛大に汚物をまき散らす。辺りに他のヒトは居ない。一定の距離を取り彼の答えを待った。
俺は、そう、『マチス』! 持っているのは『雷』のチカラだ!
ゴミを纏った『マチス』から近づかれた分、離れる。
……。
額を叩いて頭を回転(まわ)す。
違和感がある。マチスの言動におかしな箇所を見つけた。
こ、これでも信じないか?
顔に付いた残飯を払い『マチス』が手から火花を散らしてみせる。それは陽の中でうっすらと煌めいた。
……。
身構えながらデコを打つ。
……、
考えるのよ! 活路を見つけるのよ『彼方ヒナ』!
そこに、女の子の悲鳴が響いた。思わず振り返る。
……いやっ!
その女の子は悲痛な表情で私の後ろを駆けていた。