ヒナ

な、何よコイツ! 私にいったい何をさせようっての!

 階下から声が聞こえる。

ミキ

朝から騒がしいわね。明け方に変な夢見ちゃうし一体何なのかしら、

 その後、『お前も見たのか?』 という父さんの声が続いた。

 喉が詰まるような圧迫感。自室に戻り右手へ手袋を被せる。



 怖い。怖い!! 怖いよ!!!

 制服を着こんで外へ飛び出す。見渡した路地には、意外にも変化が見受けられない。



 歩く数人、皆がスマホを握り辺りを窺っている、ように見えた。

 その中で手袋を付けているのは何人居るだろう。寒いし、きっとみんな付けてる!

ヒナ

な、……何で、

 何故か? 真冬の今、手袋を付けていたのは、見た限り私だけだった!

マチス

お、お前!

ヒナ

ひっ!

 喉がひしゃげた声を出す。後ろに男が立っている。飛び退き慌てて逃げた!



 迷彩系の服を纏った男、ソイツが追ってくる! 

 もしかして、コイツが『ルーラー』?

 全力で走った! 有難い事に私の方が幾分足は速い! おそらく!



 駆けながら思い出した。た、たしか、

【能力者『贄(にえ)』には、どんな殺人も許される!】

はず!

 奔りながら制服のポケットを探す。シャーペンが1本在った。心もとないが充分武器に成る!

マチス

ま、待て! お前能力者だろ?

ヒナ

来ないで! 来たら殺すわよ!

 シャー芯を押し出し構えた!



 落ち着けヒナ。落ち着け。私の受けたチカラは、おそらくゴミ能力では無い!

 ココはどうにか回避して、誰かから能力を請け負おう! それしか無い! じゃないと誰かに、というかコイツに狩られる!

マチス

ま、待て! お前どんな能力を持ってるんだ? 俺はまだ死にたくないんだ!!

ヒナ

アナタいったい誰よ? アナタこそ、此処で死にたくなければ名前と持っている能力を教えなさい!

マチス

お、俺は、うお!

 ゴミ箱で躓きその男が盛大に汚物をまき散らす。辺りに他のヒトは居ない。一定の距離を取り彼の答えを待った。

マチス

俺は、そう、『マチス』! 持っているのは『雷』のチカラだ!

 ゴミを纏った『マチス』から近づかれた分、離れる。

ヒナ

……。

 額を叩いて頭を回転(まわ)す。

 違和感がある。マチスの言動におかしな箇所を見つけた。

マチス

こ、これでも信じないか?

 顔に付いた残飯を払い『マチス』が手から火花を散らしてみせる。それは陽の中でうっすらと煌めいた。

ヒナ

……。

 身構えながらデコを打つ。

ヒナ

……、

 考えるのよ! 活路を見つけるのよ『彼方ヒナ』!

 そこに、女の子の悲鳴が響いた。思わず振り返る。

フミ

……いやっ!

 その女の子は悲痛な表情で私の後ろを駆けていた。

【第2話】第1の能力者。

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